第12話 桜子のおうちご飯

「嬉しいわ! 大和やまとの別邸で山田屋うどんチェーンのパンチさん煮込みが食べられるなんて!」


 山田屋うどんチェーンのパンチさん煮込み定食 は、武蔵領の領民に人気のボリューム満点な、とろろ小鉢付きのもつ煮込み定食だ。濃い目の味付けで、もつ煮込みにメンマが入っているのが特徴だ。


 朝から気まずい空気を漂わせた挙句、目の前できよ真太郎しんたろうにイチャイチャされて釈然としなかった気分が一気に晴れた。

 オレンジ色のやじろべえのロゴでお馴染み、武蔵むさし領でチェーン展開する山田屋うどん店は桜子のお気に入りだ。中でもパンチさん煮込みは桜子の大好きなメニューだ。


「大奥様から領地の美味しいものが沢山届きましたからね。大和やまとならではの食材も召し上がっていただきたいと思っていますが、届いたものと交互にお出ししてまいりますよ」

「ありがとう、お祖母様にお礼の電話をしておくわ」


 桜子の祖母の桂子かつらこは上皇様の妹だがB級グルメに目がない。桜子にB級グルメの英才教育をほどこしたのも桂子だ。


 大和の上品な薄味で育った桂子かつらこは降嫁先の武蔵むさし領でB級グルメに目覚めた。

 現在の武蔵むさし領の領主である息子の栄一はB級グルメに理解はあるが、自分が食べるなら料理人が手をかけて調理した料理を好む。

 ダメ元で孫の桜子に武蔵領のB級グルメを勧めたところ桜子はB級グルメを気に入り、幼い頃から大人顔負けの食欲をみせた。

 以後、桂子かつらこは幼い桜子を連れて領地内を食べ歩くことになる。


「あら、2種類あるの?」

桂子かつらこ様からメッセージが同封されていましたよ」


 祖母の桂子かつらこからのメッセージには、山田屋うどんチェーンの新商品を見つけたので送る旨がしたためられていた。


「新商品の麻辣まーらーパンチさん煮込みですって! 美味しそうだわ」


 目の前に並べられたパンチさん煮込みと旨辛うまから麻辣まーらー味のパンチさん煮込みを交互に味わう。


 桜子の隣でコバたんは塩むすびと冷奴を味わう。白い食品が大好きなコバたんの定番の晩ご飯メニューだ。毎日でも飽きない。


「美味しいわ…。いつものパンチさん煮込みは、いつも通り最高に美味しいわ。刻み葱をたっぷり乗せたメンマ入りのパンチさん煮込みとご飯のカップリングは最高ね…濃いめの味付けで白米が止まらないわ。この麻辣まーらーパンチさん煮込みも白米泥棒ね…とっても美味しいわ…」


 いつものパンチさん煮込みと白米、旨辛なパンチさん煮込みに白米の組み合わせは、められないまらない美味しさだ。

「どちらも美味しいけれど、やはり食べなれたいつものパンチさんの方が美味しく感じられるかしら? でも旨辛が夏だけの限定メニューになったら毎年通ってしまうわね。ハーゲンダッツのラムレーズンが冬だけのご馳走みたいな」


「桜子お嬢さん、デザートに十一じゅういち万石まんじゅうがありますからご飯のおかわりは程々ほどほどにどうぞ」


「十一万石まんじゅうがあるの!?」

「クルッポー!」

「大奥様からのお荷物に同梱されていましたよ」


 “うまい、うますぎる!” のキャッチフレーズで有名な十一万石まんじゅうは桜子とコバたんの大好物だ。餡子たっぷりの十一万石まんじゅうは見た目が白いのでコバたんもお気に入りなのだ。


 桜子とコバたんは渋めの緑茶と一緒にデザートの十一万石まんじゅうを堪能して、満ち足りた気分で1日を終えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る