第10話変わったねタカくん

 そう言った後クスクスまいちゃんは笑っていた。俺は笑わず、唐突にいう。


「実はさ」

「うん」


 まいちゃんは笑うのをやめて真剣な目で答えた。


「俺、今焦っているんだ」

「コロナの件で?」


「いや、そうじゃなくて。それも関係があるけど。なんというかさ、俺自身の目標がないんだよね。それに焦っている」

「うん」


「俺の兄貴はさ、もう32で売れない小説家だけどさ、いつかデビューするんだ、売れてやるんだ、という気持ちで動いているんだ。俺、兄貴のことまじ尊敬しているし、俺もああいう、なんでもいいから目標を持ちたいんだよね。でも、どれもピンとこないというか。アニメは好きだし、だからアニメーターか?というとそうでもないし、ゲームが好きだからプログラマー?と言ったらそうでもないし、なんかね、何か目標が欲しいんだ。俺自身が心から熱くなれるような目標が」


「うん、でも・・・・・・・・」

「でも?」


「でも、今の状況だとある種の職業の人は難しいんじゃない?例えばアーティストのライブの中止も頻繁(ひんぱん)に聞くようになってきたし、夢とか、目標とかさ、実現可能だったらいいんだけど、実現が難しい夢だったら、タカくんを困らせるんじゃないのかって思うのよ」


「まあ、確かに」


「だからさ、夢は趣味の範囲で留めておいて、現実に生活できるような職業を目指してさ、努力した方がそっちのためになるんじゃないの?」


「そうか、実は兄貴にもそう言われてさ。わかってはいるんだけど、なんかさ、己の体で道を切り開くその姿勢に憧れて(あこがれて)、なかなか、そういう風にならないんだよね」


 そう言って、俺はしなった笑みを作った。


「わかる。私も己の才覚で夢を突き進む男性ってかっこいいと思うもん」


「だろう!?やっぱりいいんだよ。己の力だけでさ、世界に立ち向かっていく様、かっこいいし憧れるんだよ。同年代の人たちはさ、夢なんて見ても実現不可能だから、コスパで安全なところに就職して行っているけどさ、そういうのは俺は別に構わないと思うけどさ、やっぱり俺自身は一つの夢を突き進めた道に憧れるんだよ。なんかさ、ワクワクするんだよ!あ、ごめん、まいちゃんにこういうことを言ってもどうでもいいよね?実際のところ俺は夢を持っていないわけだし」


 それにまいちゃんは首をぶんぶん振った。

「ううん。そんなことない。タカくんの言わんとしていることもわかるよ。なら、こういうのはどうかな?27歳までに夢を見つけれなければ諦めるって、制限をかけてみるのは?」


「制限、制限かー」

 俺はコクリとうなずいた。


「いいかもな。よし!俺明日から絵を描くことにするよ」

それにまいちゃんはびっくりした顔をした。


「そんなに簡単に決めていいの!?」

「いやさ、まずイラストレーター目指すよ。やっている途中でさ、それでもダメだったら別のに変えればいいわけだし。ほんとは声優もやりたいんだけどでね。ちょっとお金がかからない、絵を描きながら自分の適性を調べてみる。1年ぐらいとりあえず書いてみようかな?」


 それにまいちゃんはコクコクうなずいた。

「それがいい」


「そろそろ帰るか」

「おーい!ボアー!」

 まいちゃんは立ち上がって呼んだ。すると、ボアはすぐこちらにきてくれた。


「よしよし、よくきてくれたね」

 まいちゃんはボアの頭を撫でてリードをつけた。


「じゃ、行こうか?」

「ああ」

 それから二人して帰り始めた。程なくまいちゃんはクスクス笑いだした。


「なんだ?」

「いやね、さっきね、熱血発言聞いたとき、やっぱりタカくんて変わったんだな、と思って」


「そういうもんか?」


「ねえ、覚えている?幼稚園に一緒に入った時のこと。あの時タカくんビエンビエン泣いていたよね?」

「そういえば、そうだったな」


 もう日は高くなっている。どうやらだいぶ話し込んでいたらしい。

 まいちゃんは相変わらずクスクス笑っていた。


「あの時は私がタカくんを守ってげないと、と思っていたけど、ずいぶんタカくん変わったね」


「そうだなぁ。なんで変わったんだろう?」

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