第52話 幻覚の海の谷を抜け出ろ


 七つの大罪のサリィー、ネメ、ルシュフ、レイディー、ベリー、ゴーナ、サキュラ。

 冥王ブランディ―、玄武タートルマウンテン、蒼龍、ボンバー魔王の仲間達はひたすらモンスターを駆逐する作業をしている。



 サリィーの槍撃が10体の半魚人のようなモンスターを粉々に吹き飛ばす。

 その状態で天辺に槍を向けた状態で回転を始める。

 ぐるぐると回転しながら、その回転裁きに僕は見とれていた。

 サリィーの赤い髪の毛が修羅を表しているかのようだ。

 その竜巻にモンスターが次から次へと集まっていき、粉砕される。



「半魚人どもかかってきんさい、このあたしが人間代表としてお仕置きしてあげるんだからね、でも攻撃しないなら考えてあげなくもないんだからね」


 

 僕はその光景を見ながら笑いを堪えていた。

 こんな時でもツンデレとはきっと老後もツンデレで生きて行くのだろうと、この時の僕は思った。



「こんな時でもツンデレはやめてよね、もう、半魚人さん達は僕が食べてあげるんだから、喜びなさいよこんな美女ドワーフがあなた達を美味しくいただいてあげるんだから」


「あんたこそ人の事いえないでしょー」

「うるさいなサリィー、あんたは食べてあげられるの?」

「いえ、生では食べませんが」

「なら焼きなさい」

「そういう問題ではないと思うのです事?」


 

 そこに乱入したのは、レイピアを構えているルシュフであった。

 ルシュフは天空族の証の白い翼をばたつかせながら、2人の真ん中に入る。


 

 しかし四方を半魚人と大きな蟹のモンスターが3人を孤立してしまう。



「ったく、爺、あいつらどうにかしろ」

「こっちは巨大なエイがしつこくて助けにいけん、冥王ならいけるだろう」


「こっちは、沢山のタコが追尾してきて、ぶつかったら黒い毒の墨を浴びせられるからひたすら両断しているだけだ」



「まったく失礼あそばせ、姉妹たちが失礼しましたわねぇ」



 突然現れたのは、先程からモンスターを粉砕しまくっているゴーナ姉さんであった。

 彼女は【怒りの爪】で片端からモンスターを駆逐していた。

 モンスター達の断末摩は僕の所まで聞こえていた。


 

「うちも助けに行きます」

「レイディーあなたは後ろに下がっていて、あまり無理をしてはいけないわ、あなたの体は女性のそれだという事を忘れないで」

「ゴーナ姉さんの言葉はとてもありがたいです、でもうちは仲間を助けたいのです」

「そう言う事なら一緒に行きましょう」



 僕はそのやり取りをみていて少しぐっと来た。

 しかし七つの大罪が僕の抜けた穴を埋めてくれようと頑張っているのに、1人だけ何もしていない奴がいた。



 サキュラは全能魔女の力で箒に乗って空を飛行している。

 偵察という任務だ。



 なので結果的に何もしていないのは怠惰のベリーだ。

 本当に怠惰のごとく、背中で鼾をあげながらゆっくりと眠っていた。



「すーすーぐーーぐー」


「盛大に寝ているな」

【あまりカリカリするな、フェニックスの力はすごい力を使う、眠って力を温存しておかないといざという時にフェニックスの力を使用できないかもな】

「そこまでこいつは考えているのか?」



【そうだろうな、力を失って何も出来ないという後悔はしたくないものだ】

「それは蒼龍さんがそうであろうという事ですね?」

【いかようにでも考えてくれ、さて、そろそろ半分程進んだな、おぬしの力も戻ってきたのではないか?】


 

 僕は透明な両腕をぐーぱーぐーぱーしてみる。 

 先程よりかは動きやすくなっている。

 どうやら突然の最強な回復魔法での後遺症はなくなっているようだ。

 絶大なる力の回復魔法は魔法をかけられた人物の体に負荷を及ぼすのだ。



「蒼龍、ボンバー魔王をよろしく頼むよ」

【任せてくれ、でもこいつどんどんでかくなってるぞ、今では少年くらいか? 言葉もお前たちが話をしているのを見ながら学習しているようだ】



「それはそれで恐ろしい事だけど、よろしく」

【うむ】



 僕は心の中で立ち上がる。

 僕は俺様になる、俺様は僕になる、そして今の僕は俺様になるのだから。


 

 歩きながら顔つきが変化する。

 まるで好敵手を探す戦闘狂が表れたかのように、口元をにやりと釣り上げる。

 右手が5本、左手が5本、10本の透明な腕が出現する。

 その姿を見る事が出来るのは何かの力をもっているものと、自分自身以外は存在しない。



【前世最強】前世の力を一部開放。

【最強武芸】全ての武芸の達人。

【魔剣召喚】伝説の魔剣を召喚する事が出来る。

【魂の手】透明な手を出し続ける事が出来、前世等で助けた人々が魂の力を提供してくれる。



 スキルを発動しまくった俺様は悠然と歩く、

 9本の魔剣と1本の竜魔人の剣を装備しながら、地面に思いっきり踏ん張ると空中に向けて跳躍して見せた。右と左に分かれた海のさらなる上に到達した俺様はそのまま地面に向かって落下を始めた。



 地面では仲間達が唖然とこちらを見ていない事が少し悔しい、俺様がめちゃくちゃな事をする事くらい見破っているという事なのだろう。


 

 俺様は地面に着地すると、右と左から無数のモンスター達が出現しだす。

 俺様の攻撃では仲間を巻き込む可能性がある。

 なら、仲間がいない所に先に行き、そこで暴れて敵を減らしておく事くらいは出来るであろうと。

 俺様なりに小さい脳味噌を使って考えた。

 


 1人の青年が右へ左へと歩く、それはゆっくりと散歩しているようであった。

 それだけで10本の剣のリーチは伸びる事となり、敵が武器を握りしめて踊りかかってきても、次の瞬間にはばらばらに解体されているのだ。


 

 モンスター達は絶叫の声を張り上げてしつこく次ら次へと踊りかかる。



「君達には空中に浮かぶ10本の魔剣が恐ろしくないのかな?」


 

 それでもモンスター達は屍となっていくのを定められた運命のように地獄の階段を下っていくのだ。



「どうやら君達は俺様を気持ちよくさせてくれるようだ。そうだ俺様は沢山殺すのが好きだ。だが自分であってもう一人の自分がそれを許さない、ああああ、なんたるダンスなのかねパラダイスでも始めて見るかい?」



 俺様は無我夢中で踊った。

 体を動かす必要がないのに、まるでダンスでもするかのように、音楽は武器と武器がぶつかり合う音を耳がとらえる事。


 ひたすらひたすら殺しつくした。



 すると俺様が踊り終わると、透明な両手を万歳するかのようにした。

 そしてそこには巨大な何かが居た。



「へっへ、中ボスってやつかい?」



 鑑定眼鏡を使うとレベルが2000のモンスターであり、名前は。


【ネニョール:レベル2000】


 という感じだ。攻撃力などのステータスはさほど高い訳でもない。

 ただなぜか深々しい威圧を感じるのであった。


 俺様は自分のレベルを思い出していた。

 確か13000だったはず。こんなにこちらが有利なのに、なぜか相手から威圧を感じる。

 それは一体どういう事なのか、その時の俺様には理解出来ないところであった。



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