第2話

青井 花はしばらく下駄箱で脳内を整理していたが、再び深く息を吸って自分の教室へ向かった。


青井の教室は、一階の一番端っこで、1年火組と書かれていた。


(火組か…私風組が良かったな…まぁいいや。皆んな良い人なら!元気よく行こう!)


気持ちを整えて、すぐに教室の扉をスライドした。

しかし、目に入って来たのはさっき見たハゲた頭だった。


(えっ何でいるの…気まずいなぁ℃)

教室に入ると、ハゲた頭が視界に入らないように、下を向きながら自分の席を探し始めた。


ドンッ

下を向いていて、また誰かに当たってしまった。


「ごめんなさい。」


「下向いてたら、ぶつかっちゃうよ。顔を上げて!せっかくの綺麗な顔が勿体無いよ。」


頭上からイケボが聴こえてくる。


さっきの禿げた人の声でない事を自分の中で確認して顔を上げる。


そこには茶髪のイケメンオーラ満載の長身の男が立っていた。


「名前何?席名前順だから、案内するよ」

「あっあのわ、私の名前は青井 花です」


恥ずかしさで、つまりつまりになりながらも何とか自分の名前を伝える。


「えっ青井さん?俺の席の隣じゃん。教室のベランダ側の1番後ろの席だよ」


(えっそんな、たまたまぶつかった男子が私の隣なんて運命?てゆーかイケメンラッキー!)

喜びで少し顔がほころんだ。


「そうなんですね。教えてくれてありがとう!てゆーかなんで後ろなんだろ…私今まで1番前だったのに」


「あぁそれな。俺も驚いたよ。この学校名前が早い人から男女一列ずつ後ろからの並びになってるみたいなんだ。ちなみに俺の名前は、阿智 政豊(あち まさとよ)まさで良いからよろしくな」


「はい!まさ君」


まさに元気よく返事をして青井は自分の席に座った。


しかし、座った瞬間光が目に入って来た。

この感覚に覚えのあった青井はすぐさま立ち上がり、前を見て状況確認をした。


禿げた男が阿智君のいる列の1番前に座り窓から入る日光を後ろへ反射させていたのである。


他の人は、入学初日でどうしたら良いかわからず、阿智と青井の列の人達は皆んな立っていた。


(やっぱりあの人目立ってるな…てゆーか、目立つしかないんだよね…なんか可哀想になって来たな。まぁ隣は、阿智君だし気にしてたらダメだよ)


そうこう考えているうちにキーンコーンカーンコーンと朝の会の始まりのチャイムが鳴った。

相変わらず、禿げた男子のせいで人が全然座って無かった。


そんな中、ガラガラと扉を開ける音がして、眼鏡をかけた女の先生が入って来た。


「ちょっとあなた達いつまで立ってるの席に着きなさい。もっと高校生の自覚を持って行動しなさい」


教師に入るなり、席を立っている生徒に向けて注意をした。

立っている生徒達は顔を一通り見合わせる。

皆んな誰か言えよという顔をしていた。


沈黙が続いていたが、口火を切った人がいた。

禿げの男子生徒の後ろの席の子だ。


「先生!あまり言いたくないんですが、僕の前の小萩 創太(こはぎ そうた)君が眩しくて皆んな座れません」


(小萩 創太って言うんだ。てか、ストレートだな)


先生は最初少しムッとしていたが立っている人の顔と教室の後ろの壁に光が反射している様子を見て、


「小萩君あなた1番後ろの阿智君と席を交換しなさい」と言った。


その話を聞いて阿智と小萩は席を立ち上がった。


「青井さん!なんか短い間だけどおせわになりました笑」

満面の笑顔で、阿智君は私に別れの挨拶を済ませてすぐに1番前の席に引っ越しした。


(あぁイケメーン!私の春よー)

そう思いながら、阿智君の背を見送った。


そして隣に小萩君が来た。

イケメンの代わりに禿げが隣に来たのである。


(うわっなんか変な緊張感があるよ…)


「よろしくね!」


私が挨拶をすると、小萩君も


「また会ったね。よろしくお願いします!」

と挨拶を返してくれた。


どうやら、禿げの小萩君は悪い人ではないらしい。



【青井 花(あおい はな)】高校生活初めての隣の席の人は禿げである。

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