第5話 お嬢様と乙女ゲームの世界

 お誕生日パーティーから一週間経った。


 パーティーのその後?

 それはもう、びっくりするぐらい大騒ぎになった。

 シュトレ王子は、既に決まっていたリリアナちゃんとの婚約を破棄して、私と婚約すると宣言。

 それも、パーティー会場に沢山の貴族がいる前で。


 子供とはいえ、王族の言葉だから、子供の戯言として簡単には取り消せない。

 別に王子を怒らせるつもりはなかったんだけど。

 リリアナちゃんと会話に夢中になったのがいけなかったのかなぁ。

 でもあれだよね。

 嫌がらせで婚約とか何考えてるんだろう、あのおバカ王子。

 

 お父様は、あれから王宮に呼ばれてまだ帰ってきていない。



「はぁ~」


 とりあえず、私にできることはないみたいなので。

 ベッドでごろごろしている。

 大好きな小説の悪役令嬢ものに少し似てる気もするんだけど、現実に起こるとかなり怖いね、これ。

 それに、この場合、最後にざまぁされる悪役令嬢ポジって私じゃん。


 ここファルシア王国は、北東西の三方を山脈に囲まれ、南側には海が広がる緑豊かな国。

 現在、王国には二人の王子と一人の王女がおり、シュトレ・グランドールは第一王子。

 当然、王位継承権、第一位だ。


 婚約なんて、本人同士、ましてや王子の一言で簡単に決められる話じゃない。

 

 うーん。でも。

 第一王子、シュトレ・グランドールに。

 公爵令嬢、リリアナ・セントワーグ。

 

 どこかで聞いたことある名前なんだよねー。

 ごろごろごろ。


 それと、ファルシア王国………。


 ん?

 んん?


 …………。


 ……そうだ、知ってるよ。

 というか、思い出した!


 前世で、妹がやっていた乙女ゲーム。

 『ファルシアの星乙女』だ!

  


**********


『ファルシアの星乙女』


 主人公は、異世界から召喚された少女。

 流れ星の数が減り続ける世界で、彼女は星乙女として戦うことを運命づけられる。

 流れ星は、この世界の魔力の源。

 もし星が流れなくなると、世界中で魔法が使えなくなってしまう。


 星乙女は、王国が設立した学園に通いながら、さまざまな恋と冒険を繰り広げることになる。


 学園生活では、恋愛パートナーとなる四人の攻略対象とのアドベンチャーモード。


 第一王子 …… シュトレ・グランドール

 第二王子 …… ガトー・グランドール

 宰相の息子 …… グラウス・ミューゼンバーグ

 騎士団長の息子 …… ティル・レインハート

 乙女は、学園の様々なイベントを通して、四人の内の誰かと(または全員と)恋仲となる。


 戦闘パートでは、魔法で動くロボットのような鎧「魔星鎧スターアーマー」を使って、モンスターと戦う。

 

 また、星乙女には、恋のライバルになるキャラが複数設定されている。


 なかでも有名なのが、公爵令嬢「リリアナ・セントワーグ」。

 金髪で縦ロールの、典型的な悪役令嬢キャラだ。

 第一王子の婚約者でもある彼女は、高飛車で傲慢、親の権力と婚約者の立場を利用してやりたい放題。

 攻略対象に近づく乙女に対し、様々な嫌がらせを行ってくる。


 そして、彼女に常に付き従っている召使のような存在が、伯爵子息「クレナ・ハルセルト」。



**********


 妹がプレーしてた内容を思い出しながら、ゲームの内容をメモしてみたけど。

 なんだろう。この世界と微妙に違っている気がする。


 第一王子は、ゲームのようなすらっとしたイケメン王子ではなく、ちょっと残念なおバカキャラだったし。

 リリアナちゃんも、縦ロールではなかったし、「おほほほほ」なんて笑ってない。

 おまけに、つい先日婚約破棄騒ぎになっている。

 ……まだゲームスタート前の子供時代だから?


 それに、クレナ。


「伯爵子息」ってどういうこと?!

 私、現在進行形で、伯爵令嬢やってますけど!


 ……なんだろう、この違和感。

 

 考えよう。

 こういうとき、私の大好きなラノベで、異世界に転生した主人公達は何をしてたっけ。

 えーと。

 そうだ! 図書館やら家の書物庫やらに行って、本当にゲームと同一世界なのか調べてたんだ。


 うん、たまたま偶然、名前が一致しただけのかもしれないし。

 

 幸いウチの書物庫は大きいし、あそこなら何かわかるかもしれない。

 よーし、書物庫に行ってみよう。


「セーラ、お願い手伝って!」


 ベッドから飛び起きた私は、セーラを伴って書物庫に向かった。

 

 

**********



 書物庫に到着した私は、異世界物語の主人公的な気分で、本棚の前で腕組みした。

 うん、これぞ異世界生活の始まりって感じがする!


 ここで、世界の秘密なんかも見つかるかもしれない。

 魔法の本があってすごいスキルを手に入れちゃうなんて話もあったよね。

 さて、どの書物から読もうかな!

 

 本棚をざっと見渡して。

 


 ……。


 ……。


 そういえば、こんな難しい本の文字読めないよ、私!


「お嬢様、わ、わたくしがお読みしましょうか?」


 セーラが心配そうに声をかけくれたけど。


 背表紙すらほとんど読めないから、どれを選んでいいのかわからなかった。

 がっかり。



 で、結局、セーラと一緒にお屋敷中の人に色々聞いてみたんだけど。

 

 王国や周辺の国のことも、知っている限りの地名や地形も。

 ゲームの中の登場人物の名前も、星乙女の伝説も。

 全部、私の知っている『ファルシアの星乙女』と一致していた。


 再び部屋に戻った私は、やっぱりベッドの上でごろごろ。


 うーん。

 うーん。


 やっぱり、ここはゲームの中の世界なのかな?

 完全に違うのは、クレナの性別くらいだ。

 

 ……私が転生者だから?


 ごろごろと悩んでたら、いつの間にか意識が遠くなっていった。

   

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