第4話 セレス=フォン=サンクテュエール

 なんかスキル名の割にちょっとアレだなぁ……。


 あ、もしかして使ってたらもっと強くなるみたいな?

 言わばレベルとか、熟練度とか、だろうな。


 さっきよりほんの少しだけだけど、纏わせるのがスムーズになってる気がするし。


 気のせいかもしれないけど。


「……きゃあ!!」


 急にそんな悲鳴が聞こえてきた。

 こういうのはテンプレだとお姫様だよな。


 でもさっきはこれでテンプレじゃなかったしな……。

 とりあえず行ってみよう。


 俺は、テンプレだといいなと思いながらレイと一緒に声のした方に向かった。


 ―――――――――


 声の主は、俺たちと同じくらいの女の子だった。


 綺麗な蒼い髪のロングヘアだ。

 すごい可愛い。


 そして、その女の子は何かに襲われていた。


 そしてその女の子を襲っているものは……っ!


 黒い肌に立派な角が2つある物凄い筋肉、そして、金棒を持っている……これはあれか? 俗に言うブラックオーガとか言うやつか?


 そんなことを考えていたら突然ブラックオーガが消えた。

 いや、消えてはない。動きが速くてそう見えたんだ。


 やばい、マジでやばい。

 このままじゃあの子は死ぬ。


 俺が恐怖で動けずにいると、何か黒い影がその子を救った。

 その場からここに連れ去ってきたんだ。


 その黒い影は……黒い影だった。


 いや、ふざけてるんじゃなくて比喩でもなくて、文字通りほんとに黒い影だ。

 よく見ると俺の影からそれがでている。


 ……あ。

 俺はそれに心当たりがあった。


 俺のスキル、『影帝』だ。

 でも、俺はそんなことしようともしてないし、出来ないぞ?


 よく分からないけど助けられたみたいだし良かった。


 と言ってもこれからどうするかが問題だが。


 俺たちはあのオーガより遅い、つまり逃げられない、ということは倒すしかないわけだ。

 でも、どうやって? 今の俺はあいつの動きを見ることすら出来ない。

 さっきの反応を見るに、この子も勝てはしないだろう。

 どうする。



 ……あ。影と同化したら、ブラックオーガよりも早く動けるんじゃね?

 やってみよう。


 思いついたが吉日。


 俺は影に潜る。


 なんであんな低面積しか纏わせられないのに影と同化は出来るんだろうな?

 不思議だ。


 オーガがまた向かってくる。

 だがさっきのは違う点が2つ。


 1つ目、オーガの動きがすごくゆっくりに見える。

 2つ目、今の俺はオーガよりも全然早く動ける。


 つまり、倒せるかもしれないということだ。


 オーガが攻撃を始めるために減速する。

 俺はその瞬間に懐に出て、影を纏わせたアッパーを喰らわす。


「……らァッ!」


 俺の拳はオーガを殺すには至らなかったが、気絶をさせることは出来た。


 まだ足りなかったか……。

 もう一回俺が拳を振り抜くとオーガは絶命した。


 ……やっぱほんと威力えぐいな。


「……あぅ」

 俺の影が助けた女の子は緊張が解けたからか、その場にへたりこんだ。


「大丈夫ですか?」

 こういう時に何故か精神が強いレイが心配そうに話しかける。


「はい……なんとか……」

 レイの手を借りながら立ち上がる。


「助けて頂いて有難う御座いました」

 女の子が礼を言う。

 礼儀がしっかりしてるな。怖い思いをしただろうに。


「君、名前は?」


「私の名は、セレス=フォン=サンクテュエール。このサンクテュエール王国の第3王女です」

 セレス……。


 ……って!


「王女様!」


 服からして流石にそれはないかと思ったのに!!

 しかもここに来てテンプレ!!


 なんか嬉しいけど驚きの方が大きい!


「はい」

「まぁそりゃそうでしょ」

 セレスが平然と答え、レイがわかっていたように言う。


 え、分かってたの? なんで?


「それで、なんでこんな所にいたんですか?」


「あ、はい。私、魔法が小さな頃から得意で、ここら辺に出る魔物なら普通に倒せるくらいには強くなったんです。だからこっそり来てみたら普通はこんなところに出ないはずのブラックオーガに襲われて……」


 ブラックオーガは普通はこんなところに出ないのか。


 ……っていうかさ。

「王女様だったらもうちょっと気を付けろ! 簡単に外出するな!」

 そう言いながら俺は軽めのチョップを食らわした。


「あうっ」

 変な悲鳴をあげるセレス。


「というか、えぇっと……」

 ん? あぁ、そういえば俺達は名乗ってなかったな。


「俺は桜井真」

「私は光崎零だよ!」


「……後の名前が名前で前が名字ですか?」

「うん。そうだよ」


「そうですか……シンさん達はなんでこんなところに?」


「シンでいいよ。見たところ俺たちと同じくらいの歳でしょ?」

「私は先月16になったばかりです」

「お、同い年じゃん。ていうか先月って俺と一緒の月だね、俺は1月26日生まれだよ」

「私は1月30日です」

「近いね」

「ですね」

 俺たちは微笑みあった。


「……私を空気にしてイチャつかないでくれますかー?」

 不満そうな空気を纏いながら、レイがひょこっと出てきた。


「別にイチャついてなんかねーって」


「そうですよ。でも、呼び捨てはあまり得意ではないので……」

「そっか、分かったよ」

 あまり強要するものでもないしな。


「すみません」

「いやいや、こちらこそなんかごめんね」


 そんな会話をしていたら、いきなりレイが話しかけてきた。

「それよりもこれからどうするの? まだお金のことも泊まる場所のことも何も決まってないんだから、早く街とかそういう場所に行こうよ」


「何も決まっていない?」

 レイのその言葉を聞いて、セレスが不思議そうに呟いた。


「そういえば、シンさん達はなんでこんな場所にいたんですか?」

「あぁ」


 そういえば言ってないことに気付く俺とレイ。


 俺は自分たちの境遇のことを一切警戒せず、

 セレスに話した——。

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