共犯者

烏神まこと(かみ まこと)

1

 小さな宇宙船で来た移民船からの使者は、アカデミーの後輩・赤星シオンだった。

 彼は、本部に連絡するための機材と支給品以外は何もない部屋に入ってきて再会をひとしきり喜んだ後、こう言った。


「蜜月先輩、帰ろう。もうここは必要なくなるから」

「は? どういうこと?」


 それから彼は俺に、人類が月よりも理想的な地球型惑星を発見したこと、それによって元々中断されていた月のコロニー計画が中止になったこと、新しく発見した地球型惑星にコロニーを作るため地球も不要になることを話してくれた。

 けれど、いきなりそんな内容を聞かされても信じることはできない。


「そんな話、初耳なんだけど」

「誰も伝えようとしなかったからね。俺が来なかったら先輩は知らないまま、ここで死んでたんじゃないかな」


 話しながら彼は、ここにはいない誰かを思い出したのだろう。語気が荒くなっている。

 合理的と判断すれば、いくらでも国民――特に軍人――を切り捨てる国に、以前から疑問を持っていた彼だ。おそらく皆の反対を押し切って1人ここまで来てくれたのだろう。


「ありがとうね、シーくん。でも」

「ここに残る?」

「うん。戻ったところで居場所なんてないから。それに長い間ここにいるとね、離れられなくなるよ。何にもない場所だけど地球を見ることができるんだ」


 彼はとても落ち着いた様子でその話を聞いていた。まるで俺の答えを予想していたみたいに。

 彼も、アカデミーや本部から"地球の魔力"の話を聞いているのだろう。

 月のコロニー計画も、現地で開発に携わる多くの者が地球を目指して燃え尽き、中断された。それでも再開する可能性があるから超長時間睡眠者の通信士である俺がここに配属されたんだ。


「先輩も、地球が恋しくなったの?」

「見ないようにしてたし、普通の人よりは長いこと眺めてられないけど、それでもそうだね」


 彼を1人帰さなければならないことが後ろめたくて目を合わせられない。こんな時なのに、今も少し眠たい。


「じゃあ、やっぱり帰ろうよ」


 意外な返事に顔を上げると、彼は綺麗な歯を見せて笑っていた。


「俺と地球に還ろう、蜜月先輩!」


 月には自給自足の設備も環境もない。けれど地球は違う。疲れ果てた惑星だけど、2人分の食料はあるだろう。


「犯罪者の子どもは犯罪者ってこと?」


 こんな魅力的な誘いを断れるはずもない。どうせ死ぬなら餓死より故郷で流星になりたい。きっと昔ここにいた人たちもそう思ったんだ。

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