タイトル

『ダブルキャスト』・登場人物表

すべて仮のものです。


人間


マリア・リオ(22) 子供の頃に観た映画の影響で、アクション映画スターのリャンに憧れ、自分も彼のようなアクション俳優になろうと夢見てきた。ブリギッテのヒューマンバディ。

シェリー・デュモンド(29) 若い頃から活躍していた美人女優。演技の幅を広めるために「ピグマリオン計画」に参加する。エルザのヒューマンバディ。

ジュゼ・アンブロージオ(17) 子役時代から活躍してきた女優。おとなしい性格。若手なのでまだ自分の実力に自信が持てていない。オリンピアのヒューマンバディ。

ウォード・リャン(58) 映画業界で30年以上も活躍してきたアクション・スター。近年は体力の衰えを感じてきていて、後輩の育成に力を入れている。

カイト・ウエンツ(23) マリアの幼なじみ。IT企業「ボディ・アンド・ソウル」社の研究所で、「ピグマリオン計画」のスタッフとして働いている。

ジョン・アーロン(60) ピグマリオン計画の責任者。「マッド・サイエンティスト」と言いたくなる奇矯な人物だが、実は意外に良識的。

ステファン・ガロード(38) 映画『漆黒のアポクリファ』の監督。これまで下積みで平凡な映画ばかり撮ってきた。

シンシア(43) 元女優。リャンの妻。

ホフマン(55) 運送会社を経営。マリアをバイトで雇っている。

レイジー(40) 警官。エアロバイクで街の空を飛びながら治安を守っている。

プロデューサーA(60) 『漆黒のアポクリファ』の製作者。ボディ・アンド・ソウル社の人間。

プロデューサーB(54) 『漆黒のアポクリファ』の製作者。映画会社側の人間。

ディートリッヒ(40) 脚本家。

マオ(45) 国際警察の刑事。

ボディガード(30) リャン夫妻の護衛の女性。


その他

プログラマー、警官、ハッカー、男優、女優など


AI


ブリギッテ マリアのAIバディ。外見年齢16歳。活発な性格。映画『漆黒のアポクリファ』の中では野性的な戦士を演じる。

エルザ シェリーのAIバディ。外見年齢22歳。映画の中では責任感の強い女王を演じる。

オリンピア ジュゼのAIバディ。外見年齢14歳。映画の中ではエルザの付き人。

フレーダー 女王エルザに仕える騎士の一人。ブリギッテたちと異なり、心を持たず、決められた台詞しか喋れない疑似AI。

フェリシア マリアが入れているアプリ『エバーフレンド』に内蔵の疑似AI。




1. プロローグ


今から15年前。まだ小さかったマリアは映画館で両親と映画を観ている。アクション・スター、ウォード・リャンの活躍するカンフー映画だ。

(以下、台詞は省略。映像のみで見せる)

クライマックス、飛行船でさらわれたヒロインを助けるため、ハンググライダーで接近するリャン。ゴンドラの窓を突き破って飛行船内に突入する。

ヒロインは爆弾をくくりつけられている。リモコンの起爆装置を手にして脅す悪役。リモコンには〈30:00〉という時間が表示されている。

リャンは隙を見て、悪役の持っていたリモコンを蹴り飛ばす。その拍子にリモコンのスイッチが入り、時間が30秒からカウントダウンしはじめる。

リャンと悪役の激しい格闘戦。

キックで相手を倒すリャン。素早くヒロインを縛っていたロープをほどく。

リモコンの時刻表示はあと5秒である。

それに気がついたリャン、ヒロインを抱きかかえ、窓から飛び出す。その直後、爆弾が爆発。

リャンとヒロイン、空中を飛んでいた別の飛行船に着地する。その横を燃えながら落下してゆく悪人の飛行船。

熱いキスを交わすリャンとヒロイン。


それを観ていた幼いマリア。感動し、眼を輝かせている。


2. 現在・工場区画


幼いマリアの無邪気な笑顔が、現在の大人になったマリアの顔にオーバーラップする。3Dゴーグルを着用しているので顔の下半分しか見えないが、つまらなそうな表情だ。

空間に投影されているのは、子供の頃に観たリャンの映画だ。もう何十回も観ているので飽きてきている。

マリアは港の近くの工場区画で、仕事の依頼が来るのを待つ間、映画を観ていたのだ。

そこにバイトの雇い主のホフマンが現われる。

ホフマン 「マリア、仕事だ。○○街の××から△△地区まで、8kgの電子部品を運んでくれとさ。大至急だ」

マリアがゴーグルの映像を切り替えると、街の3Dマップが空中に現われる。

マリア 「うわあ、この時間は地上は混んでるなあ」

ホフマン 「だからうちに依頼してきたんだ。20分で届けてほしいとよ」

マリア 「楽勝ね。あ、〈ボディ・アンド・ソウル〉って、カイトの会社だ」

ホフマン 「知り合いか?」

マリア 「子供の頃からの腐れ縁――行ってきます」

ホフマン 「ああ、カットオフ・スイッチは滅多に使うなよ。ここんとこ、街の上をワスプが飛んでるから」

マリア 「はあい」

マリアはエアロバイクにまたがり、宙に舞い上がる。またもゴーグルの映像を切り替える。

音楽が流れ、ここよりオープング・タイトル。


3. オープニング・タイトル


殺風景に見えた工場地帯が、空中に重なった3D映像によって一変する。空中に浮かぶ案内看板やCM。立体映像の数々が街を覆っている(『ブレードランナー』をずっと陽気に、派手にしたような感じ)。その中をマリアは軽やかに飛んでゆく。

地上は混雑しているが、エアロバイクはその上を飛んでいる。ただしバイクも投影された空中道路に沿って飛ばなくてはならない。地上ほどではないが、空中も交通規制されているのだ。

途中でワスプ(防衛用ドローン)とすれ違う。交通法規を破っている者はいないかAIが監視しているのだ。

大手ソフトハウス〈プレトリアス〉の屋上に着陸。待機していた社員が8kgの大容量メモリを手渡す。それを積んで、再び飛び上がるマリア。

前方に特徴的な〈ボディ・アンド・ソウル〉社のビルが見えてくる。途中の空中道路が混雑していた。20分という約束の時間に遅れそうで、マリアはあせる。

マリアは近くにワスプがいないのを確認し、カットオフ・スイッチを入れる。数秒間だが交通管制システムから自由になれるのだ。

空中道路を飛び越え、あるいは下をくぐり、立体映像を突き抜け、近道をするマリア。

画面に交通管制からはずれていることの警告が出る。また元の空中道路に戻り、〈ボディ・アンド・ソウル〉社を目指す。

無事にビルの屋上の駐車場に着陸。

ここでオープニングが終わる。


4. 〈ボディ・アンド・ソウル〉


カイト 「マリア!」

カイトが嬉しそうに飛び出してきて、荷物を受け取る。ハンコの代わりに、顔写真と網膜で本人確認。カイトは受け取った荷物を他の社員に手渡す。

カイト 「助かった。AIのシステムに不調が出たもんで、急いでバックアップを取り寄せなくちゃいけなくて」

マリア 「あれ、記憶装置よね? データなら何で回線で送らないの?」

カイト 「何ペタバイトって容量だから、回線で送るとかえって時間がかかるんだよ。途中でハッキングされるかもしれないし。物理的に手渡しする方が早い」

マリア 「そんな重いAIなの?」

カイト 「(得意げに)TAI、すなわち真の人工知能。画期的なブレイクスルーを実現してる。表面的に人間の知能を模してるだけじゃなく、感情も再現できるんだぜ」


〈ボディ・アンド・ソウル〉社の研究室。運ばれてきた記憶装置を、スタッフが取り付けている。他にも記憶装置が何十台も。それらすべてが合わさって、1個のAIのシステムを構成しているのだ。

同じシステムが全部で3つ。


マリア 「(憂鬱そうに)感情ねえ……」

カイト 「あ、今夜、暇? こっちは夕方には一段落つきそうなんだけどさ、××で食事ぐらい……」

マリア 「ごめん。16時までバイト」

カイト 「その後は?」

マリア 「いつものように教習所でレッスン。この前のオーディションの結果も発表になるから。じゃあね」

そう言って飛び立ってゆくマリア。見送るカイト。

カイト 「オーディションか……今度で7回目だったっけ?」


5. 街の上


空中を飛ぶマリアの宅配エアロバイク。

そこにレイジーの警察用エアロバイクが近づいてくる。

近くのビルの屋上に着陸する2台。

マリア 「(笑って)ああっと、もしかして制限高度オーバーしちゃいました?」

レイジー 「いや。(ぶすっとした顔で)交通局のデータでは、さっき、20秒ほど管制システムから途切れた時間があったんだが」

マリア 「ええ、そうなんですか?(と、すっとぼける) あっ、××ビルの南側あたりじゃないですか? あのへん、電波がつながりにくいから」

レイジー 「甘く見るなよ」

レイジーが頭上を指さす。ワスプが二人の上を飛んでゆく。

レイジー 「一定時間以上、管制システムから逸脱すると、ワスプが攻撃してくる」

マリア 「ニュースで見たことはありますけど、おおげさでしょ?」

レイジー 「この前、シドニーで、反AI派がドローンを大量に使ってテロをしかけただろ? だからこの街でも、昨日からワスプの警戒態勢が上がってる。システムに従わない機はテロリストと判断されて、問答無用で攻撃される。さすがに、いきなり人間を撃ってはこないがな。ローターは撃ち抜かれる。――そら」

レイジーは罰則のデータを表示する。

レイジー 「今日は減点だけで勘弁してやる」

マリア 「わあ、ありがとうございます」

レイジー 「いやあ、君は素直でいいね。若い奴の中には、軽い気持ちで空中車両に違法改造してる奴がいるんだよな。カットオフ・スイッチとか」

マリア 「…………」

レイジー 「してないよな?」

マリア 「し、してません!」

レイジー 「だったら、よろしい。今日もレッスンか?」

マリア 「はい」

レイジー 「がんばれよ。デビューできるのを楽しみにしてるからな」

飛び去るレイジー。マリアは複雑な表情で見送る。


6. タレント教習所


(以下は台詞なしで)

他の練習生といっしょに演技の練習をしているマリア。 ラブシーンの演技で、教官から注意を受けている。

そこに教習所の講師が現われ、先日のオーディションの結果が出たと発表される。

練習生たちの何人かはメールによる通知を見る。

一人の青年が採用通知を見て喜んでいる。近寄って肩を叩く友人たち。

マリアはその様子を横目で見て、自分の通知に目を落とし、ため息。


7. 露天の中華料理屋(夜)


マリアは友人のフェリシアと向かい合ってテーブルに着いている。マリアは軽い中華料理を食べている。フェリシアの前には、露天には不似合いなカクテルグラス。

フェリシア 「気にしなくたっていいわよ。1回や2回の失敗なんて何よ」

マリア 「もう7回目なんだけど……」

フェリシア 「だから、そんなのたいしたことないって。あなたはいつか成功を手にする人よ。大スターになれるわよ。才能と美貌があるんだもの。それに根性! 挑戦を続ければ、いつか必ず報われる。自分を信じなさい」

フェリシアは陽気に励まし続けるが、マリアの表情はやや悲しげ。黙々と食事をしているだけで、フェリシアの言葉は耳に入ってない。

そこにカイトがやって来る。

カイト 「よう。ここいい?」

そう言って、マリアの正面、フェリシアの座っている席に座る。フェリシアの姿にカイトが重なる。しかし、カイトにはフェリシアが見えていない。

マリアが3Dゴーグルをカットすると、フェリシアとカクテルグラスは消滅する。フェリシアは立体映像だったのだ。

カイト 「ん? 何か見てたの?」

マリア 「何でも。ニュースをちょっとだけ」

カイト 「ほらほら、あれ見なよ」

カイトは隣のテーブルを示す。男がビールを飲みながら、一人で笑っている。空中に腕を回し、存在しない誰かの肩を抱いているようだ。

カイト 「(笑って)エバーフレンド。今、けっこう人気あるみたいだけどさ、さすがに公衆の面前でやるなよって思うよな。いっしょに酒飲む相手もいないって、寂しすぎるだろ」

マリア 「(ぶすっとして)何か用?」

カイト 「オーディションは?」

マリア 「落ちた」

カイト 「やっぱり」

マリア 「嬉しそうね?」

カイト 「いやいや、嬉しいってそんな。それより、君にいい話、持ってきたんだけど」

マリア 「何?」

カイト 「映画の話。いや、映画に出れるわけじゃないけど。映画作りに協力する気、ある?」

マリア 「だから何?」

カイト 「ゴーグル、オンにして」

ゴーグルをオンにするカイト。マリアも自分のゴーグルをオンにすると、カイトと同じ映像が見えるようになる。

〈プロジェクト・ピグマリオン〉というロゴ。

マリア 「ピグマリオン計画?」

カイト 「略してP計画。我が社の画期的プロジェクト。映画を作るんだ。人間の俳優は使わない。CGのキャラクターをAIで動かす」

マリア 「そんなの、新しくも何ともないじゃない」

カイト 「いいや、これが新しいんだよ。我が社のAIキャラクターは人間とまったく変わらない性格を有する。人間が演技をつけたり、声をアフレコしたりするんじゃない。彼らが自分で自分を動かすんだ」

マリア 「自分で自分を?」

画面に現われたのは少女ブリギッテ。ファンタジー世界の野性的な戦士だ。

カイト 「たとえばこの女の子はブリギッテ。文明崩壊後の未来世界で活躍する女戦士だ。基本的なアクションとか動きとかは、かなりできるようになってる」

様々なアクションをこなし、笑ったり泣いたり怒ったりをしてみせるブリギッテ。

カイト 「でもあいにく、まだ役者として独り立ちできるほどじゃない。そこで演技指導できる人間が必要だ。ブリギッテを人間のように育て上げて、リアルな演技を――」

マリア 「ちょっと待って? ひょっとして、あたしがAIのキャラクターの演技指導?」

カイト 「そうだよ。実は他にも何人か候補がいるんだけどね。君もアクション・スター志望の女優の卵だし、ぴったりだと思って。オーディションに合格すれば――」

マリア 「冗談じゃない!」

カイト 「念願の映画界にデビューできるんだぜ?」

マリア 「単なる演技指導で? しかもAIの?」

カイト 「エンディングに名前がクレジットされるよ?」

マリア 「そんなこと言ってんじゃないわよ! あのね、あたしら俳優がどんだけCGキャラクターに仕事を奪われてるか知ってるの? 特にアクション俳優は! 昔はウォード・リャンみたいな偉大な俳優がたくさんいて、危険なアクションを吹き替えなしでこなしてた。でも、今やみんなCGばっかり。もう人間の俳優が危険に挑戦する必要なんかなくなってる」

カイト 「知ってるけどさ……」

マリア 「それなのに、さらに演技までみんなAIに? もう人間の俳優なんて絶滅じゃない。あたしにそんなことに手を貸せって言うの? 冗談じゃない。あたしは本物の人間として、本物の映画の世界で生きたいの。バーチャルじゃなく!」

カイト 「でも、人間の俳優が演じる映画は、決してなくならないと思うけどな」

マリア 「なぜ、そう思うの?」

カイト 「協力を申し出てる俳優もいるからだよ。まだ正式発表前だから、名前は明かせないけど、たとえばシェリー・デュモンド」

画面に現われるシェリー。

マリア 「え? え? え? まさか、『鏡の国の戦争』のシェリーが! あんな人気スターが!?」

カイト 「これがシェリーが指導する予定のキャラクター」

画面にエルザが現われる。

カイト 「女王エルザ。なんとなく『鏡の国の戦争』でシェリーが演じたヒロインみたいなイメージだろ? それで、うちの社長がダメ元で声をかけたみたら、二つ返事で……」

マリア 「何でー!」

カイト 「シェリーによれば、こういう新しい体験は、演技の幅を広げるきっかけになるかもしれない……ってことらしい」

マリア 「きっかけ……演技の幅……」

カイト 「あと、ジュゼ・アンブロージオにも声をかけてる。聞いたことある?」

マリア 「えーと……」

カイト 「『ホラー・オブ・ホラーハウス』で主人公の娘を演じてた子」

マリア 「あの小さい子が?」

カイト 「今は17歳。子役から経験を積んできたから、演技のキャリアはある」

画面に現われるジュゼ。

カイト 「彼女にはオリンピアの指導をやってもらおうと思ってる。子供っぽいキャラクターという設定だから、子役出身者ならちょうどいいんじゃないかな」

画面に現われるオリンピア。

カイト 「でもまだ、主役のブリギッテとペアになる人が決まってないんだよな。監督の話じゃ、名のある女優である必要はないって。ただ、アクションができることが必要条件。それに合う人がなかなかいなくて」

マリア 「それであたしに?」

カイト 「うん。あと、アクション・アドバイザーとして、ウォード・リャンに……」

マリア 「えええええええ!?」

カイト 「俳優として主演はしないけど、アクション・シーンの指導を……」

マリア 「リャンに会えるの!?」

カイト 「眼の色が変わったな?」

マリア 「何でそれを先に言わないの!? リャンといっしょに仕事できるなんて、すごいすごいすごい! 夢みたい!」

カイト 「(苦笑して)じゃあ、この話、進めていいよね?」

マリア 「もっちろん!」

満面の笑顔でうきうきしているマリア。

(カイトとしては、マリアが自分に抱きついてキスしてくれると思っていた)

カイト 「……それだけ?」

マリア 「え?」

カイト 「もっとその……感謝の意を示してくれてもいいような……」

マリア 「え? うん、もちろん感謝してるよ、カイト。ありがと!」

それからまた夢見るような表情になるマリア。

カイト 「……まあ、いいけど」


8. 〈ボディ・アンド・ソウル〉社入口


エントランスホールから上層階まで、吹き抜けのスペースに長いエスカレーターが伸びている。(ここ伏線)

一階の受付でチェックを受けるマリア。使用を義務づけられているヘッドセットを着用する。このビルにいる間、胸に入館証と氏名などのデータが表示され、他の人間にはそれが見えるのだ。

エスカレーターを上ってゆくマリア。


9. 〈ボディ・アンド・ソウル〉社内、オーディション会場


マリア以外にも4人の若い女優の卵が待機している。

係員 「オーディションに来られた方、お集まりください。

係員、データスーツを提示する。首から足首までを覆う、きわめて薄いスーツである。首の部分に小さなスイッチがある。

係員 「まず更衣室でこのデータスーツに着替えていただきます。下着まで全部脱いで。一応、みなさんの身体のサイズに合わせてます。着替え終わったら、体操服を着て、ここにお集まりください」

ぞろぞろと更衣室に向かうマリアたち。カイトも館内モニターでそれを見ている。無言で「がんばれ」という応援を送るが、もちろんマリアは気づかない。


数分後、体操服に着替え、ヘッドバンドを着けて集合する女優たち。

パイプ椅子が並んでいるだけの殺風景な場所。マリアは緊張した面持ち。

その周囲には何台ものカメラが立っていて、いろいろな角度から彼女たちを写している。

監督のステファン・ガロードが登場。なんとなく気迫が感じられない、おとなしい人物の印象。

ガロード 「ああ、楽にしてくれたまえ。私が今回の映画『漆黒のアポクリファ』の監督ステファン・ガロードだ。ええと、この中で私の前作『幸せをつかみたい!』を観た人間はいるかな?」

手を上げるマリア以外の4人。予習していなかったマリアは「まずかったかな」という表情。

ガロード 「君はなぜ観なかったんだね?」

マリア 「あの……ファミリー向けの恋愛コメディですよね?」

ガロード 「そうだが」

マリア 「すみません。アクション映画しか観ないもんで」

くすくすと笑う他の女優たち。肩身が狭くなるマリア。

ガロード 「(嘆息して)まあ、よかろう。今回の映画にラブシーンはないから、そういう演技は求めてはいない」

ほっとするマリア。

ガロード 「すでに知ってると思うが、君たちのうち一人に、この映画の主演女優であるブリギッテの演技指導をしてもらう。ピグマリオン計画だ。このオーディションには、その責任者にも来てもらっている」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

長編アニメ企画 ダブルキャスト 山本弘 @hirorin015

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る