第3話 高飛車お嬢様が可愛い

「総一が家に来るの何て、何年ぶりかしら」


「さぁ、最後に来たのは小学生の時だったっけ?」


 何とか有栖に追いつくと、もうすでに彼女の家の傍まで来ていた。


「きっと、お爺様驚くでしょうね。それに、もしかしたら反対されてしまうかもしれない。そうすれば、総一はどうするのかしら?」


 ちらりとこちらを見て来る有栖。口元をにやりと歪めて何かを求めている顔だ。


 これでも長い付き合いだから、彼女が何を言って欲しいのかくらいは容易にくみ取ることが出来る。


 しかし、恥ずかしい。死ぬほど恥ずかしい。


「……言わないとだめなのか?」


「えぇ、もちろん」


 ニマニマと緩む口元を隠すことも無く、俺を見上げる有栖。


 その目に見られると、俺は弱い。

頭を掻き大きくため息を吐きながら、俺は淡々と呟いた。


「……諦めないよ。認めてもらうまでは」


「……っ! おーっほっほっ! そうよね、総一は私のことが大好きなんだものねっ!」


 有栖が満面の笑みで腕に抱き着いて来る。いい香りがするし、密着されてるし。俺は頭をくらくらさせながら彼女の家へと向かった。


 恥ずかしいが、可愛いからいいや。



  ◇



 有栖の祖父——通称、お爺様。


 小学生の頃にこの家に遊びに来た時何度も怒られた記憶がある。普通にトラウマだわ。


「帰ったわ!」


 玄関で有栖が声を上げると、家の奥から着物に身を包んだ中学生くらいの女の子があらわれる。


「お帰りなさいませ、お嬢さ——ま!?」


 彼女は有栖の家で働いている使用人の娘だったはずだ。


 昔は上下関係など関係なく俺達と遊んでいたが、来なくなった間にすっかり使用人らしくなっている。


「帰ったわ、カエデ」


 有栖がカエデちゃんに声を掛けると、彼女はわなわなと震えながら俺と有栖を交互に見て来る。


 そして。


「お、お嬢様! ついに、ついに告白したのですね!」


 と叫んだ。


「……え?」


「ちょ、まっ、カエデ!?」


「長かったですね。中学二年生でしょうか。約四年間も告白の練習を自室で行い、便箋に思いをしたためて、それでもヘタレにヘタレ続けていた、あのお嬢様が……」


「カエデ、ストップよ!」


「私に代わりに告白してきてなどとふざけたことをぬかしやがった、あのお嬢様が……」


「シャラップよ!」


「ついに、ついに告白をなさったのですね!」


「だま、黙りなさいッ!」


 カエデちゃんに吠える有栖。


「……え?」


 そして困惑する俺。


「んもぅ、照れちゃってぇ~。あはっ、総一さん、お久しぶりです。そして、お嬢様のことを末永くよろしくお願いしますね。ではでは~」


 手をひらひらと振って背を向けるカエデちゃん。何というか、嵐のような子だった。


 いや、それよりも、だ。


「……告白の練習、してたの?」


「……うぐ」


「便箋に思いって、ラブレターってことだよね?」


「……」


 顔を真っ赤にして足元を見つめる有栖。


 余程恥ずかしいのか、金髪ドリルの先端がぴくんぴくん震えている。


 え、なにこれ可愛い。


「有栖って、現在進行形で超絶ハッピーだったりする?」


 よくよく思い返してみれば、そうだ。


 告白したときも俺が諦めようとした瞬間に手のひらを返したし、恋人になれたと思ったら子供の話を始めるし。そして先ほどから抱きしめらっぱなしの俺の腕。


 導き出される答えは一つ。


「な、なな……なによ! 好きよ! 好き! 悪い!?」


「い、いや別に悪くは無いけど」


「だったらいいじゃない、細かい事は置いておきなさいよ! 大体好きじゃなかったら付き合うわけ無いでしょ!? 馬鹿!」


 そう言って、彼女は靴を脱いで上がりかまちを跨ぐ。


 余程憤っているのか、靴を脱ぎっぱなしの散らかしっぱなし。かと思えばずんずん戻って来て靴を丁寧にそろえる。


「は、早くしなさいよ、お爺様にご挨拶するんだから」


「お、おう」


 デレたらデレたで調子狂うな。可愛いから全て許せるんだけれども。

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