記録25 暁紅の真実


「やめなさい。その槍や剣を下ろしなさい」

クローチェがそう言うと、渋々槍などを下ろす騎士達。

「で…ですが姫様!コイツは勇者の仲間です…!いつ、何をするか…!!」

1人の騎士がクローチェにそう言うが、クローチェは冷たい視線を返した。

「この部屋では魔法は使えない…それは知ってるでしょ?それに…貴方達がくるまで私、彼女と2人っきりだったんだけど。何かするなら、私と2人っきりの時にすると思うけどな?」

可愛らしく首を傾げて騎士の反応を伺うクローチェ。騎士は何も言えなくなる。

「ほら、じゃあミーチェちゃんを外に送りに行くよ。あ、フィクと騎士は1人だけでいいから」

「なっ!?姫様!騎士を1人だけって…!危険です!」

「フィクも一緒だから」

「そ、そう言う問題ではありません!」

そう叫ぶ騎士にクローチェは近づき、騎士が持っていた槍に触れる。

「じゃあこの槍、貸してね」

「な、ならば私が行きます…!」

騎士がそう言って、クローチェにズイッと近づいた時だ。


バキッ カタン…


床に転がる真っ二つにされた槍。

「君はもう帰って」

クローチェは淡々とそう述べた。

「…で、ですが…」

「帰って。君、ミーチェちゃんの事を殺しそうだしね。私の命令も聞く気無いみたいだし?」

青ざめる1人の騎士。


ミーチェは呆然とクローチェ達の事を見ていた。

「う~ん。最近、騎士団の方に顔を出してなかったのまずかったかなぁ~。なんか、教育がなってないみたいだし?ねぇ?」

クローチェはそう言って、別の騎士にそう聞く。

「申し訳ありません、姫様…」

クローチェはニコッと笑う。

「せっかくだし、ちょっとお復習しようか?」

クローチェはそう言って今だに青ざめている騎士の目の前に行く。


「は~い。じゃあ魔王城ルールそのイチ~!喧嘩は?」

「い、いつでも真向勝負…」

クローチェ、続いて隣の騎士の前へ。

「次~悪口は影で言わない~。それでは?」

「ほ、本人に直接言う…!」

「OK!じゃあ次、君ね。弱いものいじめは?」

「し、しない!」

「そうで~す。はい、次は隣の君!攻撃は!?」

「最大の防御!!」

「はい、再び青ざめてる君!力こそ?」

「す、全て…強さも金も権力も勝負に勝つ事で全て手に入る…」

クローチェは満足そうな笑みを浮かべた。


「そう、そして最後は、人間と魔族は基本、関わらない。人間達がこちらに危害を加えない限り、魔族達は人間に関わらない…以上!!」


「まぁ、朝から魔王城ルールの復習?」


全員が後ろを振り向く。そこにはネグリジェ姿の魔王代理がいた。ネグリジェ姿でも相変わらず美しい。


「お母様!」

「おはよう、クローチェ。それと、勇者の仲間の魔法使いさんもおはよう。ふふ、あまり寝れてないだろうから、今、眠くて仕方がないかしら?」

ミーチェは何とも言えず、黙ったまま魔王代理を見ていた。

魔王代理はにっこり笑う。

「さて、魔法使いさんを外に送りに行きましょう。クローチェ、フィク、ついていらっしゃい」

フィクは「かしこまりました」と言い、クローチェはミーチェを手招きする。

そして魔王代理の出した魔法陣の光に包まれた。


閉塞感漂う部屋から、魔王城内の廊下に四人は立っていた。

「ごめんなさいね。本当はサクッと外に送りたいんだけど、今、工事中だから転移魔法が上手く作動しなくて…ここから少し歩くことになるわ」

魔王代理を先頭にミーチェ、隣にクローチェ。最後尾にフィクが並ぶ。

フィクがミーチェに近づき、コソッと耳打ちする。

「魔法が使える様になったからと言って、妙な真似はしないように。何かしたら、五体満足で帰れないものと思ってください」

「…わかってるわよ」

「私達は魔族です。相手が自分を地獄に突き落とそうとするならば、どんな手段を使ってでも道連れにします。そういう精神の持ち主なのです」

「なるほど。私が貴方達の命を奪ったら、私の命も奪われるってわけね」

フィクはコクリと頷いた。


四人は黙って廊下を歩いた。まだ朝方と言う事もあり、魔王城内はとても静かだった。


あっという間に、玄関へと到着。魔王代理が巨大な黒色の大理石で作られた扉を開ける。


「さぁ、帰ったらしっかり寝るといいわ。睡眠不足は健康によくないもの。あら…外にもう貴方の仲間が待っているようね」

魔王代理の視線の先を見れば、植え込みから金髪、銀髪、茶髪がちょこっと見えていた。

「…何なの?あれで隠れたつもりなの?」

ミーチェは溜め息をついた。


一歩踏み出すミーチェ。

しかし、そこで立ち止まる。


「ねぇ…さっきクローチェが言ってた魔王城ルールって…ここの魔族達、皆守ってるの?」

声が少し震えている事はミーチェ自身も気づいていた。


「えぇ、守っているわ」

魔王代理が淡々と答える。

ミーチェの中の何かがプツンと切れた気がした。


「…なら、何であんなことしたの。弱いものいじめはしないって言うなら、どうして非力な女性や子どもを襲ったの!?」

一度吐き出したらもう止まらない。ミーチェは叫ぶように言った。

「人間と魔族は基本的に関わらないって言うなら、なんで私達の生活領域に来たのよ!?私達人間が貴方達に何かした!?」


言わなきゃ良かった。とミーチェは思った。こんなことを言ったら絶対に生かしてはくれないだろうから。

しかし、言わずにはいれなかった。


魔王代理が口を開く。何を言われるかとミーチェは身構えた。

「さっきの私の言葉…前言撤回するわ。魔王城ルールは、ほとんどの魔族が守ってる。だけど、一部の魔族は守ってないわ」

そこで、クローチェが一歩前へ出る。

「ミーチェちゃんの言う通り、人間達は私達魔族に何もしてない。だから私達も貴方達人間に『何もしてない』の」

「…はぁ?何もしてないって…魔族達が人間達を襲って来たのは紛れもない本当の事じゃない。何なの、自分達が犯した罪も認めないわけ?」

ミーチェは吐き捨てる様に言った。

フィクが何かを言おうとするが、魔王代理が手で制し、代わりに語り出す。


「端的に言うなら、私、クローチェ、そしてあの人…貴方達が封印した魔王、王族の私達はやっていない。そんな指示を出してない」


「…そ、それって」

ミーチェも魔王代理が何を言わんとしているか、察した。


「つまり、魔族達を統率する私達は何もしていない。だけど、全ての魔族が私達に付き従ってるわけではないのが事実…そういった私達に反抗する魔族達が人間達を襲ったのよ」

魔王代理は少し悲しげな表情を見せたが、すぐに不敵な笑みを浮かべる。

「今、事件の真犯人を探している最中なの。見つけ次第、骨も灰も残さない様に抹殺するわ。そして、私達に逆らう者が出ない様に、二度とあんな悲惨な事件を起こさないようにするわ」

魔王代理は「そうそう、それとね」とまだ喋る。


「貴方達、いつでもこの魔王城に殴り込みに来てもいいわよ」

「…はい?」

さすがにミーチェも唖然とした顔になった。

「だって、私達が全ての魔族を統率出来なかったせいであの事件が起きたんだもの。私の責任でもあるわ。…そう、貴方達は私達に怒る権利があるの」

魔王代理の言葉を聞いたミーチェは溜め息をつく。

そしてそのまま、くるりと振り返り魔王代理達に背を向けて歩き出した。

そこでクローチェは気づく。ミーチェから紺色のポンチョを借りたままだった。


「待って!ミーチェちゃん!これっ…借りたままだった…!」

クローチェは急いでポンチョを脱いで返そうとするが、ミーチェが手で制す。

「返さなくて結構よ」

「え、でも…」

「『まだ』返さなくて結構。私がまた来るときまでに、綺麗に洗って畳んでから私に返して頂戴」

「わ、わかった…やっぱり、私達の話、信じられないよね…。ミーチェちゃん、私で良ければミーチェちゃんの全力の魔法、受け止めれると思うから…!いつでも、殴り込みに来て!!」

クローチェの言葉にミーチェはフッと笑う。

「何、馬鹿なことを言ってるのよ」

「…え?ま、まさか、魔法を受け止めるだけじゃ足りない!?」

「違うってば。私は…いや、きっとリザシオン達も犯人でも何でもない人をボコボコに殴る趣味とか無いわ」

ミーチェはドヤ顔をして、続きを喋る。


「私達は私達なりに、人間の目線で真犯人の魔族を探してやるわ。それで、真犯人を見つけたら、フォルティの魔法で眠らせて、アガットの格闘技で骨をボッキボキに折って、リザシオンの剣で心臓を貫いてもらって、私の魔法で氷像にするわ。そして、氷像になった真犯人をクローチェ達がバッキバキにぶち壊して頂戴」


「え…もしかてミーチェちゃん達も私達の真犯人探しを手伝ってくれるの?」

クローチェが恐る恐る聞いてみれば、ミーチェは「当たり前じゃない」と即答する。

「真犯人を抹殺したいのはこっちもよ。それじゃあ、そろそろ帰るわね。リザシオン達に早くこの事を伝えなきゃ」

ミーチェはヒラヒラと手を振り、魔王城を後にした。



「まさか、人間と魔族が手を取り合う日が来るなんてね…ふふ、何だか楽しくなってきたわ」

魔王代理は笑い、クローチェの瞳は爛々と輝いていた。

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