第13話

 昼食を食べ終え、各自、自由にゆっくりしていた。リイバさんはお客さんの相手をして、マヌスは本を読んでて、シャハルは弓矢の手入れを。

 シャハルは時計を見て、立ち上がる。

 「あの、リイバさん。そろそろ夕飯の狩りに行かないと、暗くなっちゃいます」

 「おお、そうだな。」

 「いえ、昼に行ったので私一人で大丈夫です」

 「そうか? じゃあ、任せようかな」

 シャハルはニコッと笑って、弓矢と銃を持つ。すると、ギシッという音と共に、シャハルの肩に重い何かが。シャハルが振り返れば、そこにはニグムが立っていた。

 「……お、れ、も……いく」

 そんなニグムの言葉に、マヌスが「はあ?!」と声を荒げる。

 「お前、その状態でもし小枝でも入ったら、もっと治しにくくなるかもしれないんだぞ!!」

 「マヌスの言う通りだよ。心配してくれるのはありがたいけど、あんたを外にだすわけにはいかない」

 「……」

 ニグムが黙ると、遠くから「そーだ!」とリイバさんの明るい声が響いた。

 「マヌス、お前もついて行ってやれ」

 「はあああ?! なんで俺が!!」

 「お前、狩りの腕は全然ダメだろー。シャハルちゃんに教えてもらってこい。行かないと、今夜の夕飯抜き」

 「わーったよ!」

 声を荒げるマヌスは、シャハルから猟銃を取って、歩き出す。そんなマヌスを見て、シャハルは、「……ガキ」と顔をしかめる。

 「んじゃあ、シャハルちゃん、お願いな」

 そういうリイバさんに、シャハルは苦笑いを返し、マヌスの後を追った。



 「ちょっと!! あんた歩くの早すぎ!! こちとらまだ完治してないんだけど!!」

 「うっせー! 早くしねーと暗くなるんだろ」

 「だいたい、あんた慣れてないのに先頭歩くんじゃないわよ!」

 シャハルの言葉に、マヌスは振り返らずにスタスタと歩く。そんなマヌスを見て、シャハルはため息をこぼす。すると、右の方から草の擦れる音がきこえ、そっと視線を移す。すると、そこには鹿が二頭。

 「……ラッキー」

 (たぶん、もうすぐ動物達は寝床に行って狩りはできなくなる……これがラストチャンスかもしれない)

 シャハルは、ゆっくりと静かに弓を強く引く。そっと、息を吐き、吐ききったところでグッと息を止め、矢を放った。その矢は見事、鹿一頭に当たり、もう一頭は逃げてしまった。

 「まっ、一頭だけでも上出来でしょ。さて、くそガキに持たせて……って、あれ」

 シャハルは周りを見渡すが、マヌスの姿はどこにもない。その状況に、シャハルはもう一度ため息をこぼす。

 マヌスを探しながら、シャハルは森の中を歩く。段々と暗くなる空に、シャハルの額に冷や汗が流れる。

 (このままだとまずい。ここまで暗いと弓で狩れない動物がでてくる……。銃はくそガキが持ってるけど……)

 そんなことを考えながら歩いていると、シャハルの耳に銃声が響いた。

 銃声がきこえた方をに勢いよく視線を向け、歯を食いしばる。

 そして、勢い良く走り出した。

 「あんのくそガキ……っ」

 シャハルは痛む足に、目にうっすらと涙を浮かべながら走る。そして、息が上がったところで、地面を見ると、小さな足跡。その足跡をたどりながら、シャハルは走る。足跡は小さな岩陰に続いていて、岩陰からは猟銃が見えていた。ゆっくりと近づけば、体を震わせているマヌス。

 「はーっ、だから前を歩くなって」

 「……っ」

 「……立てる? 結構奥まで来ちゃったし、これ以上ここにいるのは……」

 『ここにいるのはまずい』というシャハルの言葉を遮るように、草の擦れる音がシャハルの耳に届く。そして、その音にマヌスの体をさらに震えさせた。シャハルはゆっくりと視線を後ろに移すと、そこには二頭の狼が。

 「……どうすんのよ、これ」と、シャハルは口元をひくつかせる。すると、マヌスは持っていた銃で狼の方を撃つが、それは当たらず、狼はシャハル達に飛びつくよう襲いかかってきた。シャハルは「クッソガキ!」とマヌスを引っぱり、走りだす。必死に走るが、後ろから追ってくる音は止まない。

 「あんたほんっとクソガキね!! 死にたいの?!」

 「なっ、おまえなんかに」

 「あんたが持ってんのは、動物だけじゃない、人も殺せる道具なのよ!」

 「……っ」

 「それを、何も考えずに使うな! その前に、死ぬ気で走れ!」

 シャハルの言葉に、マヌスはギュッと唇を噛み締め、下を向きながら走る。しかし、シャハルは石につまずいて、転んでしまった。顔をあげれば、狼が遅いかかってくるところで、ギュッと目を瞑る。その瞬間、シャハルの前には、大きな背中が覆い被さった。ゆっくりと目をあけると、そこにはニグムの体がシャハルとマヌスを包んでいた。

 「あん、た……なんで……」

 「じゅう、せい……きこえ、た……おそ、い……」

 目をまん丸にするシャハル。そして、ゆっくりと、口元をあげた。

 「……うん、ありがとう。戦おう、一緒に。生きよう」

 シャハルは足の痛みを堪えながら、ゆっくりと立ち上がる。そんなシャハルに、ニグムは煙玉を渡し、シャハルはそれを地面へと投げつける。その間に、マヌスの手を引き、シャハルは岩陰へと隠れ、銃を構えた。

 そんなシャハルを見て、マヌスは「な、んで……」と小さく声をだす。

 「なん、で……戦う、んだよ。アルマンに戦わせるのが、お前ら人間だろ! あんた、足を怪我してんのに、なんで戦うんだよ!」

 「……確かに、今の時代、機械のアルマンが戦って、私たち人間はそれを見てるだけ。こんな銃をもつ必要なんてないし、せめて弓程度」

 シャハルは煙の中へと引き金を引く。すると、煙の中から狼の苦しげな声が響く。

 

 「だけど、ニグムは私を守るための機械なんかじゃない」


  シャハルの言葉に、マヌスは目を丸くし、瞳を揺らす。

 「私のたった一人の家族なの。その家族に一人で戦わせるなんて、死んでも嫌」

 もう一度、シャハルは引き金を引く。煙が消えていく中、その銃弾は狼へと。そして、煙が消えれば、ニグムが上を見上げて立っていた。

 「もう……誰も失わないために、私は戦うの」

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