第4話 衝撃の事実

「えー、明日からはゴールデンウィークなので、学校は休みだ」


「「「YES!! ゴールデンウィーク!!」」」


 クラス全員が活き活きしているのを見ると、やはり気分が高揚せずにはいられない。今は終礼で、もう学校も終わりなのだが、俺は今起きている。


 皆さん、この凄さをお分かり頂けるかな?

 俺は今日、一度も学校で寝ていない。

 一時限目も二時限目も、弁当を食べた後でとてつもなく眠いはずの五時限目も、俺はずーーっと起きていたのだ。


 俺が一時限目の始まりで起きている事を確認した先生とクラスメイトは、普段喋ったことも無いはずの奴も一緒に胴上げをせがんできた程だ。その光景に涙した生徒もいたとかいないとか。

 なになに?

 何故俺が起きれているか知りたい?

 まあまあ早まるでないぞ、諸君。

 諸君はこんなことわざを知っているかな?


 目には目を 歯には歯を 眠りには眠りを


 このことわざから得た教訓で、俺は今起きれている。

 必勝法を見つけたのだ。

 テスト勉強で、もっと勉強したいのに眠すぎて出来ない! だとか。

 大学に受かりたいけど、眠すぎて徹夜しようとしても途中で寝てしまう! だとか。


 そんな諸君に朗報だ。今からこのカミリ・トクガワ様が、見つけた必勝法を教えてしんぜよう。

 その必勝法とは……




 ひたすらに寝る事である!!!


 俺はあの戦いが終わってから、直ぐに気を失った。幸運にも糸の拘束が外れたハクビが、徳川家の人を呼んで来てくれて、家に無事帰って来る事が出来たらしい。俺はその間も気を失っていて、三日程目が覚めなかったようだ。


 だが、俺は三日も寝たら怪我も治り、いつも夜の仕事のせいで起きている事が出来なかった学校も、こうして一睡もしないで終礼を迎える事が出来た。


「まあ長期休暇なので宿題も出すが、そこまで量多くねえから、これ配ったら今日終わりな」


 宿題という言葉に精神を刺激された怪物達は、途端に落胆と憤怒の鳴き声を上げる。まあ、俺もその怪物なのだが。

 宿題が皆のもとへ配られると、俺はそれを鞄の中に入れようと思い、ファスナーを開けた次の瞬間、


「あああああああ!」


 鞄の中から、腐り果てた人間の形をした妖怪が飛び出てきた。


「「「キャアアアア!」」」


 悲鳴は連鎖していき、クラス全員がその妖怪を見つめる。


 これは、不味い……。

 俺は皆にばれないように、妖怪の足元に煙幕を仕掛ける。白い煙が妖怪のところから教室全体へ広がると、俺は桜の木の近くの窓を開ける。木にとまっていたハクビが、足に持っている荷物を俺の方へ投げる、着物と神剣だ。


 俺はそれを上手くキャッチしてみせると、制服の上から着物を着る。この着物は特殊な素材で作られており、これを着ると人から見えなくなる。剣を片手に持ち、煙の中の影を見つける。


 その影の後ろへ移動すると、剣を持っている手とは逆の手で、首のところを軽く叩くと、その影は気絶し、倒れた。

 俺は次々と影を追っては気絶させた。


 煙が晴れると、妖怪は未だに同じ場所にいた。俺の後ろには気絶させたクラスメイトが倒れている。


「ハアアアアア!」


 正面から突っ込み、そのまま斬る。その妖怪はずっと同じ場所に立っていて、俺が斬るとそのまま倒れた。

 まるで手応えがない。本当に倒したのだろうか?


 ガラガラガラ


 突然教室のドアが開き、肩にハクビを乗せた大人の女性が入ってきた。


「あなたは……?」


「私はあなたと同じ、徳川家の一族。忘却を司る神・オウロラを宿しています、徳川 梨亜りあです」


 水色の髪にオレンジの唇、水着姿で現れた彼女は、俺にとっては少々刺激的だった。


「ビ……ビッチ?!」


「ビッ……! あなた失礼ね、女性に対してのマナーがなってないわよ!」


「す、すみません……」


「まあ良いわ」


 俺の(あくまで咄嗟に出た、悪気は無かった)暴言がそうとう傷ついたのか、顔を上げてもらえない。


「そういえば、どうしてここへ?」


 俺は話を変えようと試みる。


「ああ、それはね……」


 梨亜さんの話によると、ハクビが、学校に妖怪が出たと徳川家に伝えてくれ、梨亜さんを連れて来たという。

 状況を見て即座に判断し、行動に移すなんて、やはりハクビは天才烏だ。


「よっ! 天才! 将来有望!」


「そ、そんな事はないよぅ、あたいはただ出来る事をやっただけだよぅ」


 ハクビを煽ててやると、顔を真っ赤にして照れる。


「ところで、何で梨亜さんにしたんだ? 誰でも良いんじゃねえのか?」


「それはね……」


 梨亜さんは剣を抜き、上に掲げる。


「我流神剣術・忘却の光線レイン・アドマット!!」


 ピカーン!!


 梨亜さんの剣先が光り、周囲へ広がる。


「うおっ!!」


 眩しい。目を開けてなんていられない。腕や瞼で目を守っても、眩しく感じる程だ。


「もう大丈夫よ! 目を開けて」


 周りを見ても、何も変わった事はない。


「何をしたのか? って顔してるわね。あれは私が考えた技で、対象の人物の記憶を少しだけ変える事が出来るの。だいたい五分くらいかしら」


「え、じゃあ……」


「さっきの妖怪は無かった事に、気絶して倒れていたのは地震のせい、という事にしました!」


 梨亜さんはバッチリとウインクをする。


「あ、ありがとう!! ずっとどうしようって思ってて!」


 そうなると、やはり状況を見ただけで梨亜さんの能力が必要と考え、連れて来たハクビは素晴らしい。


「よっ! ハンサム! カッコイイ!!」


「いやぁ、だからあたいはただやるべき事を……」


「もう、したのは私なんだから、どうせなら私を褒めてよー!」


 今度は梨亜さんの顔が真っ赤に膨れ上がる。

 あ、そういえば俺はこの人に自己紹介してない!


「コホン、申し遅れましたが、僕は徳川カミリ、十五代目神剣術士長で御座います」


「え? いや、あなたが徳川カミリというのは知ってるけど、あなた……神剣術士長じゃないわよ。後、何? その喋り方?」


 あなた……神剣術士長じゃないわよ、ないわよ、ないわよ……、この言葉が頭の中を回転して、永遠に響く。


 ……え?


「ええーーーー!!」


 俺は齢十七歳にして、衝撃の事実を知ってしまった。

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