第3話 恋と魔法の世界

シェリナ「プレシアの皆さんも、聡様の様に御優しい方々なのですね」


聡「そうかも知れないね。

 それではソフィアさん、今頃あの子はどんな御顔をして戻って来たら良いか迷っているかも知れないですし、僕が探して来ましょうか?」


 一般的な男性なら、自分と似ている上に手間の掛かる子には素っ気無くする物だと思うけれど、ずっと妹みたいな子が欲しかった僕の加護欲はそれを許さなかった。

 僕からしたらたったそれだけの事なのに、ソフィアさんは娘を嫁に出す母親の様な表情で応えた。



ソフィア「本当にあの子を良く理解してあげられる御方なのですね。 それでは娘の事は貴男に一任致しますので、どうか大切にしてあげて下さいね」


聡「ソフィアさん、有難う御座います」


シェリナ「聡様、良かったですね!

 それでは、私は御主人様に正妻以上に愛される、両想いな側室を目指してしまいましょうか♪」


 僕と一緒に喜びながら、強国の姫君との三角関係による緊張感から解放されたシェリナさんは、ここでは一夫多妻が一般的と言わんばかりに僕の左腕に抱き付いて来た。


 柔和な彼女の事だし、あの時から小蔭ちゃんに正妻の座を譲るつもりで良い側室になるために花嫁修業をしていたと考えても筋は通るけれど、こんなに良く出来た美人の恋愛感情は僕としても報われて欲しい。



聡「国力とか既婚とかを理由に、好きな人を我慢しなくても良い。 そのための一夫多妻制なら、僕は誠実な恋愛だと思うよ」


シェリナ「まあ……」


 彼女は、顔を赤くして俯いた。

 それだけでも、この時の僕等には十分だった。


ソフィア「あらあら、好かれる男は大変ですね♪」


 衛兵にもクスクスと笑われたけれど、この際だし気にしない事にしよう。

 頬を赤らめたまま帰路に就いたシェリナさんを見送った僕は、未だに戻らないサニアちゃんを探しに左奥の通路に入った。



 すると、当の彼女は扉を開けて直ぐの所に居たんだ。

 ……この子、泣きそうな顔をしている。

 どうやら、僕の予想通りだったみたいだね。


サニア「え!? どうして、貴男が迎えに来てくれるのよ」


聡「それは、サニアちゃんの御母様公認の御兄さんだし」


サニア「そう言って貰えると、とっても嬉しいけれど……私は強国のプレシアの姫君なのに、あんなに簡単に逃げ出しちゃったのよ。

 私なんかよりも、シェリナさんの方が貴男の正妻にはきっと相応しいわ」


 最後の方は、消え入りそうな声だった。


 それでも、強気な雰囲気を持つこの子が、誰のために何を思って泣いているのかが分かる今の僕には、この子が僕に弱い一面を見せてくれる分も、その全てを支えてあげたいと素直に思えた。


 小蔭ちゃんとの一件を思い出した僕はこの子の右手を両手で包み込むと、できる限り優しく話し掛けた。



聡「ねえ、サニアちゃん、君は一人の女の子として見ても、僕にとっての一番の女性なんだよ」


サニア「聡……御兄さん?」


聡「だって、僕の事をこんなに慕って、こんなにも僕のために泣いてくれる優しい女の子は……この異世界にはサニアちゃんだけでしょう?

 だからね、サニアちゃんはもっと自信を持って良いんだよ」


サニア「うん。 ありがとう……聡、お兄ちゃん」


 瞳に涙を溜めたままだけれど笑ってくれる。

 それに、お兄ちゃんとも呼んでくれた。

 待ってあげる必要こそ有るけれど、やっぱりこの子は僕にとっての最高の正妻だよ。



サニア「……もう、大丈夫よ。 きっと皆が心配しているから、行って来るわね」


聡「そうだね。 解散したら、僕を御部屋に案内してよ」


サニア「分かっているわ。 信仰魔法と水魔法、期待していてよね!」


 元気になってくれて良かった。


 やっぱりあの子は、強気な方があの子らしいよ。



 数分後、彼女は自信満々と言わんばかりの笑みを浮かべて帰って来ると、僕を自室に招いた。

 魔法は相当気力を使うみたいだけれど、寝室までこの子は一緒が良いらしい。


サニア「ようこそ、私の御部屋へ。 そして、魔法の世界へ」


聡「サニアちゃん、宜しくね」


サニア「それじゃあ、適性が有る信仰魔法からが良いわね。

 まずは魔力についてだけれど、これは決して目には見えないけれど、確実にそこに有る物なのよ」


聡「微粒子の様に、小さ過ぎて眼の感度が追い付かないのかな?」


サニア「見える性質の物が見えない形をしていると言うより、それ自体の性質で見えないのよ」



聡「物質とは性質から違うんだね。

 つまり、魔法は発動直後に狙った場所で起きるの?」


サニア「勘が良いのね。

 魔法って、周囲に存在する様々な魔力の一属性と自分を共鳴させて、それを理力や精神力を活かして開放する事だから、その発生場所は種類によって違うのよ」


聡「つまり、この世界の一部の魔法には、速度や回避の概念は存在しないんだね」


サニア「確かにそうね。

 先に安全な水の魔力で周囲を覆って後から来る魔法を減衰させたり、それを攻撃に特化した炎の魔力で貫通すると言った概念は有るけれど、何しろ魔法の話ですもの」


 露骨に意外な事を聞かれたという表情をするサニアちゃん。


 炎が水を貫通できたり、速さや回避の概念が無かったり、きっとこの世界の上級魔法は高コストな分物理系よりも強いな。


 炎や水の物性よりも攻撃や防御のイメージそのものが優勢なら、かなりの応用が利くからね。


 この分なら、回復補助系が適正な僕でも魔法具とかの運用次第では十分に貢献できそうだね。



サニア「一言で言うと、魔法って分かりにくい物だから、それを使う中で覚えるしか無いのよ。

 光の適性を持っている上に勘も良い聡お兄ちゃんだから、きっと上手く行くと思うけれどね」


聡「魔法の達人らしい見解だね。

 でも、さっきの説明で何となく分かったよ」


 信仰魔法は精神力の方に依存する筈だし、周囲の魔力を味方に付けてから開放するのが原理なら、それを感じられる様に感性を研ぎ澄ませば良い筈。


サニア「貴男も強気なのね。

 それじゃあ、光属性の後に、第一回復魔法って言ってみて」


聡「分かった。 光属性・第一回復魔法!」


 言い終えた直後、半透明な白光が辺りを包むと共にサニアちゃんも目を見開いた。



 どうやら、魔力自体は見えなくても、それが使用者と反応して魔法が発動した場合は、その形質が見えるみたいだね。


 完全に見えないと戦場が混乱するのではとも思ったけれど、これなら魔法が見えている様な物だから、慣れれば大丈夫そうだね。


サニア「……一回で使えるなんて、信じられないわ。

 普通なら、7日は練習が必要なのよ!

 精神力自体なら第五魔法を使える私の理力並か、それ以上なのかも知れないわね」


聡「自体ならって、まるで目安の使用回数とか、スキル経験値が有るみたいな言い方だね」


サニア「貴男、本当は魔法を覚えた事が有るんじゃないの?

 言い方が、的確過ぎるわ」


聡「ゲーム知識、OP (オーバーパワー)だね」


サニア「お兄ちゃん達の世界には魔法なんて無い筈なのに、どうなっているのよ?」


聡「正に、目には見えなくても、確実にそこに有る様な物だね」



サニア「ともあれ、下位の魔法を覚えられたのなら、後は上位魔法の効果を思い浮かべながら練習すれば、いつかは習得できる筈よ。

 その説明も良いけれど、次はきっと水の補助魔法ね」


聡「そっか。

 副属性相応の習得数でも、効果を知っていれば上位魔法も教えられるんだね」


サニア「それで私の出番だったという訳よ。

 魔道書に関しては、外国の本まで読んだからね。

 水の補助魔法は属性耐性の障壁が主ね。

 防御補助と回復になるから、光との相性も最高よ」


聡「そうだろうね」


サニア「発動時の効果は第一魔法から順に炎耐性 水耐性 補助回復系の効果拡大 氷耐性に加えて攻撃魔法全般を若干軽減 風耐性に加えて理力の消耗を低減ね」


聡「大体予想はしていたけれど、これと回復魔法って完全なサポートだよね」


サニア「良いじゃない。 優しい聡お兄ちゃんらしくて」


 回復役は前に出ない方が良い訳だし、この際小さいサニアちゃん達に守られるべきなのかな?


 とは言え、亜人だからか人よりも力の強そうなセイレーンが165cmも有るこの異世界の中では、非力な僕なんて小型種みたいな物だし、そうしようか。


 あのプレシア兵とか言う強者には、絶対に勝てないし。



 数時間の練習の末に、光属性の第二回復魔法と水属性の第一補助魔法を習得した僕は、気力を使い果たしてへとへとになっていた。


 丁度良い時間という事で昼食に呼び出された僕等には、ここでもスライスされた白身魚の様な物が振舞われた訳だけれど、これは魔力の実と呼ばれている物で、この世界にはこれに近い果実が何種類も存在するらしい。


 その影響で、こちらの世界の人々が時間の流れ以上に若くて健康的と言うのなら頷けるけれど……それと同時に、僕はこの食卓のシェリナさんの国との相違点に疑問を持った。



聡「それにしても、ソフィアさん達遅いね。 この国の姫君の役割って、そんなに大変なの?」


サニア「結婚相手が決まると、別室で食べるのよ。 親族でも、対等な議論の相手ですものね」


聡「そっか。 法案に関しては、姫君の敵にも味方にも成り得るんだっけ」


サニア「そうよ。 だから、どんな意見を出すかは親族ではなく夫に相談するのよ。

 最も、今の私は魔法の指南のために国政から離れているから、その中では例外なのだけれどね」


聡「姫君も大変なんだね。

 そう言う意味では、専属のメイドさんって完全な味方だよね」


 そう言いながら手に取ったパンを置き、僕等をこの御部屋に招いた若いメイドさんの方に振り向こうとすると、それは彼女の愛情に満ちた声によって遮られた。



メイドさん「ほっぺにソースが付いていますよ。 小さいお姉ちゃん子で、可愛いのですね♪」


 ああ、お姉ちゃん優しい。

 振り向くと、鮮やかな朱色のポニーテールが印象的なメイドさんに、上目遣いに覗き込まれながら頬を撫でられてしまった。


 プレシアなのにこの髪色は……ヘアカラーなのかな?


メイドさん「取れましたよ。

 あら、そんなに寂しそうな御顔をしなくても大丈夫ですよ。

 貴男が小さい子に優しくして来た様に、お姉ちゃんも貴男みたいな可愛い異性には愛情深いんですからね♪」


 きっと、あの一件以降のサニアちゃんの事だね。

 僕の場合は広がって行く成長差に不安を感じていたのもあるけれど、この際だからか彼女の深い愛情には全く恥ずかしさは感じない。


サニア「聡お兄ちゃんには、シャンナみたいな御姉さんも良いのね」


 お姉さんだけにならまだしも、小さいサニアちゃんにも髪を撫でられてしまう。

 御食事は3人だけでしているから、これなら照れても何の問題も無い。


 この世界は一夫多妻な訳だから、彼女みたいな人に気を持たせる様な動きはなるべく控えた方が良いけれど……異世界での生活って言うのも、これはこれで幸せかも。



 彼女の愛情も堪能して元気を取り戻した僕は、その道では有名な育成ゲームの如く午後も魔法の練習に励んだ。


 午前は主属性の光魔法を練習したけれど、午後は副属性の筈なのに第一魔法を数回だけで習得できた事が気に成って水魔法を練習する事にしたら、予想通りに数時間で第二魔法を発動できた。


 主属性から見た副属性って、必ずしも半減位ではないみたいだね。


サニア「まさか、これ程とはね。

 ……もしかしたら、攻撃魔法用の理力が低めな代わりに、精神力だけではなく、1系統に絞った副属性の属性値も主属性並に高いのかも知れないわね」


 これも、きっと持ち主の精神性も含めて珍しい、信仰魔法の適性の御蔭なのかな?


聡「総合力に大差が無いなら、そう考えるのが妥当だよね。

 サニアちゃんは、第五攻撃魔法に加えて2属性の補助魔法を副属性として使えて、プレシアだからきっと物理もできる訳だし」


サニア「そう考えると、私にはプレシアの姫君としての驕りが有ったのかも知れないわね」


 強気な子にしては珍しく、高めなプライドを反省するサニアちゃん。


 それでも、小さいのにこれだけの能力を持っていれば、ある程度の自信は必然な気もする。



聡「それだけの事が出来る上に権力も有れば、自信過剰になるのは普通だよ。

 もしかしたら、それは魔法の性能や権威とかに対する理解力の裏返しなのかも知れないね」


 僕は当然な範囲でフォローをしたつもりだったけれど、この子の反応はそうではなかった。


 落ち込んでいた瞳が潤んで、頬も赤くなっている。


サニア「どうして、聡お兄ちゃんは何でも分かってくれるのよ。

プライドが高い嫌な子って……嫌われちゃうかもって心配したのに」


 西洋風の姫君の割には、随分と日本的な事を言うんだね。


 思えば、女性が多いこの世界では、姫君でも良い男性に嫁ぐために女性は御淑やかにと教わるのが道理だし、男性を立てる女性達の社会の中では我が物顔をする女性は特に嫌われそうだから、これはフォローが必要だね。



聡「僕が、サニアちゃんの事をそんな風に思える訳が無いよ。

 きっと、僕と似ている訳だし」


 それにしても、我が物顔は駄目か。

 この子と似ている僕も、気を付けないといけないよね。


サニア「そんな風に言ってくれたの、聡お兄ちゃんが初めてよ。

 ……私、聡お兄ちゃんと一緒に居ると、本当にお兄ちゃんが欲しくなっちゃう♪

 ねえ、私を義理の妹みたいにしてみない?」


聡「折角恋人同士になれた訳だし、そうしてみようかな」


 真赤になりながらも嬉しそうなサニアちゃんは、初々しい笑みを浮かべると、気力を消耗した僕をお兄ちゃんと呼びながらベッドに寝かし付けた。



 これも花嫁修業の成果かなと思いながらも、僕はずっと水面越しに恋をして来たこの子の事を意識しないではいられない。


 10歳らしいスラッとした体形でありながらも、大人の女性の様な包容力。

 それに加えて155cm位有る身長や大人びたデザインの黒のドレスやツインテリボンを真近で見てしまっては、日本育ちの僕には可愛い細身な女性にしか見えないよ。


サニア「どうしたの?

 もしかして、まだまだ小さい私に……興味が有るの♪」


 その言葉と共に、この子は本当に嬉しそうに頬を赤らめる。

 どんなに大切にして貰えても、未熟な少女では恋人を満足させられないと劣等感を感じていたのかも知れないね。


聡「僕等の世界では、大人の女性もサニアちゃん位の身長だから、ごめんね。

 この際正直に言うけれど、僕には君が小さい女の子には見えないよ」


 僕等の世界では決して言えない言葉だけれど、異世界育ちのこの子はきっとそれを望んでいる。


 好きな人から恋はまだ早いって突き放されるのは、少女にとってはとても残酷な事だし、意識してあげながらも10年間位僕が我慢してあげれば良いだけの事だよ。



サニア「聡、お兄ちゃん……そんな風に言って貰えると、私嬉しくって……疲れ切ったお兄ちゃんを、このまま甘えさせてあげたくなっちゃう♪」


 やっぱり、純粋なこの子には、お兄ちゃんの愛情が恋しかったみたいだね。


サニア「それなのに……私、御母様が言っていた事が気に成るの」


 何だろう?

 僕等の世界では嫌な予感しかしない流れだけれど、この世界は常識が違うからね。


 今までの会話を振り返ると、少なくともベッドが一緒な事までは、許容範囲の筈だよね。


聡「僕で良ければ、相談に乗ろうか?」


 サニアちゃんは、恥ずかしそうに俯きながらも少しずつ打ち明けてくれる。



サニア「恋人同士が心から御互いを想い合っていると、私みたいな女の子が生まれるって御母様は言っていたの。

 今の私達って、きっとそうだと思うけれど、自分の事をまだまだ小さいと思っていた私には、子供を育てる心の準備ができていないの」


 ああ、子供向けの大嘘を真に受けているんだね。

 それなら、こう答えてあげよう。


聡「サニアちゃん、安心して。

 その言葉にはね、少しだけ覚え切れていない部分が有るんだよ」


サニア「確かに、これを聞いたのは小さい頃だけれど、それじゃあ本当はどんな言葉なの?」



聡「それはね、子供が欲しい恋人同士が、から始まるんだよ。

 僕等みたいに御互いの事を本当に愛し合っていても、出会ったばかりとかで心の準備ができていない内とかは大丈夫なんだよ」


サニア「そっか……それもそうね。

 恋人同士が御互いを愛し合っているだけで子供が生まれるのなら、私には何人も妹が居て良い訳だし。 そっか……子供が欲しい恋人同士ね」


 良かった。

 大人の都合から生まれた優しい嘘だけれど、納得して貰えたみたいだね。


 すっかり安心し切ったサニアちゃんは、そのままベッドに飛び込んで来る。

 まだまだ小さい女の子……じゃない。 この子見た目以上に大人サイズだ。


 いや、清楚な大型種が居る時点で、小柄が美麗とされる世界では無いのだろうね。

 プレシアな訳だから、育てばあの黒剣を持てるのだろうし。



サニア「あれ? お兄ちゃん、随分と柔らかくて軽いのね。

 これじゃあ、シュクレじゃない」


聡「そこは、安定のプレシアなんだね」


 どこかで人型は同じ体格で身長が1割伸びると縦横の合計も1割程大きくなるって聞いた事が有るから、僕と同格の155cm弱なら46kg位は有る筈だね。


 体の構造から違えば筋肉の絶対量は要らない筈だけれど、物理の計算は重さと速さの乗算だし。


サニア「見た目は中型種なのに、おかしい。

 そんな小型種みたいで可愛いお兄ちゃんには、私が寝かし付けてあげる♪」


 それでも、この子が喜んでくれるのなら、良しとしようか。


 魔法や模擬戦に関してはまだまだ聞きたい事も多いけれど、御互いの恋心を受け入れ合った僕等はひとまずゆったりと仮眠を取ることにした。



 サニアちゃんを抱き枕にして、すっかり安心し切っていた僕は、僕を更に落ち着いた気持ちにさせてくれる柔和な声で目を覚ました。


シャンナ「サニア様、聡様、御食事の前に御風呂にしましょう。

聡様も、宜しければ全てを私に御任せして頂けませんか?

私は、貴男様が可愛くなってしまったんです」


 年上の女性にこんな事を言われるのは初めてだけれど、あの時の小蔭ちゃんの様な瞳を見れば、彼女が何を求めているのかも良く分かる。


聡「シャンナさんにそう言って貰えるのは嬉しいけれど、サニアちゃんの前だし」


サニア「聡お兄ちゃんは、一途なのね♪

 ここでは一夫多妻が普通だし、シャンナは成熟したお姉さんなんだから、聡お兄ちゃんに興味を持つのは当然な事なのよ」


この子も、シャンナさんが相手なら嫉妬心は湧かないんだね。



シャンナ「何だか私、情欲にしか興味が無いみたいで、ごめんなさいね」


 女性が殆どなこの世界だからこその恥じらいだとは思うけれど、美人な彼女にはとても似合う。


聡「柔和なシャンナさんには、恥じらいも含めて似合うし、そう言うのも僕は良いと思うよ」


 赤面しながらも何とか言い終わると、彼女は満面の笑みを返してくれる。


シャンナ「まあ、御上手なのですね♪

 もしも私が貴男様を想わないでは居られなくなってしまいましたら、その時は側室にして下さいね」



 きっと彼女は、愛情や子供が欲しくても出逢いが無かった、とても献身的な女性なんだろうね。


 姫君のメイドさんをしているといつもこの子と比べられていそうだし、欲求不満でも仕方無いけれど、僕はサニアちゃんを優先してあげたい。


聡「今回の一件にある程度の目途が立ったら、御相手を御願いするよ」


サニア「え、それって……聡お兄ちゃんは、やっぱり誠実なのね」


シャンナ「それでは、結婚はしないで貴男様と結ばれる時を心から御待ちしておりますね」


 彼女は、僕の顔を覗き込むと天使の様に微笑んだ。


 包容力が有る上に、長らく姫君の御付きをしているのだろうから花嫁修業もきっと完璧な彼女は、僕には勿体無い様にも感じられる。



シャンナ「真赤なまま俯いて、可愛いのですね♪

 もっと積極的になって下さっても私は叱ったりしませんから、安心して下さいね」


 彼女の気持ちも嬉しいけれど、僕には向こうで身に付けた距離感と言う物が有る。

 それに、ここまで良くしてくれる彼女には是非とも幸せになって貰いたいからね。


聡「この世界ではそれが正しいんだと思うけれど、僕はシャンナさんにはもっと一人の女性として幸せになって貰いたいんだ。

 これから御風呂だし、僕自身も心はもっと素直だと思うけれど……さっきの言葉が今の僕の本音だよ」


 僕自身、やっと上手に伝えられたと思えた時、二人はとても感銘を受けたと言った様子で歩みが遅くなっていた。


サニア「私、聡お兄ちゃんみたいな立派な人が結婚相手で良かったかも」


シャンナ「そうですね。

 何だか私も、ずっと欲求不満だった自分が恥ずかしいです」


 何とか女性のプライドを傷付けずに断ったつもりだけれど、この世界の女性には、そんな風に聞こえたんだね。


 この分だと、行く先々で気を付けないといけなさそうだね。



 御見合いみたいな雰囲気になってしまった僕等は、角を丸くした大理石の様な質感の御風呂に混浴してから、そんな心持ちのまま夕食を摂った。


 流石に今日は、丁度良い距離感が欲しくなって個室を提案したけれど、ずっとお兄ちゃんが欲しかったこの子はそれを許してはくれなかった。


 御風呂の時に二人が言っていたジェリーキューブはまだ早いという言葉も気に成るけれど、この時の僕には護身に関係しない特殊な魔法具や形式主義よりも、御互いの恋心を尊重する少女趣味なスタイルがそれ以上に嬉しかったんだよ。



 それからの僕は、昼夜を問わず魔法の練習に明け暮れた。


 魔法に名前が欲しいのを後回しにしてでも、付きっ切りで見てくれているこの子の期待に応えたかったからね。


 第一魔法が一回、第二魔法が数時間という流れに従ってか、二属性とも第三魔法を2日、第四魔法は7日で覚えられたから、初めの2日も合わせると吉日の模擬戦までには後8日有る。


 そう。 僕がアスピスの居る上側に協力して、威信のために戦うこの子達に勝利を目指す模擬戦だ。


 正確には、他国から見たら部外者の僕が、プレシアの潔白を証明するための戦いなのだけれど。



 ……説明が必要だね。


 模擬戦には国の威信を掛けるから、魔法具の生産技術に革新が有った国はそれが戦力に現れる筈だけれど、それが勝敗に関係しない戦局では隠し通す事もし易いから、どちらにとってもこれはあくまでも押されている局面での緊急手段の筈なんだ。


 模擬戦はセイレーンとフェアリーにアスピスが共闘する同盟側対プレシアで行われる訳だけれど、ミドルドラゴンアームと呼ばれる黒剣で無双するプレシアはこの条件でも圧倒的らしい。


 つまり、僕がこの子達に味方をしたら利用したマナ以上にオリハルコンの魔法具を作る技術の有無を測れるのは同盟側の三カ国だけで、プレシア側の潔白は証明できないんだ。


 それどころか、魔法具を使い込んでも回復を返されて負ける事が分かれば早急に降伏する筈だから同盟側の技術すら測れないとも考えると、僕がプレシア側に味方をする選択肢は無いんだよ。



 勝ち口? そうだね……それに直結する人物に会った時の話は、9日前にさかのぼる。

 あれは、明け方に光の第四回復魔法を習得して、水の第三補助魔法を練習し始めた早朝だった。


サニア「休憩にしましょう。

 第四魔法も余裕みたいだし、両方模擬戦には間に合うでしょう」


聡「そうだね。

 その模擬戦の事だけれど、プレシアの潔白を示すためにも使えないかな?」


サニア「確かに、私達も他国から見たら疑わしい筈だけれど、プレシアは押されないわよ」



聡「普通に戦ったら、そうだろうね。

 そこでだよ、僕は向こう側に味方しようと思うんだ」


サニア「それが良いでしょうね。 聡お兄ちゃんの力量も、見てみたいし」


聡「その位吹っ切れてくれると、僕も動き易いよ。

 恋人がサニアちゃんで、本当に良かった」


サニア「湖の御兄さんにそう言って貰えて光栄よ。

 それにしても、吹っ切れているか。

 私はただ嫉妬な事はしたくなくて、御互いに最高の状態で戦いたいだけなのに」


 彼女は自身の気位の高さを反省するけれど、僕にはそんな実直さもこの子の魅力に思える。



聡「良い意味で、明朗って言う意味だよ。 とっても御姫様らしいし」


サニア「心からそう思ってくれる男の人は、やっぱり聡お兄ちゃんだけよ。

 ありがとうね」


 サニアちゃんは、照れながらも安堵の表情を浮かべて微笑んだ。


サニア「そんな貴男となら、自軍がプレシアでも良い模擬戦を期待できるかも知れないけれど、戦力差は明白よ。

 明確な勝ち口なんて、氷属性位だけれど」


 この子は、本当に義理の妹の様に、頬を赤らめたまま僕と同じ事を考え始める。



聡「そうだろうね。 魔法具の性能からしてフェアリー達の風魔法では火力不足な筈だし、今回はスノードロップの力も借りられない。

 氷の魔法具でも有れば、話は別なんだけれど」


サニア「シュクレのミックスフロートね。

 問題は、ロリポップさんが力を貸すかよね」


 この子も、僕と同じ事を懸念しているんだね。

 もしもシュクレの魔法具がプレシアを倒したなんていう噂が立ったら、彼女等が黒幕として疑われても仕方が無い訳だから。



聡「その時は、サニアちゃんに演説を御願いするよ。

 僕等から見れば、その場合の彼女等が主犯格ではないのは明白だし」


サニア「それもそうね。

 聡お兄ちゃん用の特注品のために特別な氷を削ったという話なら、強力な魔法具のために相応のマナを使ったという事だし、そんな要件に力を貸している時点で彼女等には黒幕の意識は無いでしょう」


聡「そうだね。 この条件で僕等の様な人が疑うのはアスピスと連立国のプリバドの方だし、その可能性も十分に有り得るよね。

 ……それにしても、これだと僕の手の内が筒抜けだよね」


サニア「それは御互い様でしょう。 それでも、良い模擬戦にしましょうね」


この子は、あきれ顔で牽制した後に、自信満々と言った表情で優しく続けた。


聡「そうだね。 僕の策略、期待していてよ」


 彼女に負けじと、僕も強気な一言を柔らかく返す。



 普通の恋人同士なら、どちらか一方が相手を立てる場面なのだろうけれど、精神性の一致により結ばれている今の僕等には、読み合いやらミスリードやらの小細工も含めてそんな要素は必要無い。


 それどころか、この時の僕等には御互いに正面から当たれる模擬戦が、むしろ楽しみな位だったんだよ。



1~3話の後書き

 円盤風に3章*4グループに分けて投稿しましたが、4~6章は模擬戦前後の御話ですから戦術ゲームやハイファンタジーが好みな方にはここからが見所だと思いますよ♪


 大規模な世界観での12話アニメ風は尺の都合で情景描写や心理描写が制限される事から一般的なキャラゲーよりも読み手との相性依存が激しくなる傾向も有りますがA√はストレートで分かり易いので、人物意識のB√に備えてシャンナさんに対するフォローは彼女はサニアちゃん越しに聡さんに恋をしていたと言うだけに留めます。



 また、本作は元々考察物として作られていた都合上精霊界から見て異世界の主人公と関わる様な行動をし易いのは王族の様に特別な儀式をする様な立場の人だから通貨が違っても地球育ちの彼が資金面に苦労しない事や、身代わり石も追撃等で連キルを受ければ一度きりの命の中で低機動力だからプロローグに有る一文から回復魔法適性な彼にも緊張感が有る事等、話の流れの中で語られそうな行間の考察によっても理解が深まる書き方がされています。



(ここは読み飛ばせるけれどユーモアな雑談)

 模擬戦には参加しない先代のソフィアさんの戦闘時の格好が2円卓に近かったり、有名な聖遺物とはやっている事が逆な割に最後には戦力を求められなくなる遠距離で光り輝くBm音響な最強生物の事を指してあの辺りと被せる読み方も一年越しに提案されましたが、これは恋愛体質を拗らせる等身大の女性陣に焦点が当たらない割には男子にも行けるネタ動画適性として非常に優秀(あの幼女だったらそれはスペリオルな(優れた)読み方ですねと言ってくれる所)なので私はこれも推しています。


(私もこれに至るまでには一年掛かっているので、初見でこれを感じた方は多分天才と言うかあの名台詞。 ASMRの妹分辺りからしても、彼女等は愛情深い事を除けばリアル寄りの強いお姉さんですし、4章の前書きに世界的な戦記の氷の杖を元にしたオリハルコンランスの性質も書きましたが、あれは最強の武器使いの魔力版です)



 終わりに、私視点でジャンル別の難易度を比較すると、主人公無双や御都合主義は割と簡単で、漫画界隈にはギャグ系の方が難しいという言葉も有りますが、ある程度の整合性を勢いでごり押せるバトル物や話題を掲げて描き始めれば不整合が起こりにくいほのぼのが中堅で、筋が通る範囲で主人公優遇な戦記や人間ドラマ寄りの考察物がやや難しく、心境描写を掘り下げる3人称視点の小説が難しい印象ですが、ホラー系は怖がらせる部分の構成への合わせ易さや主人公目線で見た時の怖さの描き易さに応じて難易度が変わる印象です。


 総合的に様々な要素を持っている本作はこれらの中間だとは思いますが、この様な作風では本来少人数ロリ枠の猫耳っ子は小蔭ちゃんの様に描かれるのも道理ですね。

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