第9話 新たな居場所

「あの、少しお聞きしてもよろしいですか?」

さっき話しかけてくれた青年が彩恵の方に振り向いた。黒いマスクから一瞬その通った鼻筋が透けていた。

「なんだ?」

その一言が耳を通って全身を震わせた時、自分はここ最近ずっと年の近い異性と話す事がなかったのを思い出させた。

「みなさんはどのような目的でティアーバカダと戦われているのですか?」

「教育改革。」

「えっ?」

てっきり進力図書の業務妨害の為だけに活動しているのかと思っていたので、聞き返してしまった。そこにレッドが入ってきた。

「ああ、俺たち一応大学教授に依頼されて、今の子供達を取り巻く環境をよりよくする活動を行なっているんだ。俺まだ高二だけど。」

「元々は私が彼女の生徒の一人だった事がきっかけだけどね。」

「でもあんた、さっきの発言なかなか感動させたから。うちらの仲間になって欲しいくらいだし。」

「確かに君の能力は、今後手強い敵が現れた時に心強いね。」

グリーンが弟の発言に付け足し、イエローは彩恵の前に仁王立ち。ホワイトは少し離れたところで確かに話を聞いていた。

「お前がいなかったら、きっと俺らやられていたし、子供達も助からなかった。お前のその力、絶対にもっといい使い方があるはず。傷付いた人々を癒す、正義にならねえか?」

ブラックが彼女を見つめながらあまりにも力強く誘ってくるから、彩恵は仰け反ってしまった。


怖い。こんなに自分を求めている人がいるなんて。あまりにも突然の褒め言葉の嵐に、さっきの意気込みは弱さを増し、不安が強く流れ込む。仲間とはいえ、どうせ自分は1つの道具だ。誰かを助けるためだけに自分を使う。彼らの誘いも結局は進力図書と同じで、都合よく使われて最終的には要らないと言われて捨てられるだけに決まっている。突然の衝動に駆られ、結局私はまた同じことを繰り返す。それは嫌。

その戸惑いを察知したのか、ブラックは続けた。

「もし俺らがお前を裏切ったら、その時は煮るなり焼くなり、好きにすれば良い。ただ今のお前を、俺らは気に入っただけだ。」

「もう、灯は素直じゃないんだからぁ。」

「でもこれで、あなたは一人じゃなくなったよ。」

ああ、その一言一言が、私を、私を_。


「あのね、私_」息を吸う。そして吐く。


「私、誰かに助けてもらうのは恥だとずっと思ってたの。でも今日、ここであなた達が私を守ってくれた。子供達も応援してくれた。だからこその勝利だと考えてる。そう、もし私をこれからも守ってくれるなら、よろしくお願いします。」

突然の丁寧なお願いに、灯達5人はお互いを見合わせたが、深く頷いた。


「畠田灯だ。よろしく。」マスク越しのはにかんだ笑みを、彼は彩恵に見せた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ジェイ、上司を裏切る パンケーキに相応しいシロップはハチミツ。 @panketsu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ