第14話 アッカーネさんっ! 会社いこー!

【自己紹介とあらすじ】


私は、変身ヒロイン、キザキ・アカネ二十三歳!(稀崎明音)


私は、正義の味方として、日常をクズみたいに生きるんだと決意した『わるもん』カップルを自宅に軟禁している女の子!飼い主の責任として、きちんと彼らに名前をつけてあげたわ!!

私は決死の覚悟で無断欠勤からの出社!

理由を語らず部長の泣き落とし作戦決行!


それに勝利を納め、定時で帰る途中で痴漢にあって女子高生に説教をされ、腹立ち紛れに外灯を破壊!!


その後変身ヒーローたちの、月いちミーティングでインターンシップの学生がやってくるって話をされて、愕然!価値観の違いを痛感して、チカちゃんという友達とその情報を共有しあい『わるもん』カップルを自宅に軟禁してることを告白して、チカちゃんの上司のオオヌキトシエさんから、『わるもん』は私の愛情をエサにするということがわかったわ!


そんな秘密を抱えながら、座学の補習授業に参加、鋭い嗅覚で社内恋愛を察知したところでインターンシップ の学生が、イノシシ JKだということに気付いてしまって会社にいきたくなくなったわ!

で…若い娘が出てきた波乱含みの十四話…。みんな!正義の味方の日常インターンシップよ!





朝っぱらから外ですごい肺活量を持つ甲高い大きな声がする。

二、三回「アッカーネサンッ!カーイシャーイコー!」と節をつけて呼ぶ声がする。

窓の下で、白水(シローズ)ちゃんが、声を張ってるんだ。

「小学生かよ!」と、忌々しく思いながら簡単に化粧を済ませて部屋を飛び出した。

私の機嫌が悪いので、ちょっと『わるもん』つがいは、小さくなって部屋の隅に固まってこっちを眺めていた。


毎朝これから、こうやって呼び出されるのか?!シローズちゃんから!!


あの後、あの子が私を叱り飛ばしたことや、自分が食べたもののお金も払わずに帰って行ってしまったことを覚えているかどうかわからないけれど、私は知らないふりをしようと思っていた。


覚えていてもめんどくさいけれど、あれだけのことをやっておいて、私のことを覚えていないとしたら、それも問題だ。

だって、あんなことを日常茶飯事でやっているということだから…。教育のしがいがあるというよりも、手に負えない…。

正義の行使に対して躊躇しない性格は、すなわち悪でしかないと思っているから…。


「シローズちゃんおまたせ!」というと「部屋番号忘れちゃって!私ってダメですね!てへ!」と頭を軽く叩いて見せる。

(すごく不気味だ…)


彼女は、思った通り、すごくよく喋る。

セーラームーンが好きなことや、仮面ライダーは初期のどす黒いやつが好きなこと。中でも怪人蜘蛛男の回は最初っからオカルトっぽくて震え上がったことなど…。

まどかマギカあたりの話になると、コラージュがどうとかこうとか、使徒みたいだとか、ワルプルギスがどうとか私にはもう何が何かわからなかった…。



彼女は混雑した電車の中でも喋り続けた。

「ねぇ、シローズちゃん、マナーだから声小さくして!」と言うと「私ってダメですね!てへ!」と…また、あの仕草をする。

(もう、生理的に無理なんだわー!この子!!ごめんシローズちゃん…)



そう思った瞬間に、シローズちゃんは、私の二の腕をぐいと抱きしめるようにして…。

「アカネ先輩っ…ワタシ、あの時みたいにきっちりと先輩を守りますから!安心してください!!」と、混雑した車内でシローズちゃんが小声で、囁いてきた…。

ぞわぞわと、背筋に悪寒が走った!

(この子!覚えてた!)


電車を降りて、さらによく喋るシローズちゃんの話を聞き流しながら、鬱々とした気持ちで営業所の扉を開く。


「おい!キザキ!妹か?!」と、喧嘩腰の口調で言うのは、渡辺部長。

相変わらず威圧的な声だ。


その声を制するように、トレンチさんが「今日からいらっしゃるインターンシップ生です!」と私をフォローするように言った。


背後で、シローズちゃんが、ぶつぶつ…「なんなの?あのひとなんなの?」と言っていた。その言葉を聞きながら、この子のなんかのスイッチが入るところを見た気がしてドキドキした。


この子にとっては、正義の味方がメインのお仕事であって、この食品卸売の会社は、バイト以下の位置づけのようだ。

だめなインターンシップの典型だ!

自分の能力を過信してるやつ。


きっと、ビジネスフォンの使い方もわかんないはず…。

トレンチさんが「白水さんには、最初、電話出てもらおうかなー」と言っていて「白水さんこっちきてー電話の使い方教えるから」と呼んでいる。

ドキドキしてきた。


私は「ちゃんとメモとってね!」と彼女の背中に声をかける。

シローズちゃんは、振り返って両手で親指を立ててウインクをした。

(ひぃい!会社でサムアップで返事をするなぁぁああっ!)と心の中で絶叫しながら、部長を見た。部長は、顔を真っ赤にしていたが、とりあえず無表情を装いながらも深くため息をついていた。


例えば、この会社は…。


固定概念に凝り固まったロボット人間を作る会社だ。

インターンシップ生であれば、背筋を伸ばして「はい!」と言わなければいけないというフォーマット通りの量産型学生を最良の人材とするってやつ…。

それに、学歴があれば我が子のように可愛がる会社だ…。


でも、シローズちゃんは、そんな量産型ではない…規格外の学生だときちんと名乗り合う前に…知り合う前にもうわかっていた…。

すごく悪い予感がする!

いや、予感なんて生やさしいものではない…確信がある!


シローズちゃんは、何やら鼻歌まじりで片肘をつきながら会社のビジネスフォンを軽快に操作していた。

しばらくすると、どっかで携帯の鳴る音がして、シローズちゃんが携帯をおもむろに取り出して「はい!アインシュタイン食品です!」と言っている!?はぁ?!


「はい!渡辺部長ですね!少々お待ちをー!」と言いながら、ダッシュで猛然と渡辺部長の席まで駆けて行って携帯電話のガラスについたファンデーションを自分のスーツの袖口でぐい!と拭い、渡辺部長にキラキラとした目をして得意げに差し出した。


「はぁ?!おま…ぇ?」と渡辺部長が愕然としながら声を上げると「早くっ!お客さんからですよ!待たせないで!!」と携帯を押し付ける。


目を見開いて、思わず受け取ってしまった携帯を耳に当てる渡辺部長は、気もそぞろで側に立っているシローズちゃんを見ながら電話応対をしている。


「はぁ?!シローズちゃん!転送したの?!会社の電話を?!個人携帯に?!」

渡辺部長以外、その行動を誰も気付いていない。


私は、椅子を蹴倒す勢いで立ち上がって「シローズちゃん!!」と叫んだ。

彼女は「はい?」と、電話が終わった渡辺部長から何も言わずに電話を奪い取って、こっちを見ている。



「だめっ!!転送だめよっ!!」と言うと「だって保留とか、電話回すのめんどくさいんですもんー、いい案だと思いません?」と、携帯を念入りにティッシュで拭き腰をくねくねしながら上機嫌で得意げに言った。


「零点っ!!!」と私が叫ぶのと同時に、渡辺部長が「稀崎ぃいいっ!!」と誰にぶつけていいかわからない怒りを私に向けてきた。


トレンチさんが「部長!!まだ、出社してたった十分しか経っていないのに、教育できるわけないじゃないですか!まだ、序の口です!!」と叫び返す。トレンチさん!本当は正しいと思うけど、あなたが言いたい意味の言葉ではないっ!!と、誰にどこを突っ込んでいいのかもわからずに、私は茫然と立ち尽くしていた…。

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