マークⅣ(1917)戦車

爆撃project

マークⅣ(1917)戦車

 第一次世界大戦当時における戦車の役割は、塹壕と、機関銃の火力によって硬直した前線を突破することである。そのため超壕能力(塹壕を乗り越える力)と、機関銃に対する防御力が重視された。英国で開発された世界初の戦車であるマークⅠは、その条件を最低限満たしていた。しかし機械的信頼性が低く、故障率は高かった。また装甲は防弾性能に優れておらず、戦車の登場を受けてドイツ軍歩兵に供給されたK弾(注1)によって容易に破壊された。

 こうした戦訓を踏まえて、マークⅡ、マークⅢと改良が続けられて誕生したのが、前期菱形戦車の集大成、「マークⅣ(MK.Ⅳ)」だった。

 英国で開発されたマークⅣは、史上初の量産型戦車である。1916年10月には設計が開始され、1917年3月には生産が開始された。雄型(メイル)と雌型(フェメイル)が2:3の割合で生産され、合計で1,015両が完成した。


マークⅣ戦車の基礎情報は、以下の通りになっている。


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全長: 8.047m【文献によっては8.08m】

全幅: 4.115m (メイル) 3.02m (フェメイル)

全高: 2.49m (文献によっては2.46m)

全備重量: 28.0t (メイル) 27.0t (フェメイル)

乗員: 8名

エンジン: フォスター・ダイムラー 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン

最大出力: 105hp /1,000rpm〈78.2kW〉(前期) 125hp /1,000rpm〈93.2kW〉(後期)

出力重量比(注2): 3.75hp/t(前期メイル) 3.88hp/t(前期フェメイル) 4.46hp/t(後期メイル) 4.63hp/t(後期フェメイル)

最大速度: 5.95km/h

航続距離: 72km【文献によっては56.3km】

武装: 23口径6ポンド戦車砲×2(雄型)(332発)

    7.7mmヴィッカーズ重機関銃×4(雌型)(7,840発)【文献によってはルイス .303(7.7mm)空冷式軽機関銃×5(雌型)】

    7.7mmルイス軽機関銃または7.7mmオチキスM1914重機関銃×4 (6,272発)

装甲厚:  6~16mm(後に強化され、車体前面16mm 側面12mm)

(履帯幅: 50.8cm

超壕能力: 3.5m)


 マークⅣの設計目的は、硬直した前線の突破である。立ちはだかる障害を破壊し、乗り越え、前進しなければならない。歩兵の進む道をこじ開ける事が任務だ。


・火力

 雄型マークⅣの火力は、雄型マークⅠに劣る。というのも、手法の口径(この場合は砲身長又は口径長)が40口径から23口径となっているからだ。しかし実戦における運用能力は向上した。長すぎる砲は取り回しが悪く、地面との接触により故障するリスクも高かったからだ。そもそも対戦車戦闘が想定されていなかった(砲や機関銃陣地が攻撃目標)ため、過剰な貫徹力は不必要だった。ただしこの選択は、後知恵になるが、結果的には失敗ともなった。いや、砲の貫徹力の問題というよりは、対戦車用徹甲弾を装備していなかったことがわずかながら問題となったのだ。ドイツ戦車A7Vとの間で生起した史上初の戦車戦において、直撃弾を出しながら敵を撃破出来なかったのである。

 対歩兵武装である軽機関銃は米国で開発され、英国や採用したルイス軽機関銃(注3)を採用した。特段優れた性能というわけではなく、故障も少なくなかったが、機械不良の多かった当時の軽機関銃の中では優れていた。フランスのショーシャ軽機関銃よりは間違いなくマシだった。とはいえ後にオチキス重機関銃に戻されているため、車載機銃としてはやはり、重機関銃が適当なのだろう。


・機動力

 本戦車の目的は、あくまで戦線の突破であり、戦果の拡張までには及んでいなかった。いや、及ばせることができなかったと言うべきかもしれない。大型で重いために、高出力の直列6気筒液冷エンジンを以てなお、人の駆け足程度の速度しか出せなかった。参考までに、第二次世界大戦当初における日本の主力戦車の一つ、八九式戦車の出力重量比は9.2hp/tである。時速は25km/hとお世辞にも速度が出るとは言えない戦車と比してもこれなのだ。第一次世界大戦時の大型戦車に共通して言えることだが、速度性能に関しては優秀とは言い難かった。

 問題は走破性能である。当時の戦車に立ちはだかる障害物は、塹壕、塀、泥濘、地雷、鉄条網など様々だった。特に第一次世界大戦では砲撃が盛んであったために、戦場が砲撃によるクレーターだらけということも多かっただろう。前線を突破するためには速度よりも、これらを乗り越える走破性こそが重要であった。この点他の菱形戦車と同等、側面全体が履帯に囲われており、長さが十分だったために、超壕幅は十分だったと推測される。平行四辺形の形状から超堤高(壁を乗り越える力)も必要十分だったであろう。なお砲兵に耕された泥濘を走破するだけの力はなかった。よって効果的な運用には戦場を選ぶこととなるが、これは戦車という兵器そのものの特徴であろう。

 またあまり使用されなかったものの、一応超壕能力を高めるために大型尾輪(ステアリングホイール)を追加することが可能であった。更に軟弱地にハマった時の脱出用角材を取り付けられるレールが車体上部後方に設置された。

 なお航続距離に関しては、72kmだとしたら東端ドーバー海峡を往復できる程度、56kmだとしたらアムステルダムからロッテルダムまで真っ直ぐ行ける程度である。前線を突破した後に別の役割をこなすには短すぎただろう。



・防御力

 この戦車が開発された理由として恐らく最大のものが、防御力の改善である。ソンムの戦いにマークⅠが投入されて以降、ドイツ軍は対戦車戦闘に力を入れた。K弾の支給、集束手榴弾(ゲバラトラードゥンク)などがその代表だ。

 戦車が歩兵に易々と撃破されるようでは、ただの棺桶と変わらない。そこで装甲を防弾鋼板とし、K弾を跳ね返せるようになった。これが後に、ドイツで世界初の対戦車ライフルが開発される理由となる。

 防御面での改善はそれだけでは無い。これまでは車内に配置されていた燃料タンクを車体後部外側に移動し、装甲板で囲うことで安全性を高めつつ車内容量を広げた。当時の内燃機関はもっぱらガソリンで動くため、燃料タンクへの被弾は大きなダメージとなったことを考えれば賢明である。(なおエンジンは車内中央右側にある。)


・運用の容易さ。

 車体左右側面のスポンソン(張り出し砲座)が、貨車で輸送する際には車内にしまい込めたため、多少輸送しやすくなった。とはいえ乗員区画のみで、当然ながら砲そのものははみ出している。平面になるわけでは無い。

 マークⅠの頃と比較すれば、居住環境は大きく改善された。車体上部に繋がる排気管にはマフラー(注4)が、車内には乗員用に新しい冷却装置と換気装置が装備され、脱出口も改善された。マフラーによって騒音が小さくなり、ある程度車長の指示が伝わるようになったと推測される。他の要素は乗員の士気向上に繋がっただろう。

 しかし運転にかかる労力は相変わらずで、四名を操縦に割かねばならなかった。旋回するためには、左右の履帯それぞれにブレーキをかける副操縦士が必要だったのだ。だから車体後部に補助ギアチェンジ・レバーがあったりする。

 乗降ハッチは車体左側面後方にある。視界は前部展望塔と後部展望塔の二つと前方視察窓があるが、勝手は良くなかった。なお車長席は操縦席の隣である。



・総評

 纏めると、当時としては十分優秀な戦車だったと考えられる。明確なコンセプトのもとで設計され、期待通りの戦果を挙げた。マークⅣが活躍したカンプレーの戦いについては別の機会で解説しようと思う。

 ただし当時のドイツ戦車と戦闘になった際に勝てなかった通り、装甲は最低限で、砲の貫徹力は低かった。戦車戦の時代になるにつれて菱形戦車が消滅するのは、当然の成り行きであっただろう。


【注釈】


1.ドイツ軍歩兵の主力火器モーゼルGew98(7.92mm小銃)用に開発された、タングステン鋼弾芯を持つ徹甲弾。対戦車用として、歩兵に5発、機関銃には給弾ベルト一本分のK弾が支給された。


2.出力重量比とは、1トンあたりの馬力を表す。軽くするか、出力を上げれば数字が向上し、登板能力(斜面を登る力)や時速を増す。


3.円盤状の空冷機構が特徴的な軽機関銃。ベルギー、英国で採用され、後に米国やフランスでも採用された。弾倉が埃に弱かったり、装弾機構が複雑だったりと難点は多いが、同時期の軽機の中では優秀。因みにチャームポイントである空冷機構、即ちアルミ製冷却筒の効果は微妙の一言である。


4.マフラーとは、簡単に言えば消音器を指す。排気管から膨張管に排気を移すことでその圧力を下げ、流速を落とし、排気ガスのエネルギーを下げることで排気音を抑制する仕組みだ。何故膨張させると流速が下がるのかは、流体力学が関係してくるので割愛する。


【参考文献】


上田信『世界の戦車メカニカル大図鑑』(2014)大日本絵画。


白石光『歴群[図解]マスター 戦車』(2013)学研プラス。


三野正洋『戦車対戦車』(2019)NF文庫。


横山雅司『激突!世界の名戦車FAILE』(2014)彩図社


『世界の「戦車」がよくわかる本』(2009) 株式会社レッカ社


坂谷俊彦『日本人のための第一次世界大戦史』(2017)毎日新聞出版


『戦車研究室』http://combat1.sakura.ne.jp/HISIGATA4.htm

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