第10話 残骸と拳銃

「出して、全部!」


少女から、いきなり拳銃を突き付けられ

武内は背中のリュックを下ろした。


教授は両手を上げ、中田はベストの中身を爆撃機の機器だった何かの上に出させられている。



熊笹の生い茂る山の斜面に不時着したB29型爆撃機。


そこが彼女のアジトであった。


両翼は破断し、円筒状の機体だけ緩やかな斜面に突き刺さっている。


隠れ家にするには目立つのではないかと鈍い銀色の機体を見た教授が聞いたが

彼女の言では、こんな物は其処ら中に墜落ちているらしい。




ホルテンHO229戦闘機


継続戦争の前、ジェット推進により時速1000キロを越える化け物戦闘機の前に

アメリカの戦略爆撃隊は想像を絶する流血を強いられた。


もちろん、日米の戦闘機が護衛をしたが速度差が400キロにもなっては

護衛戦闘機自体が的に過ぎない。


もはや昼間爆撃は不可能と判断され、夜間爆撃に切り替えたが

ドイツ側はホルテン戦闘機に夜間レーダーを搭載した通称フレーダーマウスを投入。


航空優勢は最後までドイツ側にあり、長野県は米軍爆撃機の墓場と化したのだった。


この昼神近辺だけで失われた米軍爆撃機は300を越えている。

なるほど彼女が言うように両陣営が一々調べる事は無いだろう。


「さぁ、早く!」


彼女は爆撃機の爆弾庫に置かれた機器の残骸を机に

持ってる物を並べろと三人に詰めよっていた。


「酷ぇな!憲兵より傲慢だぞ!」


中田は愛用のハーフカメラを取り上げられ憤慨する。

憤慨するも彼女の右手にあるワルサーP38拳銃に逆らえはしなかった。


「こそこそ盗み撮りされた挙げ句、後になって憲兵に捕まりたくはないから!」

彼女は容赦なくカメラの背面の蓋を開ける。


「あーっ!!」

中田は悲鳴を上げたがフィルムは感光しおしまいだ。


「君は山賊の類いか?」

あまりの少女の変貌ぶりに教授は思わず聞いた。


「まさか、生き残る確率を増やす為よ」


少女は教授の荷物を一瞥すると突っ返し

次は武内のリュックに手を入れた。


「何、これ?」


リュックの底から彼女は拳銃を引き摺り出す。


南部十四年式拳銃


継続戦争前の日本軍の標準的な拳銃である。

今ではコルトM1911に切り替えられており

まず、お目にかかる事は無い代物だ。


「凄いの持ってるのね…遺品?」

彼女は慣れた手つきで弾倉を抜き薬室を確認する。


「ご…護身用に…」


武内は自分に向いたまま機器に置かれているワルサーの銃口を見ながら答えた。



戦前、日本軍士官は軍服は自費購入とされていた。


また軍刀、拳銃も被服の一部とされており

武内の父親も将校であった為、自費で拳銃を購入していたのだ。



そう言った経緯で、本人が戦死した後に一般家庭に軍が把握していない拳銃が大量に残る結果となり

政府は対策に追われては居るが、現在も自費購入なのは変わらない。


「護身用とか、撃つつもりなわけ?」


少女は呆れた顔で武内を見た。


「そりゃ、そうなったらだよ!」


殺人をしたくて哨戒線を越えたのではない。

自分の覚悟を嘲られたようで武内は思わず声をあげた。







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