声をかける相手には気をつけろ

 放課後、帰宅途中の木之瀬蘭子、一見、いつも通り、普通に歩いている。

でも何だか優雅さを感じずにはいられない。そして表情もいつものように穏やか。

 

 しかし、その様子とは裏腹に、この日の彼女は、諸事情につき、

かなり虫の居所が悪かった。


 そんな彼女に、うっかり声をかけてしまった女性がいた。

その人は、長身で赤いコートを着て、長い髪、目つきは怖い。

口には大きなマスク。

 

 その女性は、蘭子の前に立ち


「私キレイ?」


と言ったが、ただでさえ虫の居所が悪い蘭子は突然現れた女性に、

ムカつきを覚えた彼女は


「………」


無視をして、女性の横を通り過ぎた。そして暫し歩くと、先回りしたのか、

再び女性と鉢合わせた。蘭子のイライラが増加。


「私キレイ?」

「………」


再び無視。

 

 そして少し歩くと、また女性


「私キレイ?」

「………」


再び無視と、これの繰り返し。するとだんだん、蘭子の表情は険しくなっていく。


「……私キレイ?」


女性の方も同じことばかりを言っているが、

中々答えてくれないからか、言い方がきつくなってきた。


 そしてついに、蘭子は、女性の顔をじっと見つめながら


「キレイですわ」


と女性の質問に答えた。すると女性は、


「これでも!」


と言ってマスクを外した。女の口は耳元まで裂けていた。


「………」


それを目の当たりにしても蘭子は無反応。女は、大きなナイフを取り出し、

蘭子に振り下ろした。


「!」


ナイフは、刃が砕けながら、はじけ飛んだ。

そして女は気づいた蘭子の右腕が大剣の様なものに変わっている事、

更に蘭子の顔が、般若の様に恐ろしい形相をしている事に気づいた。


 更に、蘭子から発せられる気迫も相まって、女性は恐怖に襲われ、腰が抜けた。

目も涙目になっていく。

 

 蘭子は、女性にゆっくりと近づき、刃を向ける


「ひぃ!」


蘭子は地の底から轟くごとく、低めの声で言った。


「これ以上、付きまとうなら……」


刃を、女性の耳のあたりまで持ってきて


「貴女のお口を、もっと大きくして差し上げますわ!」

「い……いやーーーーーーーーーーーーーーーー!」


腰が抜けた女は、四つん這いで、それでも100mを6秒で走れそうなスピードで

逃げて行った。


 残された蘭子は、表情は穏やかなものに戻り、腕も元に戻すと、

そのまま帰路に就いた。

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