君しか見えない

 しばらくその森で食料を集めた。リィンに余計な魔力を使わせないよう気を付けていたのだが、突如現れたクマに対してだけ、私が魔銃を発射する前にリィンが矢の魔法を放ってしまった。

 低級の魔法ではあったが、魔法が使えるアンデッドといえば、リッチ以外ならレイスだろうか。しかし私は、その出来事以降、できるだけリィンを傍にいさせて、抱きしめながら歩くようにした。


 果物と木の実、そしてクマの肉を手に入れ、私とリィンはあらかじめ住居として予定していた遺跡へと移動した。

 アンデッドを魔導バイクに乗せるのは初めてだ。私の胸に体を預けるように乗っていたリィンは、流れ去る風景に何処か目を見開いて驚いているように見える。

 それが少しうれしく、必要以上にスピードを出してしまったせいか、その時間はあっという間に終わりをつげた。


 到着してすぐ遺跡の中を調べてみたが、探索隊が見つけた大きな石像があるだけで、おかしな様子は何もなかった。バイクに積んでいた荷物と食料を遺跡の中に運び入れる。

 リィンは虚ろな目をしながら中へ入ると、作業をしている私をぼんやりと見つめていた。

 毛布を重ねて簡易のベッドを作る。明日、草を集めて下に敷こう。そうすれば、もう少しふかふかのベッドになるはずだ。


「リィン、今日からここが二人の家だよ」


 私はそう言って、リィンに微笑みかけた。しかし焦点の合わない視線を泳がせる様子に変化はない。何度か呼び掛けてみたが、傍に来るだけで、私と目を合わせることはなかった。

 あの森の中でリィンが一瞬私に焦点を合わした時のことを思い出す。


 あの瞳をもう一度見たい。


 私はそばに来たリィンを抱き寄せると、二人で毛布の上に座った。リィンの髪をなで、唇にそっとキスをする。そして、リィンの膨らみに手をふれようとして、気が付いた。


 リィンの魔力が、大きくなっている?


 動けば動くほど魔力を使うはずのリィンは、しかし森で感じた時よりも、体に持つ魔力が増えているようだった。

 今までそんなことはなかった。そんなはずは……


 と、そこで、今までのアンデッドとリィンとの違いに思い当たる。


 もしかして……


 私は自分の立てた仮説が正しいかどうかを検証するため、リィンをベッドに横たえた。


「リィン……また私を、受け入れてくれるかい?」


 リィンの膨らみに手を触れる。するとリィンがはっと目を見開いて、私を見つめた。心臓が跳び出そうなほどに踊り始める。

 少し手を動かしてみると、リィンが今度は少し切なそうな表情を見せた。


「リィン、君に私の魔力をあげよう」


 その夜私は、わずかに見えた希望に縋る様に、疲れて果てて動けなくなるまでリィンを抱き続けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る