第3話(3/6)

 正直、何もかも自分より優れている人間と、同じ立場で同じ方向に向かって行動するのは難しい。

 後輩が上となればなおさらだ。


 もちろんそれを高いコミュニケーション力をもって上手く誤魔化すことは出来るだろうが、藤和にそれは難しいだろう。


「藤和さんは完璧過ぎるんだよな」

「そんなそんな……」

「ですね。……可愛いですし」

「そんなそんな……」

「まぁ、何か弱味を見せれればいいと思うんだが」

「ですねぇ……」

「姫宮だったらどうする?」

 まずは同じ一年生である姫宮の意見を仰ぐ。


「うーん……弱味を見せるのとは違いますけど、ヒナだったらお菓子作って差し入れますかねぇ」

「あ、それいいかもなー」

「やっぱ後輩女子といえば手作りお菓子ですし」

「何そのセット」

「後輩女子! 手作り菓子! 韻踏んでる!」

 姫宮はYO! と三本指を立て、リズミカルに歌い上げる。


「まぁラップ的な要素はさておいて、差し入れとかいいかもしれないな」

「うーん……確かにいいと思うんですけど、私料理は得意じゃなくて……」


 ちょうどよく弱味は見つかったが、学校じゃ家庭科の授業まで見せる機会がなさそうだな。それも同級生だけだし。


「まぁ手作りじゃなくてもいいんじゃないか?」

「あ、それならやりました。ゴールデンウィークに家族で旅行に行ったので、そのお土産を」

「おー。どうだった?」


 すると藤和は遠い目をして言った。


「他にも持ってきてる人がいて、まとめてテーブルに置くことになりました……」

「あぁ……」


 確かにゴールデンウィークなんて至るところで旅行に行ってるだろう。現に我が家も近場だが遊びに行っている。

 もう一度お土産と偽って、適当にお菓子を用意する手もあるけど、渡す理由が難しいだろう。話題作りのためにも用意するのだから、嘘だとそこから話を広げられない。


「「うーむ……」」

 姫宮と揃って首を傾げる。


「先輩に取り入られる方法……」

 その通りだけど言い方よ。


「袖の下?」

「おい」

 一番したらダメな発想だろ。


「うーん、センパイ的には、どんな後輩が声掛けやすいですか?」

「そうだな……。普通に明るいやつとか? まぁこれは後輩関係ないか。あとは教えることがあるとか?」


 やばい全然出てこない。思えば、今の俺に後輩は姫宮一人しかいないわけだ。中学もそう多かった訳じゃない。……あれ? 今更だけど俺、理想の後輩を教えるのに向いてないのでは?

 とはいえ一応指導していくと決めたわけなので、なんとか捻り出す。


「……あー、あれだ。あんまり同級生で群れてるとこには話し掛けにくいかも」

「あ、それなら出来てます。ほぼ一人です!」

 藤和、そこは喜ぶところじゃないと思う。


「まぁ藤和さんは良いやつそうだし、きっかけさえあれば後は上手く転がってくと思うんだよな」

「ありがとうございます……」

「センパイが口説いて」

「ない」


 姫宮を軽くあしらったその時、部室が眩い閃光に包まれた。


「うぉ!」

「きゃぁっ!!」


 数秒遅れて、地を割るような大きな音がした。雷だ。

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