第7話

全力疾走する有咲と、それを追いかける水のドラゴン。

乾燥する荒野には背の高い草も無ければ登って逃げられるような木もない。

有咲は走るのが速い方ではあったものの、巨大なドラゴンには敵わない。初めはそこそこあったドラゴンとの距離もどんどん迫ってきていた。


「やばっ!追いつかれる!」


少し振り返ると、そこには大きな口を開けて今にも食べに飛びついてきそうなドラゴンがいた。某恐竜映画さながらの迫力だ。






たまにある大岩を上手く使い距離を稼いで逃げ続けていると、大きな池が見えた。


「あれだ!」


池を見た瞬間、有咲は一つの策が浮かんだ。

それはドラゴンの見た目を利用したものだった。


「ドラゴンさん!頑張って着いてきてねー!」


有咲が叫ぶと、それに応えるかのようにドラゴンも叫び返した。




水の近くまで来ると、全力で池の中まで飛び込んだ。ドラゴンは水の縁ギリギリで踏みとどまった。


「よしっ!やっぱり!」


水の中までくればドラゴンは消える。これが有咲の策だった。


「ここなら安全に攻撃出来るぞー!いままでの仕返し、たっぷりしてやるからなー!」


通常攻撃も《炎の契り》の魔法攻撃のパラメータ上昇分もあり、ドラゴンに命中するとダメージエフェクトはないがその体は水飛沫へと変わり池の水と化していった。


しばらく同じことを繰り返し、見事ドラゴンの姿は無くなった。


「ふぅ〜、なんとかなったぁ。あんなの初心者の相手にする敵じゃないよー……」


ゲーム内で息切れというものは無いが、仮想の疲れが一瞬にして身体に現れた。


水を出て、まだ武器の試し打ちが足りない!とこの後の予定を決め、池を背に歩き出した時、地面が震え出した。


「えっ、なにこの揺れ!?」


思わず座り込んでしまった。そのとき、池の方からバシャバシャと水の跳ねる音が聞こえた。


「もしかして……」


嫌な予感が当たらないことを願いながら、ゆっくりと振り向いた。

そこには、池の水があったはずのえぐれた地面と、その水から成り立った先程追いかけっこをしたドラゴンの姿があった。

その巨体からは、いままでの恨みと言わんばかりの咆哮が放たれた。


「ど、どどどドラゴンだぁぁぁぁぁ!」


2度目の全力疾走。だがその巨体の1歩は先程のドラゴンの1歩とは比べ物にならない訳で、走り出したすぐあとに有咲の背後まで迫ってきた。


そのとき、


「【雷撃】!!」


ひとつの少女の声が響き渡った。

一瞬のうちにドラゴンの頭上に真っ黒な雷雲が出現したかと思うと、ドラゴン目掛けて巨大なイナズマが走った。


ドラゴンの咆哮が空気を揺らす。


不純物を含む水はよく電気を通す。ドラゴンの核となる場所は見当たらなかったが、その一撃は十分ドラゴンにとって致命傷となった。


なんとか持ちこたえたドラゴンだったが、少女の無慈悲な追撃によりその身体は大きな音をたて、池の水へと戻った。


「大丈夫だった!?」


呆然と立ち尽くす有咲の元に少女が駆け寄ってくる。

その少女に、有咲には見覚えがあった。


「ま、ま、舞衣!?」


「って、有咲!?」


その少女は、有咲にとってゲームの中では最も会いたくなかった人物であった。

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