上水の木々を通る風

呼続こよみ

音が風になる

 ——ぱるるるるるるーん……。

 上水に流れるフルートの音を、そう表現した小説がある。小学校の音楽の先生と同じ同姓同名の人が著いた作品で、その先生繋がりで出会った本だ。他の小説にはない、不思議な気持ちと鼓動が湧き出てきたのを覚えている。


 鬱蒼とした森の中を、上水は通り抜け、その途中で住宅地と接する。だいたいは近代的で洗練された意匠のものだ。そんな住宅のひとつから、今日も楽器を練習する音が聞こえる。


 ぱるるるるるるーん…とは違うが、伸びやかに広がり身体を包むような音色だ。音色はいいのだ、が。

 楽器を弾くその手指に、不自由さが交じる。すると、途端に音色が鈍色に重くなる。


 私が聴いても、それとわかるくらいだから、本人はさぞ擬しい(もどかしい)思いをしているのだろう。彼女にあとで美味しいクッキーでも持っていってやろうと思いつつ、重いスクールバックを持ち直して、家路をゆく。肩に感じる風も、心なしか冷たく感じたのだった。

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