第16話 闇ノ森

暗闇の森。見上げても星が見えず月の光さえも木々が遮っていた。

しかし逆にその条件がこの森を幻想的にしているといっても過言ではない。

木々に止まる虫のような生き物が全身から色とりどりの光を点滅させながら

真っ暗闇の森を明るく照らしていたのだ。

それはまるで星のように綺麗で森にいることを忘れるほど。そう思っているのも束の間

どこからか聞こえる咆哮に危険な森だと現実に引き戻される。

放浪人はそんな危険で美しい夜の森を地面に落ちている木の枝を拾いながら歩いていた。


「このあたり魔獣はいないみたいだな」


放浪人は言葉を口にした後、ハッと何かを思い出したように腕に目を向けた。

そこには小奇麗なジャーバンドではなく節々に焦げのような跡が残るジャーバンドが腕に巻き付いていた。


「そういえば交換したんだったな」


放浪人はつぶやき光輝く木を見上げ少し前のディアとの会話を思い出した。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


「散歩してくる」


気分転換に外の散歩に行こうと放浪人は立ち上った。


「だったらついでに枝を拾ってきてくれ枝がもうない」


徐々に弱まっていく炎をを見ながら頼むディアに放浪人は頷くと

なぜか腕についているログを外しだす。


『マスター。少し訪ねたいのですが』

「なんだ?」

『何故、私を腕から外そうとしているのでしょうか』


ログが点滅しながら訪ねる。


「たまには一人になりたいからだ。お前がいると落ち着かん」


そう言っている間に腕からログを外し手に納めていた。

するとディアは興味深そうに放浪人の手に収まっているログを見ながら


「なあ、だったらその少しの間あたしのジャーバンドと交換しないか」


と提案してきた。


「交換?」放浪人は首をかしげた。


「ああ、外は真っ暗闇だぜ。そんな中で足元に転がる枝を拾うのは流石のお前でも大変だろ?だったら足元を照らしてくれる明かりを持っていった方がいい

あたしのジャーバンドにはライト機能がついてるから便利だぜ。もちろんしゃべんねえし、

それにおまえのえーと、ログっていうんだっけちょっとした興味があるんだよ」


そう頼み込むディア。しかし今日初めて会った人間に個人情報が詰まったジャーバンドをホイホイ貸すだろうか?否そんなことはありえない。そう判断したログはその場に応じた答えを…


『申し訳ありませんが個人情報の塊であるジャーバンドを平気で貸し借りするのは……』

「いいぞ。じゃあお前のを貸してくれ」


放浪人に返事にログがエエ!と悲鳴のような音声を発した。


『なぜですかマスター?ジャーバンドには多くの個人情報があるのですよ!それを平気で貸し借りするなど……』

「いや、どうせその辺の岩場にお前を置こうとしたから人に渡すのも変わらんだろ

それに人に知られて困るような情報も入っていないしな」

『理解不能では何故私を置いて行くのですか…?』

「お前はおしゃべりが過ぎる」


そういうとログをディアに投げ渡した。


「サーンキュ」


受け取ったディアは自分の腕についているジャーバンドを操作して地図、ライトの設定にすると。

同じように放浪人にジャーバンドを投げ渡した。

放浪人は、ディアから受け取ったジャーバンドを腕に巻き軽く触る放浪人試しに画面に触れる。


「ん?なんだ。画面の操作が出来ないんだが」


いくら画面をタッチしてもピクリとも反応しない


「ったりめえだろ。個人情報が入ってんだからさ。別にお前の事を信頼してないわけじゃないけど一応な。まっ移動には不便ないように設定してあるからよ大目にみてくれ」


頬をかきながら照れるディアに放浪人は眉を上げ

「フーン。そんなもんか」とつぶやく


なんだかんだ言っても個人情報は守るのは常識!

マスターだけはその辺の意識は薄い!ログは思った。

ディアから借りたジャーバンドから映し出される周囲の地図とサイドから照らし出られるオンオフが可能な

ライトを確認すると放浪人は洞窟の外に向かい歩きだした。


「きをつけてな」

『マスターお気をつけてください』


ディアとログの声が洞窟内で響く。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


外に出て見ると昼間の森とは違い無駄に煌びやかに明るい状態でライトを使わないで歩いたせいかうっかり交換したことを忘れてしまっていたのだろう。

放浪人は首を横に振ると枝を片手に抱え夜の森を途方もなく再び歩き出すも

気が付くと洞窟からだいぶ離れていることに気づく。

大分いきすぎたな、そう思い表示されている地図を頼りに踵をかえした。

だがその場で立ち止まる。そして振り向きながら怒鳴り声を上げた。


「そこのおまえ。いい加減出てきたらどうだ!そんなに殺気だして気づかないと思ったのか」


森を歩いている途中辺りから魔獣が放つ殺気とは違う感覚!そして自分を見続ける視線に気づいていたのだ

しかし出てこない


「どうした。出てこないならこちらから」


突然!正面の木の上の枝からか男が殴りかかってきた!


「むっ!」


放浪人は咄嗟に持っていた木の枝を投げ捨て身をひるがえし相手の攻撃を回避する。

男の攻撃は放浪人の後ろにあった木に直撃。


拳が木の幹に深く食い込んでいる。


「ククク!いい反応だ悪くねえ!」


男は笑いながら放浪人の方をむいた。


「フン。俺を襲いにきたのか」


放浪人は構え男と対峙する。

しかし男はやる気がないという感じで手を広げた。


「おいおい。そんな怒んなさんなよ。こんなの挨拶程度だぜ」

「挨拶だと」


さきほど男が殴った木から手を抜くと

木はさらさらと砂になり砕け地面に消えていった。

放浪人はぎろりと男を睨みつけた。


「随分派手な挨拶だな」

「派手が好きなんだよ。それにてめえに用があるのは俺じゃねえ」

「なんだと」


男はニヤリと笑うと後ろに振り向き


「おい!ボロックのダンナよー!お目当ての奴が見つかったぜ」


後ろを向き。名前を叫んだ!すると森の奥から木をなぎ倒しながら

放浪人のいる方向に何かが近づいてくる。


「さて俺の用事は終わったぜ!せいぜい死なねーようにな」


男は後ろに飛びあがり木々に消えると同時に木々が揺れ木をかき分け大男が姿を現した。


「あいつか?」


大男は目に映る放浪人を指さしながら尋ねると


「ああ。そうだ!お仲間をボコボコにしててめえの

大事なものを奪ったのは目の前にいる奴だぜ」


という声が

大男は「そうか」とつぶやき放浪人を強く睨むとわなわなと怒りに身を震わせ


「貴様!覚悟しろ!」


叫び声をあげ体に力を入れ筋肉を膨張させた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る