第31話 常陸領に遊びに来た(ヒロside)

 お盆が終わって、いよいよ常陸ひたち領の花火大会だ。真太郎しんたろうの屋敷に2泊3日で泊まらせてもらうことになっている。


 真太郎しんたろうの弟たちはきよがいれば大人しいらしい。…… 可愛いところもあるじゃないか。その間に桜子との距離を縮めないとな。


 そんな事を考えていたヒロだったが甘かった。



「桜子ちゃんだー!」

「俺のこと三郎さぶろうって呼んで!俺、桜子ちゃんて呼ぶから!」


きよ姉ちゃん!俺少し身長伸びたんだよ!」

「桜子ちゃん!花火大会はおしゃれするでしょ?これ!これ使って!HI-TACHIのドライヤー!」

「これ有名なHI-TACHIのナノイオンドライヤーだわ!やっぱりHI-TACHI製品が多いの?」

「うちは全部HI-TACHIだよ!」


「桜子ちゃん、みて!テレビ!HI-TACHIのテレビ!」



きよねえちゃん!桜子ちゃん!これ!甘さがMAXのアマックスコーヒー!」

「ありがとう嬉しいな。桜子はアマックスコーヒーは初めて?甘くて好きなんだ」

「いただくわね…まあ、懐かしいスイーツのような喉越しね!」


 ギャングたちがきよと桜子に纏わりついて邪魔だった。常陸領に着いてからまだ一言も桜子と喋れていない。ご家庭のテレビ1つではしゃぎすぎだろう、桜子も付き合いが良いにもほどがある。



 俺は猛禽類先輩たちとのグループLINESに初めて助けを求めた。


「こんな感じです。」

 というテキストと共にギャングたちが桜子に纏わりつく動画を送った。


ピーン!

 さっそく返事がきたな、どれどれ…


「手強いわね…」

「これは無理じゃないかしら?」

「2学期に期待しましょう」


…… くそっ!諦めるのが早過ぎるぞ!


「まだ初日です!」

送信っと


ピーン!

「一服盛って眠らせたら?」

…… 投げやりだな!


「真面目にアドバイスをお願いします」

送信。


ピーン!

真太郎しんたろうさんに相談なさいな」

「花火大会だけは桜子さんを死守して」

「ギャングたちを油断させる為にも今はやらせておきなさい」


……真太郎しんたろうと話してこよう。



真太郎しんたろう…」

「ヒロの言いたいことは分かる」

 ヒロが何もいう前に申し訳なさそうな顔で答える。


大二郎だいじろう三郎さぶろうきよと桜子から離れない。今も2人に纏わりついている。

「花火大会の時だけでいい」

「両親と乳母たちも入れて話そう」



「うちの猿たちがすまない」

「女の子には乱暴な態度をとらないようになったから、あれでも随分ましになったのだけれど」

 真太郎しんたろうの両親が恥ずかしそうに俯く。


「なつかれて桜子も喜んでいるし…花火大会の時だけ確保していただけたら…」

 ヒロの控えめな希望が一同の同情を誘う。


「あいつらを油断させるために直前まで自由にさせてもいいか?」

「ああ頼む」


「トキさん達は出来るだけあいつらを疲れさせて」

「花火大会の直前に浴衣にお着替えしますから、そのタイミングで確保しましょう。帯をしめるついでに縛り上げて」


 乳母たちが慣れていた。主人の子供達を日頃から縛り上げているらしい。


「確保したら父さんと母さんの出番だよ」

「しっかり睨みをきかせてやるぞ」

「この間もきつく叱ったばかりなのにね…」

 この前とは真太郎しんたろうのノートパソコンを破壊した時のことだろう。



「ふふっ、2人とも元気で可愛いわね」

「私はお姉ちゃんと2人姉妹だから、ここに来ると弟が出来たみたいで嬉しいんだ」

「私は一人っ子だから小さい子がそばにいるのが新鮮だわ」

 ヒロの精神が消耗する中、桜子と清は楽しそうだった。


「くそ…チビなのを良いことに桜子に抱きついて…コバたんももっと邪魔をしないと…」


 コバたんは大二郎だいじろう三郎さぶろうのナチュラルで悪気のない乱暴さに負けており、少し離れた場所に避難していた。近寄ってくると遠慮なく威嚇して脅している。



「夕方5時になったら俺たちも清たちも浴衣に着替えて出かける。同じタイミングで大二郎だいじろう三郎さぶろうを縛り上げる手筈だ」

「夕飯は屋台をハシゴでいいよな、桜子が喜ぶ」

「ああ、気づかないよう変装して周りに護衛がいるから安心してして食いまくってくれ」

 真太郎しんたろうとヒロが手順を確かめる。


 大二郎だいじろう三郎さぶろうのギャン泣きまであと3時間だった。

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