第30話 猛禽類先輩からオンライン指導

 宿題は約1週間で終わった。

真太郎しんたろうの事情により一切遊ばずに、ひたすら取り組んだ成果だ。


「お盆前に終わって良かったわ」

「サンキュー、本当に助かった」

「ノートパソコンや教科書は私が預かっておくね」

「悪いな」

 また弟たちの狼藉により再び破壊される可能性が高いため、真太郎しんたろうのノートパソコンなどはきよが預かることになった。


「お盆が終わったらうちの領地に来てくれな!ひたちなか祭の花火大会に招待するから」

陸上自衛隊の常陸駐屯地で開催される有名な花火大会だ。


「私も毎年お邪魔してるんだけど、趣向を凝らした花火が打ち上げられて楽しいの!フィナーレのメロディー付きジャンボスターマインは感動だよ!」

「それは楽しみだわ」

「俺も楽しみにしてる(桜子の浴衣を)」




 宿題を片付けたヒロは伸び伸びしていた。

お盆は7月に終わっているし真太郎の領地に遊びに行くまではダラダラ過ごしても許されるだろう、かなり暑いし何もする気にならない。


 そう思って油断してたら沖田さんに呼ばれた。


 呼ばれた部屋のパソコンの画面には、ストレートボブの梟子きょうこ先輩と、縦ロールの鷲子しゅうこ先輩とショートヘアの鷹子たかこ先輩が映っていた。


「我が家のヘタレ坊ちゃんとお話されたいそうでございますよ、ごゆっくりどうぞ」

沖田さんが退室した。



「ヒロさんのご実家のお盆と試験休みが重なってお話できなかったことを後悔しているわ」

「私もよ」

「沖田さんのパスを受け止めることができず、桜子さんから誘っていただくなんて…」


── ばれている。いや画面に猛禽類先輩たちが映っているのを見た時点で想像してたけど…。沖田さんにヘタレ坊ちゃんて呼ばれたし。


「………」


「桜子さんは、こんなヘタレのどこが良いのかしら?」

「私…桜子さんなら殿下に相応しいと思うの」

「私も…自分が殿下の隣に立つことを目標にしてきたけれど、桜子さんは本命のお妃候補に相応しいのよね」


── 何を言い出すんだ、この猛禽類たちは…


「上皇様が溺愛する妹の桂子かつらこ様の孫娘で、世界的大都市の東京を含む武蔵領のご令嬢ですものね」

桂子かつらこ様の孫娘というだけではないわ、桂子かつらこ様にお姿もそっくりなのよ。桂子かつらこ様は、お若い頃から現在まで国民から熱狂的に愛されていますものね」

「それに性格も素直で愛らしいわ、おっとりした殿下と素直な桜子さんは似合いの2人ではないかしら」


── 桜子が素直で可愛いとか!そんなの俺が一番良く知ってるし!殿下と似合いじゃないし!


「…先日、とある海外の貴族の方からも桜子さんについて質問されましたの」

「私も何名か知っているわ、桜子さんに好意を寄せる海外の名家のご子息…」

「あら、鷲子しゅうこさんも?」


「ちょ!その話、詳しく!!」

猛禽類先輩たちが無言でヒロを睨む。


── 怖い…ネズミになった気分だ。


「お話したところでヒロさんは、私たちの情報を活かせないもの」

「沖田さんがお膳立てしてくれたチャンスも活かせないものね」

「どうせ夏休み後半も自分からは動いていないわ、人任せよ」


── 当たりだ。成り行きで真太郎しんたろうの領地に遊びに行くことになっただけだ。


「ヘタレですみません。夏休みの後半でいい雰囲気を作りたいので指導をお願いします」


プライドは捨てた。


 猛禽類先輩に花火大会について報告し、ヒロがやりがちなダメなことを指さし確認され、チャンスがあれば実行するよう浴衣デートについて指導を受けた。

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