チャネラーズ・ブギと不思議な風②



「お客様が商品を物色してるんだから、私語は謹んでほしいにゃあ」


「いつから居たんだ?」


「その帽子……カッコいいな。ってとこから……にゃん」


 そう言いながら商品棚の裏から、黒いTシャツにホットパンツ、太ももの真ん中まであるボーダーのニーハイを履いた『ウィッチ』が現れた。

 といっても、コイツは女にしては背が高く猫耳のカチューシャを付けた頭が棚の上から既に見えていた。それにしても、10月だというのにあの服装。いや、コイツがイカれているわけじゃない、ここ2週間ばかり妙に暑いのだ。


「ウィッチさん。今日は猫耳ですか? こないだのやたらとデカい麦わら帽子はどうしたんです?」


 ズレた丸眼鏡をこめかみに食い込ませながらワンハンドレッドが声をかけると、なんだかふわふわしたピンクの猫耳を撫でながらウィッチが答える。


「あぁアレね……ワラ人形が足りなくなっちゃってね。ちょっとね」


 と言いながらウィッチは猫耳カチューシャをスッと外した。その瞬間、キーンと耳鳴りがして、店内の空気、いや、地球全体を包む大気そのものが重々しくのしかかってくるような感覚に襲われる。


「ちょ、ちょっと!?なにはずしてんですか!?まったく、店の中で外さんといて下され!」


 慌てたワンハンドレッドは口調が定まっていない。「冗談にゃん」そう言うとウィッチはグリングリンに巻いたキャバ嬢のような髪の上に猫耳をはめ直した。

 にゃんってガラじゃないだろ……と、心の中でつぶやくとウィッチがこちらを見つめ首をかしげる。


「にゃん?」



 このグリグリの巻き髪にイカれた猫耳をはめた女。超常的存在を管轄する行政機関『ターミナル』が認めるれっきとしたチャネラーである。コイツは人の心を読む。心の声が聞こえるそうだ。ただ、普段はあまり聞きたくないらしく『反スピリット制御チャーム』を身につけている。そうすると人の心を読む能力が弱くなるらしい。


 更にコイツは生まれつきスピリチュアル能力がずば抜けて高い。鉄火場があるとやたらと首を突っ込んできては場を荒らして回るトラブルメーカーでもあるが、ターミナルの仕事もこなすスピリチュアル界隈では名の通ったチャネラーでもある。


 そして、本気になると頭の被り物を外す。

 そして、暴走を起こす。

 それも結構頻繁にだ。


 『潜在的体内宇宙エネルギー』が高すぎて、被り物を外した時点からエネルギー放出を始めてしまい最終的に見境がつかなくなる。『余剰エネルギー』を完全放出する前に事が済めばいいが、大抵は間に合わない。去年の暮れにはオーストラリア大陸を沈ませかけた。


 あの時はターミナルのお抱えチャネラーが『バニシング』を行なって、ウィッチがオーストラリア上空に撒き散らした『波動コロニー』を『裏宇宙』の『チャネル場』に送り返した。危うく第二のムー大陸伝説が出来上がってしまうところだった。


 ターミナルもその辺よくわかっているようで、コイツにはいつも監視の目が付いている。といっても、コイツはチャネラーだ。当然、常に『磁界』を張っているからターミナルもウィッチがどこでなにをしているのか、まったく分かっていない。監視していると言うより、いつもウィッチの居場所を探していると言った方がしっくりくる。


「そういえば、B・B? まだ軌道制御できてないにゃんな?」


「ん? お前なんで俺が例の台風に噛んでるって知ってんだ?」


「今、聞いてたにゃん」


「ああ、そう。まあいいか。軌道制御は明日やる。もう動いてる連中もいるみたいだけどな?」


「にゃん?」


 ウィッチが首を傾げながら、バーカウンターの前に置かれたクロームメッキのヴィンテージチェアに腰掛けると、やたらと短い短パンが太ももに食い込んでしまって、なんだか凄いことになっている。


「そういえば、月の横に『方位天体』が出てたよ。あんなの使うのはターミナルかPSEくらいだね」


「連中が出てくるのは分かりきってんだ。とっくに手は打ってある。だいたい『確立チャネ』の時は磁界を張ってない、敵は少ない方がいいだろ?」


 ドヤってみせたが、もちろん手なんか打ってない。なんだか知らないうちに余計な連中が沸いてました。なんて言えない。それよりウィッチさんの太ももが凄い。ちょっと動くたびにどんどん食い込んでしまっている。どうやらワンハンドレッドは気づいていない様だ。


「まぁ、B・Bが噛んでるって気づけば、低級チャネラーとかチンピラシャーマンは手を出さないか」


「そうにゃん。それでわかったにゃん。B・Bが台風を発生させたって」


「ああ、そう」


「なんにゃん!? さっきから! あたしは何もしてないにゃん。今日はかわいい制御チャームを買いに来ただけにゃん」


 そう言うとウィッチは席を立ち制御チャームの置いてある棚に向かった。太ももと短パンの隙間に指を突っ込んで、食い込みまくっていたすそを正しい位置に戻しながら。


「ここにかわいい制御チャームがあると思ってるのか?」


「あるよ……。ウィッチさんに頼まれて仕入れたにも関わらず「何コレ? ゴミ?」と言われた、かわいい制御チャームが置いてある」













  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る