第57話 気まぐれ魔王の最悪な置き土産

 その宝箱の近くにある台座の上に設置されているオーブを蒼龍は掴んだ。

 彼の体に莫大なる力が流れて行く事が分かる。

 次の瞬間、タートルマウンテンより半分程小さい蒼龍が出現する。 

 体に包まる鱗は立派な蒼龍のもの、先程の小さい蒼龍より遥かに大きくなっている。

 エネルギーが溢れんばかりに咆哮を発した。

 びりびりと空間が痺れて行く中、蒼龍は人間の姿になる。



 それは青い髪の毛をしており青いちょび髭を生やしたナイスガイな男性であった。

 きっと普通の女性ならモテモテだろう、残念ながらここには普通の女性はいません。



「力が戻ったことに感謝を示したいのだ。これからも、リュウケン殿の盾と剣になる所存」

「それは助かるよ、信用の置ける仲間はとても大事だしね」


「それに白虎と朱雀の事も気になるのです。それは玄武も同じであろう?」

「うむ、おぬしのイケメンスタイルを見ると嫉妬してしまうが、そうじゃのう、わしも賛成じゃ」

「わすは基本的にモテモテではないですよ?」

「だから嫉妬してしまうのだよ」


 

 ちょび髭と老人の会話に、周りの普通ではない七つの大罪達が爆笑していた。

 


「お主が蒼龍殿なのか?」


 ボンバー魔王からボンバー少年魔王になった彼が尋ねていた。


 僕は右腕と左腕を組んでいた。もちろん透明な両腕となっている。

 そしてある事に気付いたボンバー少年の髪型が紅蓮の炎の色になっていた。

 しかも輝かしい炎の色なのだ。

 先程まで何色だったかは思い出せない、あまり意識していなかったという所もあるが、今更ながらに赤い髪の毛が輝かしく生えている所から見ると、名前と関係しているのだろう。



 両手の透明な腕をぶるぶると振るわせながら、ボンバー魔王には悪い事をしたと思っていた。

 


「ボンバー魔王よ、わすが蒼龍でございます」

「そうか、良かったな、元の力を手に入れて」

「そうです。皆さんのお陰です」



 なぜかボンバー少年はすごく大人びた発言をしていた。

 ちょっと前まで赤ちゃんみたいだったのに。

 成長とは恐ろしい物だと思った。

 普通の人間ではこんなに早く成長しないだろうが。



「ではこのダンジョンはクリアされたとなるので、まだ封印されている……」


 

 蒼龍がそう呟くと、七つの大罪達が周りの異変に気付いた。



「あらま、これはどうしたことかしら隠れボスならお仕置きしたいけど手加減してあげるわね」



 サリィーのツンデレ発言に皆がくすりと笑うと。



「ちいっと不味いな、闇の気配を感じる。それは大きなトラップだ」



 冥王ブランディ―が呟く、その声を合図にするように、このダンジョン全てに魔法が発動された。


 とてつもなく眩しい光が当たりを照らした。

 


 気付いた時、僕とベル様しかいなかった。

 場所はミリーシャ王国であった。

 そこではごく普通の平和な日常があったはずだ。

 しかしそこに次から次へとテレポートされてくる冒険者達。

 冒険者達は何が起きたのか理解に苦しむ顔で辺りを見回すと、それぞれが意見を言い合った。



「一体何が」


「ようは気まぐれ魔王が気まぐれトラップを作ったという事ね、ふぁあああああ、まったくあの魔王には頭来ちゃうね、恐らく、あそこから封印されている沢山のモンスターがここにテレポートしてくるよ、ベル様もあまりぐーたら言っている場合ではないね、リュウケンよベル様を地面に下しなさい」


 僕は驚きの表情をして凍り付いていた。

 あのベリーまたはベルが、1人で歩くと言っているのだ。

 空から隕石が落下してくるのではないだろうか?

 ちょっと前の戦いの時は自然に降りていた気はするが、いや気のせいじゃないか?



「お主はとてつもなくベル様に対して失礼な事を思っただろう」

「はい、思ってました」


「よろしい、お尻叩きするぞ」

「勘弁してください、では今降ろします」



 そこに立っているのはドワーフ族よりさらに小さい小人族であった。

 彼女はこちらを見て腕組みをする。


「お主は1人で大丈夫か?」


「仲間を拾いながら国の人々を守りますよ」


「ではベル様はちと野暮用があるのでな」


「気を付けてください、踏まれないように」


「ふ、それをベル様に言っていいのか?」


「いえ失礼しました」



 次の瞬間、ベル様は消えた。

 恐らくものすごく速く走ったのだろう。

 ベリーことベル様は言っていた。気まぐれ魔王と。

 つまりこのミリーシャ王国のパニックを引き起こしたのはゴミのダンジョンから色々と仕掛けてきた気まぐれ魔王の仕業だったのだ。



 1人で考えていると、ベリーの助言通りの事が起きた。

 次から次へとレベルが100以上のモンスターがテレポートしてくる。


 

 不滅の迷宮から普通に出てくれば、城壁の壁を利用して防げるのに、あいつらは壁を乗り越えてこちらにテレポートしてくる。恐ろしすぎる。


 きっと結構前から気まぐれ魔王はどこかにテレポートの原石となるものをミリーシャ王国に設置したと考えていいだろう。

 

 その作動ポイントが最後の宝を手に入れる物。



「くそ宝箱はどこにいきやがった」


 

 こんな時でも僕は平常心を保っていた。


「あまり連続で気分を変換させると酔っぱらうからなぁ」


「それでも手加減をして、人々を守れない方が嫌だ」


「なら、この魂の手ならぬ透明な手を利用して、片端から人々を救ってやるぜ」


「まぁ、まずは行動あるのみ」



 独り言のように僕は呟き続けていると、頭の中に溜まる怒りケージを増やしていくイメージをしていく。次の瞬間、俺様モードにチェンジしていた。



 巨大なオーガが巨大なハルバートを握りしめて、小さな子供に容赦なく振りかぶる。

 やはりレベル100以上での攻撃力で地面を抉る。

 子供は鳴き声を上げて、逃げようとするが動けないようだ。


 その背中を持ち上げる1人の少年、それが俺様であった。



「大丈夫か坊主」


 

 少年はショックのあまり言葉を失ったようだ。

 俺様は少年を家の影に隠すと、次の瞬間、跳躍していた。


 見えない右手と左手の先には神の剣と竜魔人の剣の二刀流であった。

 巨大なオーガはこちらに再び攻撃をしかけようとして、そのまま頭が落下した。



「ふん、お前に俺の攻撃が見えたかな? だって腕透明だもんね」



 1人が圧倒すると、冒険者達もそれぞれの得意技でモンスターを倒していく。


 その光景を見ながら、俺様は【絶対地図】を発動させる。

 これは鑑定したアイテムの1つだ。


 絶対地図には建物や人や生物、モンスター等が地図に表示される。

 あまりにも情報量が多いので、見分け方が難しかった。自分が見たいものだけをイメージすると。

 そこには仲間とやばいモンスターが表示された。


 仲間の配置的にやばいモンスターと遭遇するだろう。

 やばいモンスターは7体存在する。1人だけ人間なのに異常に強い奴がいる。それは不滅のダンジョンの近くで何かをしている。



 今更そこに戻っている暇はないのだが。


 その謎の人間がそこから消滅し、次の瞬間。


 背後にいたのだ。



 強烈な斬撃。


 それは破壊そのものであり、鬼神の如き所業であった。


 俺様は吹き飛ばされながら、そいつの顔を見ていた。


 まったくの感情を表さない化物。



 俺様は恐ろしくて鑑定眼鏡を装備する事が出来なかった。



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