数学証明小説

阿井上夫

数学証明小説

 アダムス家とスミス家は、ユークリッド王国の二大貴族である。


 そして、アダムス家の長女であるメアリと、スミス家の嫡男であるエドワードは、実は人目を忍んで会うほどの仲であったが、それは決して表に出してはいけないことだった。

 今日もエドワードは、アダムス家の敷地内に忍び込み、二階の窓辺に佇むメアリに語りかけた。

「僕と君は、決して交わることができないんだよ、メアリ」

「どうしてなの、エドワード」

「それは、王国の秩序を維持するために欠かせないおおやけことわりだからなんだ。これを無視してしまったら、両家どころか王国の秩序が危うくなる」

「ああ、どうして私たちはそんな残酷な世界に生まれてしまったの、エドワード」

 メアリが窓際で泣き崩れる。

 エドワードは、そんな彼女をいたわるように囁いた。

「ああ、メアリ。人はそれを錯覚と呼ぶかもしれないけれど――」

 大きな瞳を涙で濡らしながら顔を上げるメアリ。

 エドワードは微笑みながら語りかける。

「――お互いの家が決して交わることのない関係であったとしても、僕と君の視線がまっすぐに結びついてさえいれば、僕と君のこころの中には同じ想いがあると信じることができる。それによって、二人は常に向きあっていて、そこには何のゆがみもないことが分かるんだ。これは僕と君との間の、定められたことわりなのさ」

「ああ、エドワード。そう言っていただけるだけで、私は嬉しい」

「僕もさ、メアリ。この世の中に真実は一つしかない。僕と君の愛がそれを証明しているんだ、メアリ。そしてもし、この世の中からユークリッド王国がなくなった時、二人の願いは叶い、それは世界の真実になるだろう」

「ああ、エドワード……貴方まさか」

「そのまさかさ、メアリ。僕はこれから革命軍に身を投じるつもりだ――」

 そして、エドワードはメアリの目をまっすぐに見つめて言った。


「そしていつの日にか、必ず君を迎えに来る」


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 まず、点Aを上として時計回りに点Bおよび点Cを置く。

 続いてABCを線で結んで三角形ABCを作る。

 続いて、底辺BCに平行で、かつAを通る線DEを描く。

 その際、Dのほうを向って右側とする。 

 平行線における錯角は等しいので、角ABCと角BADの角度は等しい。同様に角ACBと角CAEも等しい。

 そして、点Aを通る平行線上に、角BAC,角BAD(=角ABC)と角CABと角CAE(=角ACB)がある。

 したがって、三角形ABCの内角の和は百八十度である、と証明される。


 なお、この証明は「平行線の錯角は等しい」という前提に基づいているが、これは「もし平行線の錯角が同じでないと、平行線が交わるという矛盾が生じる」という逆の考え方が元になっており、証明されたものではない。

 このような「ユークリッド幾何学では絶対に守らなければならないルール」のことを公理(今回は”平行線公理”)と呼ぶ。その公理を使って求められるのが定理だ。

 ちなみに、曲面上の平行線の場合にはこの公理が当てはまらなくなるので、その場合には「非ユークリッド幾何学」の適用範疇となる。


 ( 終わり )

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