第2話 恋人繋ぎ的なアレ

 学校からの帰り道、人気ひとけのない道を二人で歩く。

 有栖は金持ちだが、登下校は歩きなのだ。


 歩きなれた道を、歩きなれた人と、なれない関係で歩く。


 ちらりと俺と腕を組む有栖を見る。

 こんなに可愛い子が、俺の彼女……。


 綺麗な金髪は腰まで伸びており、整った顔立ちは可愛いと言うより綺麗。


 服の上からでもわかるスタイルの良さは、そこらのグラビアでは相手にならないだろう。


 身長も女子にしては高めで、ここが田舎でなければモデルとしてスカウトされていてもおかしく無い。


 そんな有栖が、恋人……。


「どうしたのかしら?」


「な、なんでもない!」



「あら、もしかして見とれていたのかしら?」


「ぐぅ」


「その反応は……おーっほっほっほ、総一は私のことが大好きなのだから仕方ないわね♡」


「……くそう」


 屋外ということで小さな高笑いを上げて、身を寄せて来る有栖。


 図星なので言い訳の余地はないし、めっちゃ笑顔だし、その笑顔がまた可愛い。


「おーっほっほ。それで総一はいったいいつから私のことが好きだったのかしら?」


「うぐっ……は、恥ずかしいから言いたくない」


「おほほ、ダメよ。言いなさい♡」


 ぎゅっと、俺の腕を抱く力を強める有栖。


 おかげで胸が当たって……、精神衛生上よくないな。


「わ、わからん! 気付いた時には好きだった」


「……っ! そ、そう! へー、そう!」

「なんだよ」


「ふぇ!? べ、別に? ……でも、正直に答えたご褒美はあげるわ」


 そう言うと有栖は俺の腕を離して、手を握ろうとしてきた。


 けど……。


「……っ」


 触れるか触れないかの辺りで、手が止まり、震えだす。


 どうしたのかと顔を見て見れば、夕焼けの中でも真っ赤に染まっていた。


「あー、もしかして照れてる?」


「て……はぁ!? 私が!? はぁ!? そ、そんなわけ無いでしょ? べ、別にこれくらい余裕よ。えぇ、余裕ですとも!」


 これは完全に照れてますねぇ。

 まぁ、俺も同じなんですが。


「そ、そうよ! ご褒美は『私と手を繋ぐことを許す』よ! 繋ぎなさい!」


「あ、逃げた」


「逃げてないわ!」


「じゃあ有栖から繋いでほしいな」


「ぐぬぬ……わ、分かったわ」


 有栖は警戒心丸出しの猫のように俺の手を見つめて——見つめて、見つめて。


「えいっ」


 ぎぅ、と握ってきた。


 やっべぇ、凄い柔らかいし、すべすべなんだが。


 しかし今は普通に手を繋いでいるだけ。せっかく恋人になれたのだから、恋人繋ぎを俺はしたい。


 有栖と恋人繋ぎしたい!


 俺は高鳴る心臓を押さえつけて、腹を決める。


 そして——。


「そいっ」


「……え、え?」


「にひひ、恋人って言ったらこの繋ぎ方だろ」


「……っ! ま、まだそれは早いわよ!」


 顔を真っ赤にした有栖は俺の手を払い、走り出してしまった。


 え、えぇ……恋人繋ぎに早いも遅いもないと思うのは俺だけだろうか。


 キスじゃあるまいし。


「って、そう言えばあいつ箱入りお嬢様だっけか」


 もしかしたら子供の作り方も知らなかったりして。


「ははっ、そんな訳ないか!」


 言っていて、何だか不安になってきた。


 もちろんまだするつもりはないけれど、交際を続けるということはそういう行為をするかもしれないわけで……。


 その時になってコウノトリが運んでくれるのよ、なんて言われたらどうしよう。


 簡単に想像できてしまって怖いんだが。

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