最近妹がグイグイくるんだけど、どうするべきか教えてくれ~お姉ちゃんっ子の域を超えてる説~

星乃森(旧:百合ノ森)

第1話 お姉ちゃんと同じ学校なんだから嬉しいよね

「お姉ちゃ~ん!!おっはよー!」

「のわぁっ!」


 台所から、ツインテールの子がトタトタと駆けてくる。

 多くの人が布団に戻りたくなるだろう早朝に、タックルの勢いで抱きついてきたのは愛すべき我が妹――大神理央である。

 縛った髪を上に下に揺らしながら抱きついてくる理央の姿は、SNSなんかで見かける元気な子犬のようだった。


「お、おはよ……まだ7時だっていうのに理央は元気だね」

「それはそうだよ!わたしも中学1年生。お姉ちゃんがいる清蘭学園の生徒だもん!だからおめでとうのチューを――」

「待った。それは昨日の入学式の前にもやったよね?」


 自分で言うのもなんだけど、私は運動も勉強もそれなりに良い成績を取っていると思う。この前の高等部進学後実力テストだって、二百人中十位以内に入るくらいには点数が取れたのだから

 だけど、そんな成績じゃ測れないこともあるようで。最近たまに妹のことがわからなくなる。


「仕方ないなぁ~。でもほら、わたしの制服姿!“可愛いのチュー“したくなっちゃった?」

「可愛いのチューって何!?」


 私の疑問をよそに、理央が腕を広げてその場で一、二、三回転。なぜ三周もした。スカートの裾が持ち上がってドキっとする。まぁおニューの制服を見せたい気持ちはわからないでもないけど。私も中等部に入学した頃は嬉しくてはしゃいだものだし。

 パリッとした新品のジャケットに赤い紐リボン、皺一つないスカートがとてもよく似合っている。新一年生の初々しさがありありと感じられる。


「むむっ。その気にならないなら、高校生用の制服がめちゃイケなお姉ちゃんに逆にわたしから“イケイケのチュー“を――」

「何そのバリエーション!てか時間なくなっちゃうから!」

「お姉ちゃんが家出るのって七時五十分くらいだっけ?ご飯はできてるよ~」

「あー……ごめん、今日も作らせちゃって」

「気にしないで!お姉ちゃんに食べてもらうためだけに作ってるんだから!」


 日常と化した(?)やり取りはさておき、食卓に並べられた品の数々を見る。レタスにプチトマトときゅうりを乗せたサラダに、綺麗な円形を成す目玉焼き、そしてバターが染み込んだ厚切りトースト。デザートにはアサイーボウルまで用意されている。

 自分だって学校の準備があるだろうに……。


「昨日は一緒に行けなかったけど、今日からは行けるもんね!そう思ったらご飯を手抜きになんてできないよー」


 あぁそういえば、中等部と高等部じゃ登校時間が違ったのか。うちの学校は人数が多いから行事の時は時間をずらしていて、その影響で理央は私と登校できなかったんだっけ。

 何がそう思ったら、なのかは謎だけど。


「理央のご飯は手抜きでもそうでなくても美味しいよ。ん、今日も美味しい」


 妹に感謝しつつ、冷めないうちにトーストをかじる。外はサクッ、中はモッチリしていながら余計な水分がないという、何枚でも食べられそうな出来だった。

 サラダもシャキシャキしていて、商品として売れそうなくらい。

 今日も変わらず理央のご飯は美味しい。


「ごちそうさまでした。食器は洗っておくから、出るまでゆっくりしなよ」

「え~、皿洗いくらいやるよ?」

「いやそれは私の台詞だよ。妹に全部押し付けちゃうのは姉として、ね」

「何を言いますお姉ちゃん!私の分担は私のもの、お姉ちゃんの分担も私のもの!」


 妹作の朝食をたいらげて、洗い物をするべくシンクの前に立つと、理央がよくわからないことを言い出した。


「全て理央の分担じゃないか!というかそれは分担とは言わないよ!ほら、いいからあんたはテレビでも観てなさい」

「お姉ちゃんがそういうならー」


 食べるだけ食べて何もしないというのは、本人は気にせずとも私が気にするのだ。理央の腕を引っ張り、強制的にソファーに座らせる。再び何か言い出す前に洗ってしまおう。

 それほど多くないお皿たちをすぐに洗い終え、水道のレバーを戻す。


「さぁお姉ちゃん!食器洗いが終わったなら行こう!」

「はいはい」


 体育座りでテレビを観ていた理央が、水を止める音に反応して立ち上った。本当に子犬みたいだな。

 時計を見ると時刻は七時四十分。そろそろ家を出る時間だ。

 食器を棚に戻し、二人並んで歯磨きをし、自室にある鞄を取って準備完了。


「じゃあ行くよ」

「はいはーい!」


 私がそう言うと、新一年生になった喜びだけではない笑顔を向けてくるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る