記録31 準備万端!

「え、アルジェお兄様って明日、帰るんだっけ?」

フィクと一緒に映画制作に向けて演劇の練習していたクローチェがそう言う。


「えぇ。そうですよ。あ、もしかして……さみしいんですか?」

フィクがそう聞けば、クローチェは首をブンブンと横に振る。

「全く!!むしろ、騒々しいのが帰ってくれて嬉しい方だよ」

私達は遠距離の方がちょうどいいんだよ、とクローチェは言う。

「遠距離ですか?」

「そう。年に何回か手紙とか水晶通話とかで十分。年に一回、顔を見れば十分かな~。果ては生存確認出来れば十分!!」

クローチェは真面目にそう言う。

「一応、生存確認はするんですね」

フィクがそう言えばクローチェは、まぁねと言う。

「もし、死んだなら弔いぐらいはしてあげたいし」

私だってそのぐらいの情はあるもん、とクローチェは呟いた。



「何だ、俺をそんなに殺したくて仕方がないのか?」

気がついたら噂の人物、アルジェントがいた。

「別に殺す気はないけど、さっさと帰って欲しいかな」

クローチェは包み隠さず本音を言う。

「ふんっ……相変わらず、可愛げのないヤツだな」

「あーはいはい、そうですよ~。アルジェお兄様、邪魔!さっさと荷造りして明日に備えたらどーですか?」

クローチェが手でしっしっと追い払うが、アルジェントはズンズンとクローチェに近づく。


「まさしく、明日に備えて荷造りをしているところだ」

「じゃ、じゃあ何で私に近づくわけ」

アルジェントは近づく。クローチェはちょっとたじろぐ。

アルジェントはクローチェに何かを差し出した。

紙束だ。

「楽譜……?」

クローチェが首を傾げて楽譜を見ていると、アルジェントが眉をひそめた。

「……荘厳な感じの曲がどうのこうのと言ってただろう。何だ、いらないのか?」

アルジェントが楽譜を取ろうとすれば、クローチェは死守する。

「いる!絶対に必要!!てか、作ってくれたの!?てっきり作ってくれないと思った!」

「俺は器用だからな」

アルジェントはいつも通りのセリフを言う。


「はぁ。これでようやく片付いた。まぁ、せいぜい頑張れ。チビ王子様」

アルジェントはしれっとチビとか言いながら、去っていった。

「むぅ……。チビ、じゃなくて小柄で可愛いって言ってよね!」

クローチェがそう言うと、フィクはちょっと笑ってしまう。

(たぶん、心の中では可愛いって言ってるんでしょうね)

ココがいないから確かめようがないが、きっと、フィクの想像通りだろう。



そんなこんなで翌日になり、ついにアルジェントが帰る日がやってきた。


「ほぉ……見送りにくるんだな。しかし、睨んでくるとは可愛げがないな、全く……」

「い・ち・お・う!見送るの!仕方がなく見送るの!私、礼儀はちゃんと守るもんね!ほら、さっさと帰っちゃいなさいよ!」

アルジェントとクローチェはいつも通りのやり取りをしている。


魔王代理を含めた魔族達は、「あー、いつもの可愛い喧嘩をしてるな~」と思いながら2人を見ていた。


「言われなくともさっさと帰るさ。叔母上、数日間、お世話になりました」

アルジェントは魔王代理の前では礼儀正しく挨拶をする。

「また、遊びにきて。今度はアルジェントだけじゃなくて家族皆でいらっしゃい」

魔王代理もにこやかに甥を見送る。

それを見ていたクローチェは、ハッと気がついた。

「アルジェお兄様!待って、1つ言い忘れてたことがあった!」

「何だ?」

「曲!昨日くれた曲、聞いてみたの!すっごく素敵な曲だった!私のイメージ通りだった!ありがとう、作ってくれて!」

クローチェがキラキラした瞳でそう言えば、アルジェントは目を細めてちょっと笑う。

クローチェもそれにつられて笑うと、いきなりアルジェントがクローチェの頬を引っ張った。

「!?あるへぇにーはま、なにふるの!?」

「いや……、クローチェは幾つになってもへにゃーっとした笑いかたをするな、と思ってな。それ、どうにかならないのか?」

「へ、へにゃー!?私、そんな笑いかたしてるの!?」


最後はちょっと微笑ましいやりとりをして、アルジェントは帰っていった。



アルジェントが帰って数日後。

「さて……フィク、いよいよだよ~!」

クローチェはふふん、と得意気な顔をする。

「う……少々緊張してきました」

フィクは落ち着かない様子である。

何がいよいよかと言うと……。


「よし、皆!映画撮影、やるぞー!」

クローチェの掛け声に合わせて映画撮影に関わる魔族達が「おー!」と声を上げる。


「いやー、ここまで来るの大変だったな~」

クローチェがリナリアに化粧をしてもらっている間、ここまでのことを思い出していた。


前途多難だった。

シナリオは完成しても、主役のシンデレラと王子をやってくれる人が現れなかったり……。

今度は演技で魔族同士が揉めたり……。取っ組み合いの喧嘩が勃発したのは数知れず。

最終的には拳と拳で語り合い、魔族同士が納得できたので、終わり良ければすべて良しである。

そして、BGMで使いたい曲がなくて困ったりしたけど、アルジェントが作ってくれたので無事解決!



「さぁ、姫様……いや、王子様、お化粧が終わったわよ~!」

リナリアがそう言って、クローチェは鏡に映る自分を見る。

いつもよりクールな印象のクローチェがそこにいた。


「すごい……!何だか別人みたい。たまにはこういうクールな感じもいいかも」

「ふふ、気に入って頂けたなら何よりだわ。雰囲気を変えたくなったらいつでも言ってね!姫様を華麗にイメチェンしちゃうわ」

リナリアは嬉しそうに笑った。



「みんな~!準備万端ー?」

「大丈夫ー!」

皆からOKサインをもらえた!

それでは……

「いざ突撃ー!!……じゃなくて、撮影開始~!!」

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