記録16 いざ、ステージへ

ドレッサーの前に座るクローチェは、そわそわと鏡に映る自分を見ていた。

いつものお下げの三つ編みも、今日はアイドルらしく、編み込みからの三つ編みだ。

いつもよりぐっと華やかになる。

頭上も、今日は銀のティアラではなく、真っ赤な牡丹の花飾りが目を引く。

今回、クローチェが着ている衣装は、普段のゴスロリとは全く違い、中華ロリータ、華ロリだ。

チャイナドレスと言えば、タイトでセクシーな衣装だが、華ロリはちょっと違う。スカートの裾はタイトにせずパニエでふんわり。もちろんスリットも入らない。腕は天女の羽衣がなびく様なシフォンがクローチェの色白な腕を覆う。服もいつもは黒色がメインカラーだが、今回は鮮やかな赤色がメインだ。飾りの真っ赤なタッセルが金魚の様に揺れる。


ちなみに、何故、華ロリにしたかと言うと・・・


「クローチェ~!」

部屋の扉がバンッと開いたと思えば、真っ赤なチャイナドレスをばっちり着こなす美女が現れる。

「お母様!とってもお似合いでうぐっ!?」

クローチェが言いきる前に、チャイナドレスを着こなす美女こと、魔王代理がクローチェを抱きしめる。

「クローチェ、とっても可愛いわ~!まるでお人形さんみたいね。いや、牡丹の妖精さん、うぅん、牡丹のお姫様かしら?あ~可愛すぎるわ~!」

そう言う魔王代理は、牡丹の女王だろうか。

腰まである艶やかな黒髪には、クローチェと同様に牡丹の花飾り。

そして、ボディラインがばっちりわかるタイトでセクシーな真っ赤なチャイナドレス。

そして、ルナーリアが特にこだわったと言う金糸の刺繍が魔王代理の美しさをより一層高めていた。

もっと言えば、足先まで美しい。

スリットからチラリと見える太もも。

クローチェはまだ履きこなせない、超高い真っ赤なピンヒールも悠々と魔王代理は履きこなす。


そんな時だ。ガチャッと扉が開く。顔を覗かせたのはルナーリアだ。

「うっ・・・あ、あまりの美しさに、目が、うぅ、ま、まばゆいですぅ・・・」

部屋の扉に寄りかかる様にしたルナーリアがはわわぁ~と、クローチェと魔王代理を崇め出す。

「ル、ルナーリア様。大丈夫ですか・・・あ、姫様、魔王代理様。お着替え、無事に済んだ様ですね」

ルナーリアの後ろからひょこっと姿を見せたフィクは、クローチェたちを見て満足そうに頷いた。

「あら~、流石ですねぇ。想像通りを通り越して、想像以上。こうして見ると、クローチェ様と魔王代理様、姉妹の様ですわねぇ」

さらに後ろから現れたのは、ルナーリアの姉、リナリアだ。

ちなみに、クローチェと魔王代理のヘアセットしてくれたのはリナリアである。

「そう、姉妹!!クローチェ、見て頂戴!リナリアに頼んで前髪を編み込みにしたのよ!クローチェとお揃いなのよ~!」

魔王代理はそう言って、ぎゅーっとクローチェを抱き締める。


そう、クローチェが華ロリにした理由。

魔王代理とクローチェで、対になる感じにしたくて、ルナーリアの提案により、『チャイナ』に。それで、クローチェは華ロリ。魔王代理はチャイナドレスになったのだ。


ここでフィクの制止が入る。

「魔王代理様、それ以上姫様を抱き締めてしまいますと、姫様が窒息してしまいます」

主に魔王代理のふくよかな胸のせいでね。

「あら、それはいけないわね~」

魔王代理がスッとクローチェを離せば、クローチェはシュバッと距離を離して、深呼吸。

「ふぅ・・・とりあえず、準備万端!いつでもライブOKだよ!」

気を取り直して、クローチェはキリッとした顔でそう言う。

魔王代理もクローチェに同意する様に頷けば、リナリアが動く。

「それでは、クローチェ様と魔王代理様をステージへご案内ね」



クローチェは、バックステージからチラリと観客席とステージを見る事が出来た。

ステージはフィクを始めとするその他の魔族たちにより、クローチェの想像以上の本格的なステージを作り上げていた。

観客席を見れば、部屋の隅から隅まで、魔族たちがカラフルな人魂を詰め込んだペンライトを両手に握りしめて座っていた。


「ひゃ~・・・緊張してきた」

クローチェは自分でも少し、顔が強張るのがわかった。

すると、スッとクローチェの手を握る者がいた。

フィクとルナーリアだ。

「姫様。だ、大丈夫です!笑顔です!そ、そうすれば、皆も、姫様もニコニコです!それに、この衣装が、姫様をより可愛くして、じ、自信を与えてくれます!」

「そうです、大丈夫ですよ。姫様なら絶対に出来ます。だって、私のスパルタレッスンと、魔王代理様の手取り足取りのレッスンを見事、やりとげたのですから」

そう、クローチェはこの日の為に、フィクと魔王代理のレッスンで歌と踊りを完璧にしたのだ。

2人のその言葉に、クローチェはホッとする。

「・・・そうだね!うん。ありがとう、フィク、ルナーリア!」

クローチェは2人に感謝し、後ろを振り向けば、魔王代理が静かに待っていた。

「準備万端かしら、クローチェ?」

「準備万端!気合充分!行きましょう、お母様!!」

クローチェがそう言えば、魔王代理は艶やかに微笑む。

「えぇ。行きましょう、クローチェ」

そして、魔王代理はクローチェをダンスに誘う様に手を差し出す。

クローチェはちょっと恥ずかしそうに、でも、幼子が手を握る様にぎゅっと魔王代理の手を取った。


クローチェと魔王代理、オンステージ!

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