この夜が明けたら

aoiaoi

この夜が明けたら

 君と喧嘩をしなきゃよかった。

 毎日、そればかり思うよ。



 バレンタインの日の夕暮れ。

 ちょっとしたすれ違いがきっかけで、僕たちは激しい言い合いをして。

 君は、僕にくるりと背中を向けると、振り返ることなく遠ざかった。



 頭にきた僕は、腹立ち紛れに君の連絡先を全部消した。

 きっとそのうち、君はけろっと僕に電話をよこして。

 喧嘩なんかなかったことみたいになると。

 あの時の僕は、たかを括ってたんだ。



 こんな溝が——

 こんなにも深く恐ろしい溝が、僕たちを隔てるなんて。

 これっぽっちも、思っていなかった。




 君から、連絡は来ない。

 君の家を、知らない。

 知ってたって、外には出られない。

 君を抱きしめることはできない。



 君はどうしているだろう。

 最近の僕の脳味噌の中身は、そればかりだ。




 真冬の別れ際。

 海に行きたいと、ねだった君。

 寒いだけだよと、軽く笑って受け流した。



 あの時——

 君が望んだ通り、海へ連れて行ってやればよかった。

 そんなことばかり思うんだ。




 花のように笑う唇。

 怒った時に膨らむ頰。睫毛の先の涙の粒。

 指を伸ばせば触れられそうなほど、はっきりと思い出せるのに——


 君がどれだけ、大切だったか。

 今頃になって、痛いほど思い知る。




 ねえ。

 君は今、笑ってるだろうか。

 薄暗い部屋で、ひとりきりで泣いていない?




 君に、会いたい。

 どうしようもなく。





 この夜の闇が明けたら——


 真っ先に、君に会いに行こう。



 君が、僕を見つける前に。

 僕は全力で君に駆け寄って、君を思い切り抱きしめるんだ。



 君が好きだと。

 君を、愛してると。


 世界中に響くほどに、叫ぶから。




 愛してるなんて、大袈裟? それとも重すぎる?


 大袈裟でも、重くもない。

 本当のことだ。


 この気持ちは、それ以外に呼びようがない。

 今、はっきりとわかる。



 君が、僕の叫びに微笑んでくれるなら——


 僕は、腕の中の幸せを一生離さない。





 この闇は、やがて必ず明ける。


 だから。

 今は、この闇の中を、ただ歩こう。



 今年が叶わないなら、来年。

 真夏の輝く海に、必ず君を連れて行くから。



 だから——


 その時は、頬を寄せ合い、一緒に笑おう。

 太陽の明るく降り注ぐ、潮風の中で。




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