それでも魔女は毒を飲む

青瓢箪

それでも魔女は毒を飲む 1

 昔、大変美しい魔女がおりました。

 つややかな黒髪は滝のように流れ、白い肌は滑らか、黒衣で覆われた身体はしなやかで豊満で優美でその美しさは隠せるものではなく、特にその漆黒の瞳のまなざしといったら、見つめられたものは感激のあまり失神するか失禁するかといった具合でした。

 神様より美しかったかもしれません。

 それに加えて、その魔女には神にはない、ダダ洩れの色香というものも備わっていました。

 つまり、男の心をとろかすために生まれてきたような女でした。


 男という男のだれもがその美しい魔女を欲しがりました。

 人間、エルフ、ドワーフ、ユニコーン、ドラゴンといった異種族まで、その魔女に恋い焦がれ、自分の子供をその魔女に産ませようとしました。そのため、魔女は常に自身の純潔を狙われ、その貞操を守るために必死で逃げたり、抵抗しなければなりませんでした。


 人間の王子

「おお、いと美しき人。どうか、わが妃になってください。私と一緒にこの国を治めて、未来永劫に幸せに暮らしましょうぞ。あなたとならば、さぞ賢明で美しい王子が生まれるにちがいありません」


 ドワーフ

「べっぴんの姉ちゃん、おらのところにきたら、苦労はさせねえって何度もいってるっちゃ。子づくりだけ励めば、あとはなあんにもしなくていいようにしてやっから。宝石は好きなだけ掘ってやるし、おらの親戚、みんなこき使っていいべ。左うちわでくらせるようにしてやるっちゃ」


 同じ目線で魔女に恋い焦がれる者はマシでした。


 エルフ 「おお、愛しの魔女よ。光栄に思え、今こそ、我の子供を産ませてあげようぞ。さあさあさあ。服を脱げ。ありがたいだろう。さあさあさあ」


 上から目線でも言葉が通じる者はまだマシなほうでした。



 ドラゴン 「$%&`}:\$#\@:!]

 ユニコーン 「ヒヒンヒンヒン! ハッ、ハッ、ハッ!」

 スライム ぬめぬめぬめ。ぷるぷるぷる。ろろろろろろ。


 火を吐かれたり、猛烈にマスキングされたり、はいのぼられるのも日常茶飯事でした。


「ダメ! 女の子の大切なものをあなたたちなんかにあげない!」


 魔女は決めておりました。

 いつか自分を本当に愛してくれるただ一人のすばらしい男性とだけ、結ばれ、添い遂げるのだと。その相手が現れるまで、自分の貞操を守り抜くと。

 水気たっぷりの容姿でしたが、意外に魔女は乙女のようにウブで少女のように清純な心をもっていたのです。


 自身の純潔を賭けた命がけの毎日の攻防にすっかり嫌気がさした魔女は、ある日、いいことを思いつきました。

 飲めばたちどころにものすごく醜くなる毒。それを飲むことにしたのです。


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