僕は彼女に恋してる

白玉いつき

僕は彼女に恋してる

 ぼくこいをしている。


 大通りを少しはなれ、落ち着いた雰囲気ふんいきの場所に、ぼくのお気に入りの喫茶店きっさてんはあった。都会ながら自然の中にいるようなおしゃれな内装。外にはテラスがあり、樹木にさえぎられたほどよい日差しが心地ここちよい。


 ぼくはいつもの席にすわり、店主が持ってきてくれたホットミルクをちびちびと飲みながら、彼女かのじょが来るのを待った。


 まだかな、まだかな。


 時間がたつごとに鼓動こどうは早くなり、ぼくは待ちきれずに、足をバタバタとらしてしまう。


 そして、道路の向こう側から見えた姿にぼくは思わずドキリとしてしまう。


 来た、彼女かのじょだ!


 日曜日の晴れた昼下がり。彼女かのじょはこの店にやってくる。テラス席にこしかけ、文庫本なんかを読む。


 時折、ふっと遠くを見つめる姿に、ぼくはいつの間にかこいしてしまったのだ。


 もちろん、気の小さいぼくなんかが彼女かのじょに話しかけることはできないんだけど、それでも、遠くから彼女かのじょを見つめているだけでぼくはとても満足なのだ。


 彼女かのじょ今日きょうも本を読み、そして日が暮れる少し前に帰っていった。


 家に帰った後、ぼくはいつも悶々もんもんとしてしまう。彼女かのじょにどうしたら話しかけられるだろうか?


 共通な趣味しゅみなんて絶対にないだろうし、ぼく彼女かのじょなんかに話しかけて、彼女かのじょ迷惑めいわくじゃないだろうか? きらわれたりしないだろうか?


 元来、ネガティブなぼくだから、最後にはいっつもそんなことを心配しながら、いつの間にか寝入ねいっていた。


 そんな日々だった。


 今日きょうも一日、彼女かのじょに話せなかった後悔こうかいかかえながら、家に帰ろうとしていると、小さなキーホルダーを発見した。


 これは、彼女かのじょのカバンについているやつだ。


 ぼく彼女かのじょの姿を目で追いかけた。彼女かのじょはまだあそこにいる! ぼくはとっさに彼女かのじょに走り寄った。


「あ、あの!」


 ぼくが声をかけると彼女かのじょは不思議そうにかえった。きょろきょろと辺りを見渡みわたしている。


 そして、ぼくを見つけた。


「これ……」


 ぼくがキーホルダーを地面に置くと、彼女かのじょの顔がパッとかがやいた。


「もしかして、持ってきてくれたの?」


「う、うん」


「ありがとう」


 彼女かのじょ笑顔えがおは、まるで天使のようにうるわしかった。ぼくけていると、彼女かのじょは両手をそっとぼくの体に近づけてきて……。


「ありがとうね」


 もう一度お礼を言うと、ぼくのことをギュッといだきしめた。


 ミャアオオ。


 その日以来、ぼくたちは良く話すようになった。


「あら、また来たの?」


 テラスにすわっている彼女かのじょに近づくと、彼女かのじょ微笑ほほえみかけてくれる。店主はいつものようにホットミルクを用意してくれるので、ぼくはいつものようにチビチビと飲んだ。


 ミャオオオ。


 彼女かのじょとお話するのは大好きだ。


 ぼくこいをしている。


 成就じょうじゅするかは、ちょっとまだ分からないけど。




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僕は彼女に恋してる 白玉いつき @torotorokou

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