記録41 片付けと思い出

「お母様、何してるの?」

クローチェは部屋の入口から顔を覗かせてそう言った。

部屋の主である、クローチェの母……魔王代理はくるりと振り返った。

「クローチェ!今ね、お掃除してるの。久々に仕事が休みだから」

にっこり笑顔の魔王代理。

クローチェは苦笑いしている。

「掃除ね……」


部屋は片付いているどころか、床が見えなくなるほど物で散乱していた。

クローチェは知っている。魔王代理は片付けがめちゃくちゃ苦手なのだ。



「この箱、何が入っているの?」

クローチェも片付けを手伝うことにした。

床にドンッと置かれている大きくて洒落たデザインの物入れが通路の邪魔になっている。

「あぁ!それは大事な物が入っているのよ」

「まぁ……それは何となくわかるけど。開けるね?」

開けてみると、何やら紙がいっぱい入っている。

一枚取り出してみて、クローチェは「うぎゃあ!」と叫んだ。

箱に詰め込まれていた紙……それは、クローチェが幼い頃に描いた絵だ。


「懐かしいわね〜。これ、クローチェが初めて描いた私の似顔絵よ。それでこっちは、家族みんなを描いた絵。これは、魔王城の中庭の絵ね。これが、クローチェが5歳の時に私の誕生日にプレゼントしてくれた絵で〜……」

魔王代理は楽しそうにクローチェがいつ頃、どんな絵を描いたのか説明してくれる。

「わかったわかった!お母様、それ蓋して!捨ててとは言わないけど、恥ずかしいからっ!」

クローチェは顔を手で隠してそっぽ向いてしまった。



「まぁ……!これ、こんなところにあったのね」

魔王代理は棚の奥底で眠っていた小さな小箱を開けて中身を見ると、クスリと笑った。

クローチェもなんだなんだ、と覗いてくる。

「石?すごく綺麗だね」

小箱の中には、色とりどりの石が入っていた。どれも宝石のようにカッティングされてキラキラしているわけではなく、つやつやと綺麗に磨かれた石だった。

「懐かしいわ……これ、お父様からもらったものなの」

魔王代理は赤い石を一つ取り出すと、そう言った。

「お父様……ってことは、私のお祖父様からってこと?」

「えぇ、そうよ。クローチェのお祖父様ね、こういった石を集めるのが趣味だったのよ。いいなぁ、欲しいなぁって言ったらいくつかこの小箱に入れて、私が15歳の誕生日の時にくれたのよ」

「へぇ〜そうだったんだ!」

クローチェも一つ緑色の石を手に取ってみる。

コロンと手のひらに転がる石は可愛らしく、つやつやに磨かれた石はさわり心地も良い。さらに光に透かして見ればより美しい。

いつまでも見ていたくなる魅力があった。



綺麗な石達は再び箱の中に戻し、2人は片付けを再開した。

本棚を整理していると、アルバムを見つけた。


「これ、いつ頃のお母様なの?めっちゃわか〜い!」

10代頃と思われる魔王代理の写真を見つけたクローチェは楽しそうにアルバムを見ている。

「んー、これクローチェと同じ年頃のだと思うわ」

「へぇ〜……あ、このお洒落なドレスを着ている写真はなに?」

「これは友達の結婚式に参加した時のだわ」

意気揚々とページをめくっていたクローチェは、次のページをめくるとピタッと動きが止まった。


「……これ、若い頃のお母様とお父様の写真だよね」

クローチェが見せてくれた写真には、出会ったばかりの頃の2人が写っていた。

「懐かしいわね……」

2人とも、キリッとした表情だ。

魔王代理はそっと手を伸ばし、写真の中の魔王に触れた。


「それにしても、私とお父様って結構似てるよね?」

クローチェがそう言うので、魔王代理は写真の中の魔王と、目の前のクローチェを見比べる。

「そうね、ふわふわなくせ毛とか、目元がよく似てるわ」

魔王代理はストレートの黒髪だが、魔王はふわふわのくせ毛で紺色の髪だ。

目も、魔王代理がすっきりとした目元に対して魔王はパチッとしている。

クローチェの言う通り、髪質や目元は父親である魔王によく似ている。


クローチェがじっと魔王と魔王代理の写真を見ていると、急に魔王代理に抱きしめられた。

「わっ!な、なに?お母様」

「なんだかクローチェが寂しそうな顔をしたから」

クローチェは思わず自分の顔を触った。

「え、私、そんな顔してた?」

「えぇ」

魔王代理はそう言って、クローチェの頭を撫でる。

「……久しぶりにお父様の顔みたら、ちょっと寂しくなったのかも」

クローチェがそう呟いた。

いつもなら嫌がるところだが、今は大人しく、魔王代理にクローチェは抱きしめられていた。



何気なくクローチェは時計をみた。

そして、今の時刻を見て一気に青ざめる。

「お、お母様!大変っ!もう夕方だよ!」

ガバッと魔王代理を引き剥がす。

「あら〜?もう夕方なの?」

部屋はまだ半分も片付いてなかった。


結局、秘書のリンゼンやフィクなどにも手伝ってもらうことになったのであった……。

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