身に纏う死の影

 こいつは一体何を言っているのだろう。


「人違いでは?」

「冒険者はパーティ行動が義務付けられている。にもかかわらず、昨日お前は一人で町を出て、ここに来たな? なぜそんなことをした? ネクロマンサーよ」


 まるで町の警備兵ガードのような物言いをしているが……こいつら、ガードではない。その身に纏う死の匂い。アサシンか……なぜアサシンが私を追いかけてきたのだ?


「退会届をギルドに出した。私はもう冒険者ではない」

「戒厳令が出されてすぐ、お前は町を出た。昨日、町を出た冒険者は、お前一人だ」

「だから逃げたのではない。引退したのだ」


 なぜ? なぜだ? 王女誘拐? 窃盗? 何を言っている?


「玉璽をどこへ隠した」


 男のその言葉に、私は恐怖した。こいつらにとっては、誘拐された『王女』よりも盗まれた『玉璽』のほうが大切なのだ……

 

 男の腕が微かに動く。こいつら……初めから、私を殺すつもりのようだ。本当に捕らえるつもりなら、町のガードが来るはずだろう。


 話は通じそうにない。逃げなければ。なぜこんなことに……


「分かりました。一緒に行けばいいのでしょう?」


 そう言って、何も持っていない両手を上げる。一瞬開けて、私は後方へと走り出した。


「逃げたぞ!」


 木の間を縫うように走る。しかし、どう考えても奴らの方が足が速そうだ。


 どうする?


 こんな身に覚えのないことの為に、リィンと離れ離れになるのはまっぴらごめんだ。せめて、魔銃があればやりようもあるのだが、今更後悔しても始まらなかった。


 突然、足に激痛が走る。足がもつれて、転倒してしまった。足を見ると、ナイフが刺さっている。

 後ろを見ると、三人の男たちがフードの奥から冷たい眼で俺を見つめていた。


「私は何もしていない! 何かの間違いだ!」


 そう懸命に訴えても、彼らの様子に変化はない。足に刺さったナイフを引き抜き、力いっぱい投げる。それを軽くかわすと、男は手を上げた。その手から放たれるであろうナイフから逃れる為に、私は地面を転がる。

 と、その視界に、右手を前に差し出したリィンの姿が見えた。


「リィン、来ては……」


 しかし、その言葉を言い終わらないうちに、リィンの右手から炎の矢が放たれた。

 私の後ろで、断末魔の叫び声が上がる。振り向くと、全身を炎で覆われた男が、踊りながら倒れていった。


「レヴナントだ! 退け!」


 その声にまた一本、リィンの放つ炎の矢が飛んでいく。声を出した男に突き刺さると、全身から炎が上がった。男は苦悶の叫び声をあげながら、燃やされる。最後の一人は、木々の合間を縫って、逃げていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る