Scenario.15


 ――その日は、すぐにやって来た。

 今日、死神の星々の正体である、クイーンズカレッジ副校長メイソン・ノーリッシュが、暗殺を行うその現場を押さえる。その作戦が実行に移される。

 待ち合わせ場所に行くと、エリスとクロエが馬車でやってきて、俺をピックしてくれる。目的地であるスタンリー男爵の居城まで、馬車で2時間ほど揺られる。

 城に着くと、門のところで城主スタンリー男爵が自ら出迎えてくれる。

 背は小さいが、横に太く、卵のような体型のおじさんだ。ワイン好きというのも頷ける。見た目から明らかにグルメ人だとわかる。

「ようこそ、いらっしゃいました、王女様」

「ご協力、本当に感謝する」

「とんでもございません、王女様」

 男爵が浅く頭を下げる。心持ちはもっと深くお辞儀しているつもりなのだろうが、脂肪が邪魔してるようだ。

「最近の労働党の行いは目に余るものがあります。しかも死神の星々がハミルトン侯爵を狙っているとなれば、協力しないわけにいきません」

 王女の無謀な作戦に、男爵は意外と好意的だった。やはり貴族だけあって、王族の頼みとあらば助けぬわけにはいかない、といったところだろうか。

「さぁどうぞどうぞ」

 男爵に連れられて、城に入り、立派な部屋に案内される。そこには今日の主役が待っていた。

 ――ハミルトン侯爵。

 齢は既に70を超えている。だがガタイがよく、蛇のような眼をしている。なるほど、風格のある人で、この人なら有象無象のスコッツたちを取りまとめられるのではと首相が心配するのも頷ける。

「王女様、お会いできて光栄です」

「こちらこそ」

 その後、俺とクロエも自己紹介をする。

「侯爵を“エサ”にしてしまって申し訳ない」

 エリスが真顔で言う。若造の率直な物言いに、侯爵はピクリともしかなった。

「いえいえ、王女様が私の身を案じてくれるということで、とても感謝しております。何卒よろしく頼みます」

 侯爵は浅くも深くもない角度でお辞儀をした。

「しかし、護衛が少ないですね」

 クロエが聞く。ハミルトン侯爵はスコットランドの大貴族だ。護衛を揃えようと思えばいくらでも連れてこれただろう。だが、後ろに控えている護衛は三人だけだった。

「相手が“死神の星々”では、無能を100人揃えても意味がない。精鋭だけを連れてきた」

 侯爵の答えはもっともだ。

「それもそうだな。それに安心してほしい。クロエとキバは優秀な魔法使いだ。死神の星々相手でもなんの問題もない」

 エリスはそう胸を張った。

「それは心強いですな」

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