それぞれの戦場


「ウィル、援護頼む!!」

「わかった―――《閃雷壁》」


 ウィルバートの簡易詠唱と共にアスタリオンの背後に雷の防壁が展開される。

 追いかけて来た敵兵が放った魔法は、全てその壁の前に砕け散る。


「《嵐刃》」

「うがっ!!」「ぐおっ!?」


 振り向きざまに魔法を放つ。

 追って来た相手はまともに攻撃を喰らって倒れたようだ。

 これで周囲の敵は全員倒したか……。


「集中力が切れてしまったかい、王子サマ?」

「アルメダ、からかわないでくれ」


 いや、どうやらまだ敵が残っていたようだ。

 右の方から数人の足音が聞こえて来る。


「一旦引くかね?」

「いいや、あの敵を倒してからにしよう。ウィルもそれで良いか?」

「ああ。異論はない」


 敵の数は多かったが、その殆どは寄せ集めの兵士だった。

 魔法の精度も低く、剣の腕もウィルバートや自分に劣る者が多い。

 奇襲を受けて隊列も組めずに散り散りになってこちらを迎撃している。


(兵を纏める人間は居ないのか……何故この状況で統率を取らずにいるんだ?)


 纏まって掛かられればこちらの勝ち目は薄くなる。

 だというのに相手には一向にその気配が無い。


「見つけたぞ、こっち―――ぶがっ」


 向かってきた敵に容赦なく攻撃を入れる。敵は吹き飛んだあとそのまま動かなくなる。

 魔法に対して防御もままならない様だ。


「この程度の兵で攻め込んでくるつもりだったとはな」

「奇襲であればこの程度の兵でも勝てると判断したんだろう。こちらが彼らを発見できたのが幸いだったな」

「む……どうやら私達の方向に向かって来る反応が一つある」


 今度こそ周囲の敵兵は倒したはずだが……そう思って居ると、この場の空気が一気に重苦しい物へと変わって行く。


「どうやら本命のお出ましの様だよ」


 彼女の言葉を聞いて咄嗟に魔力で防御をする。

 丁度その防壁に氷魔法が撃ち込まれた。

 的確にこちらの急所を狙って放たれたそれは、直前で防壁に阻まれ当たる事は無かった。


「これは中々……歯ごたえがありそうな子供達だ」


 自身の周囲を凍らせながらこちらに向かって来る影が一つ。

 どうやら敵も味方も関係ないのか、倒された敵兵も巻き込んで凍てつかせている。


「あの敵、氷に閉じ込めたものから魔力を奪い取ってるようだよ」


 アルメダが冷静に分析する。味方も巻き込むのはそれが理由か……。


「やはり寄せ集めの雑兵程度ではダメですね。まぁ魔力タンクの代わりくら―――」

「《魔帝の助言》」「《暴嵐の牙》」「《雷刃》」


 敵は長々と喋っているが、大人しく聞いてやる義理はこちらに無い。

 二人と合わせて一気に攻撃を仕掛ける。

 アルメダの補助魔法のお陰で、僕とウィルバートの身体能力や魔力がブーストされる。


 敵の四方から風の刃が襲い掛かり、正面からはウィルバートが雷を纏わせた剣で斬りかかる。

 だが風の刃は敵の周囲に現れた氷に弾かれ、ウィルバートの剣は敵が作り出した氷の刃で受け止められる。


「人が話している時はちゃんと聞かなきゃ駄目ですよ」

「ぐうっ……」


 剣を受け止められ動きが止まったウィルバートは腹に蹴りを入れられて後退する。

 そこに無数の氷塊が撃ち込まれる。


「ウィルバートは一人で回避できる。私達で奴を叩くよ」

「わかった」


 ウィルバートは撃ち込まれた氷塊を避け、避けきれないものは剣で捌き凌ぎきった。

 その間、アルメダの支援を受けたアスタリオンが詠唱込みの魔法で敵を叩く。


「”其は紅の暴威、幾千幾万をも喰らい尽くし、万物万象灰塵と化せ”《紅蓮嵐轟ブレイズストーム》」


 炎を纏った嵐が敵を包み込む。

 周囲に広がっていた木々も氷も纏めて燃やし尽くす炎の嵐は、敵に向かってその身を焦がさんと迫りゆく。


「おや、不味いですね」


 流石にこの規模の攻撃は不味いと判断したのか、敵は逃げの姿勢を取る。


「させるか、《全天雷装》」


 敵を逃がすまいと、全身に雷を纏ったウィルバートが回り込んで挟み込む。

 逃げ道を絶たれた男は苦し紛れに氷塊を繰り出すも、全身を包む雷装に弾かれ砕け散る。


「《封晶》」

「《雷刃・閃》」


 自身の周囲を氷で固めようとする男に、ウィルバートはすかさず剣を振り抜く。

 振り抜かれた剣は男の腕を捕らえたものの、落とすには僅かに間に合わず、氷に阻まれそのまま食い込んだ。

 そして二人を嵐が呑み込んでいく。


「ウィル!!」

「雷装を起動していたから問題無いとは思うけどね……どうなるか」


 ウィルバートまでも呑み込んだ嵐は、しばらくしてようやく止んだ。

 周囲の木々が燃やされ、抉られた地面の跡に残ったのは満身創痍な姿をした男と、多少の火傷が見られるが比較的軽傷で済んだウィルバートだった。


「無事だったか」

「ああ。それよりこいつは……」


 自身を守る為に形成した氷の殻は炎の嵐で溶け、食い込んでいた剣が外れた事でウィルバートによって一瞬の内に砕かれた様だ。

 魔力を奪っていた兵たちも残らず燃やされ、残っていた自身の魔力を防御に回すより早く叩きのめされていた。


「一応縛っておくよ」


 アルメダが魔法で男を縛り上げる。

 出来ればこの男に帝国が何故行動を起こしたのか聞きだしておきたい。

 だが、その前にこの戦いを終わらせなければ。


「よし、次の場所に行こう」

「ああ」「そうだね」


 こうして一人の敵兵を連れ、三人はまた別の戦場へと向かって行った。

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