第19話 臭いものは嫌いです

 トイレで腸の処理をしましょうか。まずは床に新聞紙を敷いておきます。

 本当に新聞紙は便利ですね。読むことはほとんどないのですが、こういった用途では本当に助かります。最初は最後の最後で見つけたたくさんの新聞紙に辟易していましたが、ここまで助けられるとは思ってもいませんでした。地下室のものたちには本当に助かっています。


 このクーラーボックスの腸たちも胃と作業の流れは同じです。トイレに中身をあらかた流したら、ペットボトルの水で中を綺麗にして、出てくる水が綺麗になるまでこれを続けます。

 たしか大小合わせて四十あったと思います。気が遠くなりますが、やらないと終わりません。


 まずは大きい方からやりましょうか。適当につかんだものから始めます。これは中身が入っていますね。また鼻の効きが戻ってきたようなので、死んでくれるまでが辛いでしょう。

 便器の水面の近くで手で上から絞っていき、中身を出す。三回ほど上から下にいったら、今度は口を開いて、そこにペットボトルの口を入れてやります。それごと右手で腸をつかみ左手で下を握ったら、中に水を入れてゆすぎます。合間に何度か小の方で流しつつ、五回ほどで充分きれいになりました。しかしまあこれじゃあペットボトル数本用意した程度じゃすぐなくなっちゃいますね。一本終わったら水を足さなきゃダメそうです。


 一心不乱に進めて五本を終えました。途中までは不意に匂いを嗅いでしまってそのたびにえずいていたのですが、終わりの方にはまた慣れてくれたようです。

 しかし、これじゃあ終わりが見えません。これでもう一時間は使っているはずです。そとはまだ暗いですが、いつ明るくなってもおかしくない時間のような気がします。


 仕方ないので、小さい方は一回中身を出したらシャワーで中をきれいにしましょうか。トイレに汚れ物を持ち込むのは嫌ですが、水の補充のために行ったり来たりして朝を迎えるよりはまだ良い気がします。



 浴室に全裸でいるのにお風呂に入るわけじゃないなんて、不思議な感じがします。


 トイレで中身は出してきました。鼻はまったく効いていませんが、たぶん大きい方よりは匂いは激しくなかったかと思います。出てくるものも匂いを想像するような色ではなかったですしね。


 とりあえずシャワーヘッドを外して床に転がしておきます。お風呂の椅子に座り、さっきと同じように中を洗い、足の間のバケツに洗い流した水をためてトイレに流すという感じで進めていきます。

 袋にもう一度戻した小腸をゴム手袋で掴み、片手で口が開くように形を整えたら中に水を注ぎます。くるくると回すように水を入れ、出てくるものがきれいになったら、外も流して終わりです。さっきよりもずっと細いのでちょっとやりにくいですが、どうにかなっています。三十五本、この調子で行きましょう。


 途中何度か休みつつ、全て終わらせました。

 新しく出したビニール袋の中にはきれいになった小腸が同じ向きに並んでいます。なんだか虫みたいです。そう考えるとちょっと気持ち悪いですね。

 ついでにさっきの大腸たちも、もう一度こっちで流しておきました。これでもうほとんど匂いは気にならなくなるはずです。


 袋にたまってきた水を流したら冷蔵庫に入れましょう。本当は冷凍庫に入れておきたかったのですが、あれじゃあちょっと無理そうですからね。



 大仕事が終わってほっとした途端、眠気が大きくなってきました。さっさと身体を洗って、お昼くらいまで寝てしまいたいのですが、軽くでも地下室の掃除はしておいた方が良い気がします。匂いが気になりますからね。


 トイレットペーパーとビニール袋、それと中に水を詰めたスプレーを持って、また地下室へ向かいました。匂いは多少しますが、さっきまで処理していたものに比べたら常識的なものの範囲内です。ほんのり生臭いような、魚とは全く違いますし、腐ったような匂いでもありません。これが物語なんかでいうところの血の匂いなのでしょうか。


 まずは乾いていないところを拭いていきます。血と他の体液が混ざった薄い赤茶色の液体がところどころにできたブルーシートの谷間に溜まっています。

 乾いてしまっているところは水を拭き替えてから拭き取ります。このスプレーは寝ぐせ直しが入っていたものでした。ついこの間使い終わったのを捨てずにそのままにしていたのです。絶対に必要なものでもないですし、買ってきて詰め替えるのも面倒で放っておいてしまったんですよね。まあ役に立ったのでよかったです。


 あらかた拭き取ったら終わりにしましょうか。

 シャワーを浴びたら寝ましょう。無理です。眠いです。


 お風呂場で久しぶりにゴム手袋を外しました。身体はちょっとべたついていますし、毛先はところどころ束になってしまっています。できるだけ顔は触らないようにしていたのですが、無意識に髪に触ってしまったのでしょうね。

 シャワーで一度流したら、石鹸で洗います。やっぱりちょっと気になるので二度洗いします。いつもなら上から洗うのですが、とにかく身体が気になったので髪は後です。

 すっきりしたら、お風呂場のタイルも洗っておきましょうか。ついでです。排水溝のネットも見ておきましょう。ここに何か肉片でも引っかかっていたら匂いのもとになりますからね。


 タオルを巻いて、廊下の新聞紙を片します。浴室からとっていって、汚れた面が内側になるようにたたんでいきます。染みの色が色なので古紙回収には出せないですし、ちょっとずつ燃やせるゴミに混ぜていきましょうかね。今はとりあえず潰した段ボールの上にでも置いておきます。


 とりあえず今日はこれでいいでしょうか。日付は変わっていますが、寝ていないのでまだ今日のうちというやつです。

 お肉にありつけるのはいったいいつになるのやら。片付けも、下準備もなにも終わってないです。


 まあ今日はもう休みましょう。ほんとうに長い夜でした。

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