林間学校④

 夕食も終わり、ここから2つのイベントがあるのだが俺はそれに参加をするには荷が重かった。


 一つは、どの学校でもありがちなキャンプファイヤーである。


 これに関しては別に問題視はしておらず、参加することに何の問題はないのだが、もう一つあるイベントが俺を悩ませていたのだった。


「はぁ~、やっぱり今年も参加しないとダメか」

「そうだね、夏美がいるから去年よりは確率が上がってるから大丈夫とは思うけどね」

「肝試しって、どうゆう風になってるの?」

「肝試しは、各クラスでくじを引いて同じ番号になったペアになるっていう簡単な流れだよ。去年は、運よくアキが引いてくれたから助かったけどな」


 そう、俺はどうしてか暗闇がやけに苦手なのだ。


 寝る時とかの真っ暗とは違って思えてしまい、以前も暗闇に1人になった時はあまりの怖さにしゃがみ込んでしまっていた。


 それだけ、外の暗闇に恐怖心を持っているのだ。


 それがいつからなのかは、俺自身も分かっていないのだ。


 以前、両親に少しだけ聞いたけど『前からそうだった』と言われたので、そう理解せざる得なかったのだ。


「だったら、先生とかに理由を言えば何とかしてくれるんじゃないの?」


 夏美は、俺の不安な顔を見て助け舟を出してくれるのだが……世の中はそんなに甘い物ではない。


「それをやってしまうと収拾がつかないって言われてるんだよ。一応、親睦も兼ねてるから。今年はどうか分からないけどな」


 やるだけやってみるが、ダメであれば諦めるしかない。


 幸い、この事実はアキも知ってるので、何かあれば飛んできてくれるから。


「夏美は大丈夫か?問題が出たら連絡しろ。何とかするから」

「もう、ハルったら過保護過ぎだよ。今は自分が楽になる方法を考えて。でも、心配してくれありがとう」

「さて、そろそろキャンプファイヤーが始まりそうだから行こうか」


 アキの言葉に合図に俺らは外に出て、キャンプファイヤーを楽しむ。


 フォークダンスなんてほとんどしたことないから、ぎこちなさが半端なかった。


 キャンプファイヤーの最中にくじを引くことになっており、俺らもくじを引きに行くと冬姫と夏美がペアになったらしく、夏美は安堵していた。


 そうなると、アキと組めれば助かるのだがその願いは叶うことはなかった。


 俺とペアになったのはクラスで夏美・冬姫に次ぐ容姿を持つ女子だった。


 大木ひなた。同じクラスメートで夏美や冬姫と張り合えるような容姿を持っており、学力は学年トップでテストでも1位か2位しかとってるのを見たことない。


 俺が逆立ちをしても敵う相手ではない。


 容姿に至っては、若干だが冬姫寄りの感じでセミロングの赤茶色で少し大人びた高校生という感じ。


 けど、性格は気さくで誰でも明るく声を掛けてくれるので、男子女子関係なく信頼されている。


 実際、冬姫や夏美と一緒に話している時もあった。


 そんな、美少女が俺のペアになるとは思いもせずにいると。


「あ、犬飼君。今回はよろしく、私怖いのはちょっと苦手で犬飼君は怖いのは大丈夫?」

「ああ、怖いのは問題ないんだが。ただ、暗闇が苦手なんで近くにいてもらえると助かるけど嫌だったら離れててもいいから」


 ありのままを言うと、引かれそうなので少し強がってみたが、俺がびっくりしたのはその後の言葉だった。


「それはいいんだけど、紫季さんに私が怒られない?」

「どうして?」


『どうして?』って言いたくなるのは当然で、なぜ今ここで夏美の名前が出たのか不思議で仕方ないのだから。


「え?だって、付き合ってるんじゃないの?くじだから仕方ないとしても彼女以外がつっくいていたら怒られるんじゃないかなって……」

「何を勘違いしてるか分からないけど、俺は夏美とは付き合ってはいないよ」

「そ、そうなんだ。付き合ってないんだ~。そっか、そっか」


 女子の中では俺は夏美と付き合ってることになってるのか?後で夏美と冬姫に聞く必要がありそうだな。


「だから、もしなんかあればお互いにカバーしよう。改めてよろしく」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 ペアが無事決まり、一度俺はみんなの所へと戻ると百花繚乱と特命がいるのを、確認してどうやら肝試しの話をしてるようだったので、俺も話の輪に入ることにした。


「あ、ハル。おかえり。ペアはどうだった?」

「大木さんだったよ。怖いのは苦手らしいけど一応、俺の苦手も言っておいたから多分、大丈夫だとは思うけど」

「ほぅ、犬飼は怖いのは問題ないと?」


 俺とアキの言葉に割って入ってきたのは特命の杉下だった。


 なんだ、あの言い方にはなんか含みがあるような気がしてならなかったので、俺は聞くことにした。


「問題はないがそれがどうしたっていうんだよ」

「実は、今回の肝試しには我々非公式新聞部が暗躍していてな。少々であるが手を加えているのだ」

「はぁ、なんで?今回は新聞部は絡んでないはずだろ?なのにどうして」

「花村嬢から何を聞いたかは知らんが我々は、新聞部や生徒会がやれないことをやってあげているだけのことだ。慈善活動のようなものだな」


 杉下は『我々が正義だ』みたいな言い方をしてるが実際は、両方に喧嘩を売ってるだけにしか思えなかった。


「まぁ、楽しんでくれれば何よりだ。では、俺も準備があるので失礼する」

「ちょ、ちょっと待て。何したかくらいは教えろって、もういねぇし……」

「分かったでしょ?あれが杉下なのよ、神出鬼没でなにをするか読めない男。あ、鏑木は彼の補佐にもならないから安心しても大丈夫だから」


 実際に会ってみて分かったが確かに神出鬼没であり、癖もありそうだな。


 こりゃ、凛姉と悠姉が苦労する訳だ。俺とタイプが正反対だからな。


 そして、花村さん達が鏑木に対して完膚なきまで叩く。


「なんで、俺の扱いがこんなも酷いわけ?俺、悪いことしてないんだけど!?」

「黙りなさい、杉下のペットなんだから」

「葵~。そんなこと言ったら鏑木君が可哀想だよ~」


 うーん、何となくだが花村さん達が言ってることも一理ある。


 補佐にしては頼りないけど場を和ますのには大事なキャラのような気がする。


 なんか勿体無い。


「さて、そろそろ時間だから集合場所にでも向かうとするか」

「そうだな、本当は行きたくないが行かないと大木さんに迷惑かけるしな」

「ハル、夏美は私が守るから安心してね♪あ、大木さんに変な事したらどうなるか分かってるよね?」

「しねぇよ!そもそも大木さんとはほぼ接点ないしな、俺からしたらただのクラスメートでしかない」

「なら、いいけど。じゃ、いざ戦場へゴー!」


 戦場って。お前なら戦場にすらならんし、そう思っているのは寧ろ俺の方であろう。


 大木さんが万が一離れることがあれば、俺は動くことすら困難となるのでそれだけはなんとしても避けなければならない。


 肝試しのルールは適当というか雑で、ペアが揃い次第スタートする。


 大木さんがまだ来てないので冬姫と夏美は先に入っていった。


 あいつに怖いものはないのか……


 アキもペアが来たようで『ハル、悪いな先に行く』と告げ、暗闇に消えていった。

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