記録36 魔法が解けるまでのお茶会
魔王城の図書館の一角で事件は起きた。
「にゃにゃ……!!ボク、人間の姿ににゃってるぅ!?」
猫又は少年の姿に。
「僕、女の子の姿になってる……」
勇者リザシオンは少女の姿に。
「肉球!もふもふしっぽ!私、本当に猫になってる!」
クローチェは黒猫の姿に。
「これは……」
「か、館長……一体何が起きてるんでしょうか……!」
「い、今すぐ魔王代理様と医者を呼んできます!!」
図書館の館長のムートと、複数の図書館司書が騒然としていた。
「あらあら~!可愛い黒猫になって!クローチェ、とっても可愛いわ!」
会議を中断し、転移魔法でやってきた魔王代理が黒猫の姿になったクローチェを抱き上げて、なでなで、もふもふ。めっちゃ可愛がっている。
一方、勇者リザシオンの方は……
「お前……本当にリザシオンなのか……?」
アガットが信じられないと言った表情でリザシオンのことを見る。
「本当だよ。うぅ……違和感が……」
リザシオンは居心地悪そうだ。
「うわぁ、見た目は美少女だけど声はリザシオンだ……」
ミーチェもリザシオンのことをジロジロと見ながらそう言う。それに心なしか、残念そうに言うのだ。
「君、そのままでいいんじゃないかい?」
サクッとフォルティがそんなことを言う。
「ひどい、フォルティ!」
リザシオンが怒ってそう言うと、フォルティは「怒った顔も可愛いね!」とか言うので、リザシオンがさらに怒っている。
「それで……元の姿に戻ることはできるのかにゃ?」
医者からあちこち聴診器を当てられたりしている猫又がそう聞いた。
医者は頷く。
「えぇ、大丈夫ですよ。原因もわかったので、あとは的確な処置をするのみです」
「ちなみに、原因って何なの?」
クローチェがそう聞くと、医者は司書達を指差した。いや、正確には司書達が持っている本。それは、本棚から落ちてきた本だ。
「皆様の魔力と本に書いてある魔方陣や呪文が、落下した衝撃で反応したのでしょう。それで、意図せず皆様は、変身してしまった……というわけです」
落下してきた本はどれも変身魔法に関する書物ばかりだった。
「あ、あの……この変身魔法ってどのくらいで解けますか?」
リザシオンがそう聞くと医者は「うーん、二時間ぐらいで解けると思われます」と言った。
「に、二時間!?」
リザシオンはへなへなと床に座り込んだ。
「結構時間がかかるんだね」
クローチェがそう言うと、医者は申し訳なさそうな顔をした。
「皆様が意図的に変身魔法を使ったのではなく、意図せずに……なので。解除に時間がかかるのです」
「にゃるほどー」
猫又とクローチェは頷いた。
3人は医者と共に医務室に向かった。
魔法を解除するのに必要な道具が医務室にしかないからだ。
そして、ペタペタとお札やら、湿布やら腕輪やらを3人は付けられた。
「それでは皆様、魔法が解除されるまでこのまま安静にお願いいたします」
「このまま二時間……暇……」
クローチェがそう呟くと、メイドのフィクがシュバッと現れた!
「お茶の準備を致します。お医者様、お茶ぐらいは大丈夫ですよね?」
「えぇ、大丈夫です」
医者からのOKをもらうと、フィクはまたシュバッと姿を消した。お茶の準備に行ったのだろう。
「それじゃあ、私は会議に戻るわね。異変が起きたらすぐに呼んでちょうだい。転移魔法で駆けつけるわ」
魔王代理は医者にそう言って、椅子にちょこんと座る黒猫姿のクローチェに近寄る。
「クローチェ、お母さんが側にいなくても大丈夫?」
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。ほら、お母様、会議に戻らないと!」
「う~ん、このまま連れて、お膝に乗せてなでなでもふもふしながら会議したいわ……」
「だめですって!ほら、頑張ってお母様!」
しばらくは「クローチェをやっぱり連れていくわ!」とか言っていたが、クローチェから「お仕事集中!頑張って!」と言われ、魔王代理は名残惜しそうにしながら、会議室へと戻って行った。
しばらくすると、フィクが医務室の一角にお茶スペースを作り出した。
円形のテーブルに真っ白なテーブルクロス。
テーブルの上にお洒落なケーキスタンドを設置。ケーキスタンドには宝石のようなケーキが並んでいる!
繊細な花の意匠をあしらったティーカップが3つ並んだ。
「お待たせしました。皆様、こちらへどうぞ」
フィクがクローチェを抱き上げ、そして猫又とリザシオンを席まで案内する。
「にゃにゃ~!超美味しそうだにゃ!フィク、おすすめのケーキはどれにゃ?」
「白桃のタルトですね」
「あ!アップルパイがある!フィク、アップルパイ取って~」
猫又とクローチェはケーキスタンドに並ぶケーキを見て楽しそうにしている。
一方、リザシオンは椅子に行儀よく座ったまま、そわそわとしていた。
「あの……これって、僕も食べていいんですか?」
リザシオンがおずおずとそう尋ねると、フィクは「もちろんですよ」と言って白桃タルトを皿に乗せて渡した。
リザシオンは白桃タルトを一口食べる。
「わ、すごい!美味しい!!」
ぱあっと笑顔になったリザシオンを見て、フィクは少し微笑んだ。
そんな時だ。
「うぅ……このアップルパイ、どうやって食べよう!それに紅茶も!猫の姿だと、犬食いするしかない……でも姫としてのプライドがっ!食べ物は上品に食べたい……」
黒猫姿のクローチェが目の前のアップルパイと紅茶を見て唸る。
「にゃ~それじゃあ、こうすればいいじゃにゃい~?」
猫又が、紅茶をスプーンですくい、クローチェの口元まで持っていく。
クローチェはスプーンから紅茶を飲んだ。
「にゃにゃ~姫様かわい~!ほら、こうやって食べさせるやり方なら大丈夫にゃ!」
「猫又君、すごい!ねぇねぇフィク~アップルパイ食べさせて~!」
フィクがクローチェにアップルパイを食べさせてる様子をリザシオンは見ていた。
(いいなぁ……可愛い。僕もクローチェに食べさせてあげたいぃ……)
もぐもぐと白桃のタルトを食べながらそんなことを考えていると、クローチェと目があった。
「ねぇねぇ勇者、そのタルト美味しい?」
「え、うん!すごく美味しいよ!」
「そうなんだ~」
クローチェはそう言って白桃のタルトをじっと見ている。
「えっと、一口食べる?」
リザシオンがそう言うと、クローチェの紅い瞳がキラキラと輝いた。
「いいの!?わ~い!一口ください!」
クローチェがリザシオンのお膝に軽やかに飛び乗る。
リザシオンはドキドキしながら、クローチェの口元に一口サイズのタルトを持っていく。
ぱくっとクローチェが食べる。
ふわふわのしっぽが嬉しそうに揺れた。
「ん~!美味しいね!」
リザシオンは思わず胸元を押さえた。
「勇者殿、どうしましたか?」
「にゃ!?まさか体調が悪いのにゃ?」
フィクと猫又がリザシオンの様子を伺う。
「いえ……大丈夫です。むしろ体調は絶好調です!」
(クローチェ可愛い!うわぁああこの手から食べてくれたぁああ!!クローチェ可愛い!!)
リザシオンは心の中でクローチェへの愛を叫んだ。
魔法が解けるまで、ちょとお茶会……。
3人は無事に元の姿に戻れるかな?
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