第11話 七種族の共闘に向けて

 ロリポップちゃんとあの森に到着する頃には、どうしてこの子がチューリップちゃんにではなく、サニアちゃんに用が有るのかについても納得ができた。


聡「確かに、僕がここに来たばかりの頃に、プレシアのソフィアさんからこの国が関係する芸術展が有るって聞いたけれど、そのためなんだね」


ロリポップ&ツリピフェラ「そう言う事なの♪」


聡「(小声)それじゃあ、ここは小蔭ちゃんに移動系の魔法を御願いしようかな?」


小蔭「(小声)お兄ちゃん、ごめんなさいなの。

 小蔭は土属性だから、移動魔法は使えないの」


ツリピフェラ「(小声)小蔭ちゃんは、本人が速攻型で、魔法は防御系なの」


聡「(小声)そうだったんだ。 小蔭ちゃん、ごめんね」


猫耳の動きだけで察するなんて、流石は木本プリバドだね。



小蔭「(小声)その分も、小蔭はお兄ちゃんのためのお嫁さんになれる様に頑張るの。 聡お兄ちゃんこそ、夕方とか寂しくなっちゃった時は、いつでも小蔭に声を掛けてね」


 御顔を真赤にして俯いて、最後は消え入りそうな声で囁いた小蔭ちゃん。

 ああ、女性的なこの世界の中でも昔の日本みたいな感性を持つ東洋怪異では、そう言う意味でも恋人を下支えできる奥ゆかしい少女と、相手の一途な期待に応えられる様に尽力するお兄さんと言うのが、一種の男女の在り方として定着しているんだね。


聡「(小声)小蔭ちゃんは、良い子だね。

 その気に成ったら、いつでも声を掛けるからね♪」


小蔭「(小声)……ありがとうなの」


 ASMRとかが好きな僕には魅力的に見えるけれど、僕等の世界とはかなり異なる感性だよね。 まあ僕も、サ胸とか、ああ、凄く、胸が、アールと読む集団には、賛同し兼ねるんだけれど。

 マリアンナさんみたいな清楚系のメイドさんには、控えめな方が似合う訳だし。



 こうして僕等は、一時メンバーを含むRPG風の5人編成で、チューリップちゃんの御家に到着した。


聡「流石に草本の女の子には、ツリピフェラちゃんみたいな感知能力は無いんだね」


ツリピフェラ「草本と木本は、水と大地位違うの」


 この子が言うと、どの位違うのかが良く分からないなあ。

 僕が気を取り直してコココンとドアをノックすると、静かながらも迅速に入口は開かれた。


サニア「聡お兄ちゃん、寂しかったあ! 私……寂しかったの」


聡「そうだよね。 サニアちゃん、寂しかったよね。

 もう一人にしないから、泣かないでね」


 泣き出してしまったこの子が可哀想で、僕は思わずサニアちゃんを抱き寄せる。


サニア「分かった。 ……聡お兄ちゃん、大好き」


ロリポップ&チューリップ「わぁ♪ お兄ちゃん、優しいのね!」


マリアンナ「聡様、ステキです♪」


 先程の行動が僕等の世界では望ましく無い程、彼女等からの理解が有難い。

 泣き止んだサニアちゃんと一緒に皆を見渡して、僕は改めてそう思った。



サニア「ありがとう。 もう大丈夫よ。

 ところで、ロリポップさんが来ているという事は、賛同者の話が一段落した上で、芸術展の話をしに来たのかしら?」


ロリポップ「そうなの!

 やっぱりサニアちゃんは、聡お兄ちゃんみたいなのね♪」


サニア&聡「同感ね&同感だよ」


 同時にクスリと微笑み合う二人。

 やっぱり、僕等が惹かれ合ったのは必然なんだね。


ツリピフェラ「そう言う事なの」


 僕とツリピフェラちゃんが、そう言った意味で対等になれる日は来るのだろうか?



サニア「全く、木本は相変わらずね。

 いっそこの子達が解決に乗り出した方が、アスピスの皆も安心して暮らせるんじゃないかしら?」


 それも有るとは思うけれど、木本の女の子が力による解決なんて望む訳が無い。


ツリピフェラ「木本は争い事が嫌いなの。

 そう言う意味では、今回は特別なの」


聡「やっぱり、そうだよね。 ツリピフェラちゃんは、良い子だね」



 いつも通りにこの子の髪を優しく撫でると、サニアちゃんは心底意外そうに僕等を見詰めた。


サニア「聡お兄ちゃんと意見が食い違ったのって……今回が初めてかも」


ツリピフェラ「サニア様の知識が10なら、聡お兄さんは知恵が10なの」


聡「そう言うツリピフェラちゃんは、両方10以上だよね」


ツリピフェラ「それ程では、無いかも知れないの」


サニア「まあ、この際木本には勝てなくても良いわよ」


チューリップ「チュリ、分かんない」


ロリポップ「世界が……違い過ぎるの!」



聡「ところで、芸術展を開くならセイレーンやスノードロップに話を振る所だと思うけれど、どうしてサニアちゃんなの?

 プレシアが他と比べて有利なのって、東洋怪異やサラマンダーに対する圧力位の物だと思うけれど」


サニア「何だ、分かっているんじゃないの。

 東洋怪異は確かに強国だけれど、小型種や中型種も大勢居るからね。

 大型種の中でも特に強いプレシアの私と小型種のロリポップさんが行事の中で一緒に説得すれば、共闘に懐疑的な人達の心境も変わるんじゃないかしらと言う訳よ」


小蔭「流石は、サニア様なの! それなら、小蔭みたいな小型種も皆の役に立てる様に魔法具とかで協力し易いと思うの」


ツリピフェラ「それなら尚更、ツリ達も全面的に協力しないといけないの」


聡「そうだね。 光属性や氷の補助魔法が有る中型種以上ならまだしも、等倍属性の小型種に協力して貰うからには前戦部隊が優秀な必要が有るし、あの国での木本は……マグノリアだからね」


ツリピフェラ「ツリ達は木本プリバドだけれど、そう言う事なの」


マリアンナ「やっぱり、種族名は譲れませんよね」


聡「ツリピフェラちゃん、安心してね。

 僕等から見た君達は、生粋のプリバドなんだから」


ツリピフェラ「……ありがとうなの」


チューリップ&ロリポップ「ツリピフェラちゃん、良かったね♪」


木本プリバド達「気に成って見に来たら、そう言う事だったの」



 僕等が振り返ると、頭の上に菫すみれで作った冠かんむりの様な蕾つぼみを付けた女の子達が3人並んでいた。


木本プリバド「そこのお兄さんに、東洋怪異とプレシアを繋ぐだけの気量が有るとすれば、それはそれで興味深いけれど……ラミ達が協力する前に、一つだけ聞かせて欲しいの」


聡「分かった。 どんな質問かな?」


 僕の返事にも表情一つ変えない木本達。

 悪気は無いのだろうけれど、流石にこれは恐ろしい。



木本プリバド「部外者のお兄さんが、外部勢力に対抗しているのはどうしてなの?」


聡「元々対抗するつもりは……確かに結果的には対抗している訳だけれど、むしろ恋人も居るこの世界の中で、同胞を警戒する事になっているセフィリカさんが可哀想だったからかな」


木本プリバド「そう言う事なら、ラミ達も安心して力を貸せるの。

 ラミ達も、三元素属性を問題解決のために使う事には抵抗が有るけれど、相手を憎まなければ、この力は最強なの」


聡「ありがとう。 木本の皆に協力して貰えるのなら、本当に心強いよ」


ツリピフェラ「ラミフロルスちゃん、ありがとうなの」


マリアンナ「御協力、有難う御座います」


木本プリバド「それと、言い遅れたけれど、ラミ達はラミフロルスなの。

 宜しくなの」


聡「宜しくね♪ ラミフロルスちゃん」



 ……木本プリバドが、本当の強者で良かった。

 それにしても、菫みたいな花を付ける木なんだね。

 他の木が居るのなら、どうして種族の総称がモクレンなんだろう?

 それが原点なのかな。


サニア「それじゃあ、私達はプレシアに帰ろうかしら。

 姫君が夫や側室を喜んで迎えるのは当然な事だし、戦いに慣れているサラマンダーや蛇姫さんには、私が話を付けておくわ」


聡「御願いするよ。 サニアちゃん」


チューリップ&ラミフロルス達「行ってらっしゃい♪」



サニア「話が早かったのは良かったんだけれど、今からシュクレを目指すと、もう夕方よね」


 合流して早々、あの時の様な顔をしたサニアちゃん。

 この子、10歳なのに相変わらずだね。


ロリポップ「それなら、ロリの御家と帰りが遅くなった時用の別荘に泊まって行けば良いの♪」


聡「ロリポップちゃん、別荘って言っても、あの御家と同じ様な造りだよね」


サニア「通りで二手に分かれる訳ね。

 問題は、聡お兄ちゃんの側に誰を割り振るかよね」


聡「公正を期すなら、ミックスフロートに乗っている間あまり話さない二人だよね」


サニア「それなら、操縦者のロリポップさんと、後釜で控えめなマリアンナさんね」


マリアンナ「光栄です♪」


小蔭&ツリピフェラ「そう言う事なら、納得なの」



ロリポップ「それじゃあ、聡お兄ちゃん、マリアンナお姉ちゃんも宜しくなの♪」


聡&マリアンナ「こちらこそ、宜しくね♪ ロリポップちゃん」


 こうして僕等は、ロリポップちゃんの御家と別荘に分かれて泊まった訳だけれど、事の運びはそこまで穏便には進まなかった。

 どうしてかって? それは、人選を良く見れば分かるよね。


ロリポップ「クゥ、スゥ……」


マリアンナ「ねえ、聡様。 今夜は、御主人様とお慕いしても宜しいですか?」


 風珠に積んでいた移動式の空気圧ベッドの様な物に寝ていると、熟睡したロリポップちゃんを脇目にマリアンナさんが僕の隣にやって来ていた。


聡「マリアンナさんがそうしたいのなら僕はいつでも良いけれど、こんな夜中にどうしたの?」


マリアンナ「小さい女の子が熟睡した傍らで、夫と側室の関係に有る若い男女が二人きり。 する事なんて、一つじゃないですか♪」


 いや、それは放送規定に関わると言うか、あの子達を優先したい僕のポリシーにも関わる。 美少女好きに合わせた深夜番組とかなら、そう言った表現も有って然るべきだと思うけれど。



聡「マリアンナさんの愛情はとっても嬉しいけれど、僕には大切な旧友や正妻が居るんだ。 今直に、気持ちに応えてあげられなくて、ごめんね」


マリアンナ「誠実な、聡様らしいですね。 それでは、このまま御主人様の事を抱き寄せて、子守唄を唄うだけでしたら宜しいですか?」


聡「それなら、大丈夫だけれど……嬉し過ぎて、寝言で好きって言っちゃうかも」


マリアンナ「クスクス、可愛いのですね♪

 それでは、私に全部を任せて甘えて下さいね♪」


 僕も人選を良く見るべきだったけれど、そう言う事が有った訳だよ。



 夜明け前、ロリポップちゃんに起こされた僕がマリアンナさんの方を見遣ると彼女はクスリと満足そうに微笑んだ。

 どうやら、彼女にはあんな風にしている時が一番嬉しいみたいだね。


サニア「あら、聡お兄ちゃん達も、夜明け前に起こされたのね」


聡「それじゃあ、サニアちゃんもなんだね」


 僕等の場合はロリポップちゃんだったけれど、あっちは十割以上ツリピフェラちゃんなのだろうね。


ツリピフェラ「そう言う事なの」


 いつも通りに、ワンテンポ遅れて合わせたツリピフェラちゃん。

 流石は、最強生物だね♪



小蔭「長旅の前に、御料理を作っておいたの」


聡「小蔭ちゃん、有難う」


 猫耳のこの子は、夜明け前でも元気そうだね。

 種族的にはこの子はアサシンの筈だけれど、献身的で家事全般が得意だと、むしろそっちの方が際立つよね。

 実際、移動の合間とか皆が見ていない所で、陰ながら支えてくれている訳だし。


ロリポップ「それじゃあ、御料理も入れたら、プレシアに出発なの!」


 先日の様にミックスフロートに風珠を乗せて対岸の御城に帰還した僕等は、ソフィアさんに詳しい経緯いきさつを話した上で先代の姫君と言う元の立場に戻って頂いた。

 勿論、風珠は綺麗に片付けてから倉庫に返した訳だけれど、10日分の食料を入れておいてくれたサニアちゃんには感謝の一言だよ。

 その後は、言わずもがなだよね。 ……今まで通りに言うけれど。



シャンナ「御主人様、御帰りなさいませ!

 可愛い子を連れていますね♪」


聡「シャンナさん、ただいま。

 この子達は、皆僕の側室なんだ。 紹介するね」


シャンナ「御願いします♪」


聡「まずは、僕の旧友で東洋怪異の蛇姫様の御付きをしていた宵月小蔭ちゃん」


小蔭「シャンナさん、宜しく御願いします」


聡「次に、木本の女の子で、チューリップちゃんの御付きをしていたツリピフェラちゃん」


ツリピフェラ「シャンナさん、宜しくなの」


シャンナ「二人共、宜しく御願いします♪」



聡「スノードロップでコーティス様の御付きをしていたマリアンナさんとは、知り合いかな?」


マリアンナ「そうですね。 シャンナさん、御久し振りです♪」


シャンナ「マリアンナさん、御久し振りです♪

 私も含めて、皆さん揃ってメイドなのですね!

 聡様は、献身的な女性に御主人様と慕われるのが、嬉しいんですね♪」


ツリピフェラ「そう言う事なの?」


聡「……そうかも知れない。

 向こうに居る頃は、そう言う自覚は無かったんだけれどな」


 ツリピフェラちゃんの反応が斬新過ぎて、一瞬質問が頭に入って来なかったよ。


シャンナ「そう言えば、シェリナ様も貴男の事を御主人様と慕っておりますね♪」


ツリピフェラ「聡お兄さんは自分の事を慕ってくれる女の子の恋心が分かるから、そうしてくれる皆の気持ちに応えてあげたくなるんだと思うの」


マリアンナ「名考察ですね♪」


シャンナ「それでは私も、貴男様の側室になっても宜しいですか?」


聡「喜んで迎えさせて貰うよ。 皆も良いよね」


シャンナ「有難う御座います、御主人様!」


小蔭&ツリピフェラ「良かったね、シャンナさん♪」


サニア「(小声)聡お兄ちゃん、ありがとね♪」



シャンナ「ところで、プレシアの事をあまり知らない子達を私の所に連れて来たという事は、この国でのメイドの作法を教わりたいのですか?」


ツリピフェラ「そう言う事なの。 シャンナさん、宜しくなの」


小蔭&マリアンナ「シャンナさん、宜しく御願いします」


 僕が話を振るまでもなく本題に入った、優秀過ぎる側室達。

 誰に嫁いだかによってその後の運命が大きく左右されるこの世界の女性にとっては、この辺りの鋭敏さも必然なんだろうね。


ツリピフェラ「それじゃあ、ツリ達は花嫁修業をして来るから、待っていてね」


聡「ツリピフェラちゃん、皆も頑張ってね」


小蔭「聡お兄ちゃん、小蔭も頑張るの♪」


マリアンナ「御主人様、行って参ります♪」



 予定通りに4人の側室を花嫁修業に送り出した僕は、国民の理解を得るために奔走しているあの子とは別行動で独自に他国向けの作戦を立てて、それをシェリナさんに伝える事にした。

 この流れだと、闘争によって最も影響を受けるあの二カ国が、戦争の直前まで蚊帳かやの外になる訳だからね。


シェリナ「御主人様、吉日はまだですのに、どうして御連絡を!?」


聡「ツリピフェラちゃんの魔法具を借りているんだ。

 あの子は不思議と、これが必要な時は、いつも僕の隣に居るからね」


シェリナ「あの子らしいですね♪

 何か、情勢に変化があったのですね」


聡「御察しの通りだよ。 シェリナさんの御蔭で全国が協力関係になれる日も近い筈だけれど……木本プリバドの協力の元、セフィリカさん達の元同胞を迎え撃つ事になったんだ」


シェリナ「何ですって!? 聡様と言う者が在りながら、どうして……」


聡「シェリナさん、ごめんね。 見付かったら狙われる運命に有るセフィリカさんが可哀想で、僕が提案したんだよ。

 ……この際、僕の事は嫌いになってくれても構わない」



シェリナ「聡様……そう言った御事情でしたら、私はどこまでも御主人様に付いて参ります。 確かに私達は争い事を嫌いますが、隣国の危機を見過ごせる程では有りませんからね」


聡「シェリナさん、本当に有難う。

 併せて伝えておくけれど、今回の目的は、木本を起点に犠牲を出さずに勝つ事だから、セイレーンの皆は自衛のための後方支援で大丈夫だからね」


シェリナ「分かりました。 どちらに転んでも、御主人様は、御主人様なのですね♪

 それでは、御母様に話を通して参りますね」


聡「シェリナさん、御願いするよ」


 流石は、大剣みたいな鑓を持つセイレーンだね。

 決めるのはセレーネさんでも、この反応は、ほぼ確実に即決という事だろうね。

 それじゃあ、セフィリカさんにも伝えておこうか。



 彼女に一報を入れてからサニアちゃんの御部屋に戻ると、再び三元素の魔法具が輝き出した。 (E♭辺りの音響)フィッコォリィーン♪ フィッコリン♪

 この色は土属性からだし、ラフィちゃんだろうね。 本人より地形の属性に依存する事を差し置いても、随分と女性的なコール音が鳴るんだね。


ラフィール「聡お兄ちゃん、御久し振りなの♪」


聡「ラフィちゃん、御久し振りだね♪ 本当は、合間を見て立ち寄るのが一番なんだけれど、中々会いに行けなくて、ごめんね」


ラフィール「ラフィも本当は寂しいけれど、聡お兄ちゃんには、それよりも大事な事が有るの」


 ……ラフィちゃんみたいな子よりも大事な事って、僕に有るのかな?



聡「ラフィちゃん……これはサニアちゃんの例なんだけれど、先代の姫君に一時的に復帰して貰えれば、現在の姫君が他の国に居ても大丈夫という事が有ったんだ。

 丁度全国的にも共闘の気運が高まっているし、王家を守るために隠れて暮らす時代は、もう終わったと思うんだよ」


ラフィール「お兄ちゃん……」


聡「それに、王家を守るなら、ラフィちゃんは僕と一緒にプレシアに居た方が安全な筈なんだ」


ラフィール「その手が有ったの! ラフィ、皆に伝えて来るね!」


聡「併せて伝えておくと、共闘って言っても、ラフィちゃん達は戦わなくても大丈夫だからね。 こう言うのは、強き者の務めだよ」


ラフィール「分かったの! 聡お兄ちゃん、ありがとうなの♪」


 話し終えると早急に飛んで行ったであろう、ラフィールちゃん。

 風属性だし、早いんだね。



 30分後、ミックスフロートによる木本の移動や左右に分ける各種族の戦力、どの列に誰を置くかと言った戦略に関して僕なりの意見が纏まった頃、シェリナさんからの連絡が入った。


シェリナ「聡様主導という事は伏せて、伝えて参りました。

 種族の特性上、やはり私達には実戦での貢献は難しいのですが、後方支援でしたら率先して行って頂ける運びとなりました」


聡「シェリナさん、ありがとう。

 それにしては、やけに他人事みたいな話し方をするんだね」


シェリナ「その事ですが、聡様が来てから少し経ったこの時期にこの様な転機が訪れた事に対する因果関係が疑われた結果、私は皆様の帰るプレシアに逃がされる事が決まったのです。

 勿論そうすれば私の身は守られますが、私達に後方支援で良いと言って下さった御主人様を疑い、自軍の動きをその一存で決めようとしている彼女等が、私には他人に思えてならないのです」


聡「シェリナさん……確かに、本当に貴女の事を想っていたら、アクアさんも同行させるよね。 それじゃあ、セレーネさんへの繋ぎ方を教えてくれないかな?」


シェリナ「その魔法具に、セイレーンの直後に姫君と言えば繋がる筈ですよ。

 丁度それは、プリバドの姫君と関係の深いツリピフェラちゃんの物なのでしょう?」


聡「そうなんだ。 それじゃあ、掛けてみるよ」


シェリナ「御主人様、頑張って下さいね♪」



聡「……セイレーン・姫君」


セレーネ「プリバドからの連絡なんて、珍しいですね♪

 何か、御相談でも御有りですか?」


 本当に繋がったよ。 魔法具の属性を考えたら、当然の誤解をしているね。


聡「こちらは聡です。 ツリピフェラちゃんから魔法具を借りたんです。

 セレーネさん……」


セレーネ「聡さん……」


聡&セレーネ「ごめんなさい!&申し訳御座いません! ……え!?」


セレーネ「どうして、聡様が?」


 やっぱり、誤解だったみたいだね。



聡「実は、セフィリカさんに状況次第で戦う事を提案したのは僕なんです。

 ですが、和睦を尊ぶセイレーンには、こんなやり方は受け入れ難いですよね。

 それに、さっきの言葉だってシェリナさんを想っての物なのでしょう?」


セレーネ「どうやら、私こそ貴男を誤解していた様です。

 もしも戦闘に明るい方であれば、私達は自衛のためにも貴男とは距離を取る必要が有りますし、逆に影響力も含めて控えめな方でしたら、私達の身は全て私達自身で守らなければなりませんからね……焦っていたのです」


聡「アスピスに強国を味方させるためとは言え、それ以上の弱者に当たるセイレーンに目先の危険を連れて来る訳ですから非難をされても当然なのに、御理解感謝致します」


セレーネ「目先の危険? ……は! 私は、何と言う事を!

 シェリナに謝って参ります」


聡「でしたら、アクアさんも付き添わせるべきだったと御伝え下さい。

 勿論、あの国が安全に見えているのは僕等だけの筈ですから、シェリナさんは一人で来た方が良いとは思いますが……今のあの子には、貴女方セイレーンは対立国同然なんですから、くれぐれも御気を付けて」


セレーネ「対立国!? まさか、あの子そこまで……そうですね。

 御助言、感謝致します」


 シェリナさんに、連絡しようか? いや。

 こう言う時は、母娘だけで話した方が良い筈だよね。



 忙しいサニアちゃんに合わせて遅めの昼食を摂る時間が近付いても、彼女からの連絡が来ない事に尚更僕が不安を感じていると、二人の来訪者が来た事をソフィアさんが教えてくれた。

 間違い無い。 彼女が伝えに来てくれた時点で、きっとあの子達だね。

 僕等は急いで入口に向かう!


シェリナ「サプライズで、二人一緒に来てしまいました♪

 改めて、私はシェリナ=ウィズ=セレスティアルと申します。

 セイレーンの次期姫君である以前に、聡様の側室の候補として尽力致しますので、皆さんも、どうぞ宜しく御願い致します」


 確かに、サプライズだね。 覚えたての言葉なのに、上手に使えている。


ラフィール「ラフィール=ウェル=エスペシアなの! 宜しくなの♪」


マリアンナ「御丁寧に、有難う御座います♪

 私は、マリアンナ=ホワイトブーケと申します」


ツリピフェラ「ツリピフェラ=フローリスなの。 宜しくなの」


小蔭「宵月小蔭なの。 宜しくなの♪」


シャンナ「シャンナ=エメラルドラグーンと申します。

 宜しく御願いしますね♪」


サニア「皆が私の名前を知っていると、合わせにくいじゃない。

 それでも、宜しくね♪」


 ラフィちゃんは、シェリナさん越しに連絡をしていた訳だから姫君意外とは初対面だとしても、シャンナさんのフルネームって、そう言うんだ。

 空耳するとエメラルド・ドラゴンナイトにも聞こえるけれど、凄く良い名前だね♪



聡「シェリナさん、ラフィちゃん、良く来てくれたね!

 皆さえ良ければ、今直に側室として歓迎するよ♪」


サニア「私達としては、別に問題無いわよね」


小蔭&ツリピフェラ「そう言う事なの♪」


シェリナ&ラフィール「有難う御座います♪&ありがとうなの!」


マリアンナ&シャンナ「良かったですね♪ シェリナ様、ラフィール様!」


 こうして僕等は、晴れて8人揃った状態で目標に邁進まいしんできる事になった。

 難所も有ったし、ここから先はロウ・エンジェルの意向や東洋怪異の御国柄による部分が大きいけれど、僕等は僕等なりに今できる事をするだけだよ。


 芸術展の準備や護身用になる第四補助魔法までの練習に明け暮れていたら、約二週間と言う時間も数日の様に感じられた。 早朝に、サニアちゃんと芸術展の最終調整をした僕は、可愛い二人の待つ自室に戻って来た。



小蔭「お帰りなさいなの。 ……御主人様♪」


ラフィール「聡お兄ちゃん、おかえりなの♪」


聡「小蔭ちゃん、ラフィちゃん、ただいま。

 ラフィちゃんも、随分と慣れて来たよね」


ラフィール「そうなの♪ 聡お兄ちゃんも、魔法の練習、とっても頑張ったの!」


小蔭「そう言えば、三系統の第四魔法を習得できた人って、小蔭は初めて見たの」


聡「これも、僕に時間を作ってくれた皆の御蔭かな。

 木本ですら、上級魔法は一系統だし」


小蔭「やっぱり、そうだったの。

 ところで聡お兄ちゃん、芸術展は上手く行きそうなの?」


聡「大方の準備はできたよ。 と言っても、あの行事は本来、丁度今頃シャンナさんからメイドの作法を教わっている真最中のあの子達が主体なんだけれど」


ラフィール「そう言えば、セイレーンと、スノードロップと、下側の小型種なの♪」


小蔭「初めは五人一緒に教わっていたのに、ラフィール様の居る二人の側に小蔭を選んでくれて、ありがとうなの♪

 あの三人が優秀だからと言われたら、それまでだけれど」


聡「隣国の王宮関係者や、木本だからね。 セイレーン以外の外国が初めてのラフィちゃんや、異文化圏で育った小蔭ちゃんが出遅れるのは当然だと思うよ」


ラフィール「あっ! それ、サニアちゃんも言ってたの♪」


聡「そうだね。 でも、そうでなくても、二人には特別待たせた訳だからね」


小蔭「……ありがとうなの♪」



 安心した小蔭ちゃんは、椅子に腰かけた僕の御膝に横向きに座ると、複雑な表情をして続けた。


小蔭「こうしていると、小蔭は妹分だけれど、シェリナ様は大人の女性なの」


ラフィール「そうなの♪

 魔法楽器を持ったシェリナちゃんは、とっても奇麗なの!」


聡「セイレーンだからね。 とっても彼女らしいけれど、小蔭ちゃんには小蔭ちゃんの魅力が有るんだから、安心してね。

 非力な僕にこんな風にできるのは、小型種の特権なんだし」


小蔭「そうなの? 魔法剣を持った聡お兄ちゃんは、とても強そうに見えるけれど……あれ? お兄ちゃんの腕、ラフィール様みたいに柔らかいの」


ラフィール「……本当なの♪

 聡お兄ちゃんは、フェアリーみたいなお兄ちゃんなのね!」


聡「光水属性だから、どちらかと言うとシュクレだと思うけれどね。

 草本は、強い筈だし」


 僕とセイレーンとで装備品の重量が1.5倍近く違う事を考えれば、これもきっと当然な事だよ。 思えば、フロート系の魔法具で重さの感覚が騎兵なこの世界の人達の言うオリハルコンって、力の強い亜人が装備している事も考えるとアレだよね。

 あの種族が戦えば分かる事だけれど。



 コココン。 このノックは……サニアちゃんだろうね。

 そろそろ出発の準備をするのかな?


サニア「三人共、仲良しそうで何よりだわ♪

 スノードロップの御城にロリポップさんが到着するみたいだから、後20パース程したら展示品を積み込むわよ」


聡「僕等も、風珠と一緒に乗り込むんだよね。 ラフィちゃんも、頑張ろうね」


ラフィール「はーいなの♪」


 1/5日だから5時間弱だね。 思えば、隣国の中央付近からセイレーン寄りのこの御城って、90°近く有るんだよね。

 1週目の序盤は殆ど積み込むだけだから、停泊時間は少ないけれど。


サニア「まあ、小蔭さんは里帰りみたいな物だし、この分なら皆大丈夫でしょうね」


小蔭「そんな風に言われると、小蔭……恥ずかしいの♪」


聡「やっぱり、小蔭ちゃんは可愛いよね♪

 勿論二人も、とっても良い子だけれど」


サニア「全く、そんな風に上手だから、小さい女の子に囲まれちゃうのよ♪」


聡「それじゃあ、出発前に皆で一緒に集まらない?

 どの道一日以上はソフィアさんに任せる訳だし、他の子を含まない皆で一緒に居た時間って意外と少なかったから」


サニア「それもそうね。 御母様も、早めに任せてくれて大丈夫と言ってくれたし」



 納得したこの子がソフィアさんとシャンナさん達を探しに行くと、意外にも30分もしない内に皆を連れて戻って来た。

 どうやら彼女等も、僕と同じ事を考えていたみたいだね。


マリアンナ「御主人様、御待たせ致しました♪

 この際ですし、いっぱい甘えましょうね!」


サニア「あら、そう言うつもりで私達を集めたのかしら♪」


ツリピフェラ「そう言う事かも知れないし、そうじゃないかも知れないの」


シェリナ「私も御主人様は純粋に私達と御話をしたかっただけだと思いますが、恋人の欲求には敏感な方が御嫁さんらしいと言う物ですよ」


聡「シャンナさんの気持ちは嬉しいけれど、サニアちゃんや小蔭ちゃんが付いて来れる位には、御手柔らかにして欲しい所だよ」


ラフィール「ラフィ達に合わせてくれて、ありがとうなの!」


小蔭「小蔭も、嬉しいの♪」


シェリナ&マリアンナ「あらあら、良かったですね♪」


 御互いを良く理解し合った僕等は、出発までラフィちゃんにも合わせた範囲で仲良くし合った。

 勿論これはロウ・エンジェルと向き合う前の一時の休息なんだけれど、天使の単一種族を相手にこの世界のOP(オーバーパワー)勢が全面協力してくれるのなら木本に頼り切らなくてもアスピスを助けられる筈だし、きっと僕等になら、どんな難関も乗り越えられると信じている。

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