第33話 幼馴染との再会

 勇者山中が必至で泣き叫び続けていたら、

 幼馴染が目を覚ました。

 山中は度肝を抜かれて慌てて声を掛ける事にする。


「お前意識があるのか?」


「うん、両手と両足を串刺しにされて、何回も殴られた程度じゃ死なないよ」


「そ、それはよかった」


「死んでないなら、怠惰のベリーか傲慢のルシュフに回復させられるぞ」

「それなら、速く行こう」


「まずは玲子さんの磔状態を解除しよう」


 俺様と勇者で磔を解除した。

 玲子さんは短パンと赤色のシャツを着ていたが、

 その衣服はこの世界の物ではない事はすぐに分かった。


 両手と両足から血が流れていない事に僕は驚きを隠せない、

 彼女はゆっくりと歩いているが、それでも平気そうなのだ。


「落ち着いたら超能力の事について教えてくれ、俺様は君の事を実験とかするつもりがない、ただの社交辞令でいいからさ」


「うん、分かってるよ、タダシが見つけてくれた仲間なら、私は信用するよ」

「そう言ってくれて嬉しいよ」


 勇者山中は玲子を背負うと走り出した。

 玲子はきゃっきゃいいながら笑っている。

 まるで恋人同士にしか見えなかった。


 皆が地下街の中央部に到達した。

 そこには大きな鉱山があり、

 その鉱山の至る所に兵士達が気絶している。

 その周辺には沢山の奴隷達がこちらを見ている。

 その数だけでも数千は下らないだろう。


 まず玲子さんを傲慢のルシュフと怠惰のベリーに見せると、

 怠惰のベリーが回復させる事になった。


【青い焔の回復】を発動させたようで、青い焔が表れて、

 玲子の体を燃やすように全身にいきわたった。


「れ、れいこ」


「大丈夫だよベル様を信じて」


 ベルフェニックスのベリーであり、

 いつもは怠惰なベリーだが、

 彼女にとって命とはとても大切なものなのであろうと、

 最近の彼女の行動を見ていて思った。


 青い焔が消えて行くと、

 そこには生まれたばかりのような肌色の肌をしており、

 髪の毛のぼさぼさだったのがまるで高価なシャンプーを使って整えたかのようだった。


 玲子は自分自身の体を見て、

 怪我もなければ汚れもない、


「まるでお風呂に入ったみたい、すごく最高だよ、ぽかぽかしていて、とても気持ちがいいよ、これが回復魔法なの?」


「いやベリーだからこそ、ここまで出来るんだよ」


 僕が発言すると、

 玲子さんはにこりと頷いてくれた。


 僕がまた大きな声で勇者に尋ねる


「では奴隷達はどうするんだ?」


「それなら城下町に住んでもらうしかない、ある程度落ち着いたら元居た場所に返すしかないだろう、それをやるのはこの国の仕事だよ」


「しかし、この国の奴等は彼らをまた奴隷に」


「その為に僕たちは魔王を倒すのだろう?」


 俺様は唖然として言葉を失っていた。

 あれだけ引きこもりとか、生物を殺したくないと言っていた少年が、

 そのような発言をする。


「1体もモンスターも魔王も殺さない、全員ノックダウンして説教だ。言葉は通じないけどね」


「たぶん、俺様はモンスターと会話出来る。なんか自然にやっていたんだけどすごい事だったんだなぁ」


「は、はは、やっぱり君は凄いや」


 俺様達は奴隷達を1000人程解放し、次に国王を脅して魔王を倒したら奴隷達の住む場所を提供し家に帰らせる事、それを誓わせようと思っていたのに、

 俺様達は爆音を上げてはいけない所で爆音を上げたのだ。


 どうやら兵士が侵入者が来たと合図する為に火を付けた。

 その火がどうやら鉱山の隙間から流れるガスに引火したのだろう、

 その一部始終を遠くでも見ていた俺様は唖然とし、

 次に皆を逃がそうとしたが、

 大爆発が巻き起こる。


 そして鉱山そのものが動き出す。

 その鉱山はドラゴンだった。


 そう鉱山はモンスターであり太古から眠り続けていた伝説のドラゴンであったのだ。

 奴隷達は一生懸命太古のドラゴンの背中の鱗を掘り当てていただけであったのだ。


 地鳴りが響き、

 地響きが振動し、

 世界が終わる。

 俺様達はそう思った。


「普通なら逃げろって言うんだろうけど」


 俺様は1人で笑っている。


 後ろの奴隷達は我先にと地上に上がる扉に向かって行く、


「奴隷達は早く逃げてくれ、ここは俺様に任せてさ、みんなも死にたくないなら下がってくれ、ここは僕1人でもいい、いや俺様と僕で2人だけどな」


「そんな事を言うな、リュウケン殿には幼馴染を助けて頂いた恩がある。祖父がよく言っていた。してくれた事にして返す事、それが流儀だと」


「一応、私も超能力者ですごいんだけど、戦えるよ?」


 勇者山中と超能力玲子が僕の右に陣取ると、


「はっは、いつからオレはお前のへっぴり腰に従うかを決めた? こういう時はギブアンドテイクだ」


「わしはこのドラゴンをぶっ倒したい、そんな本能があるからのう」


 冥王と玄武がにかにかしながら、俺様の方を見ながら、

 親指を上げて、左側に陣取る。


「まったく、これだからあなたはヘタレなのですわ、そういう時は頼ってください、そうじゃないとあたし泣きますわ」


 憤怒のサリィーのツンデレ攻撃を食らいつつも、


「とりあえずお肉食べ放題で」


 暴食のネメはやはり食べる事だけを考えていた。


「殿方を導くのが女性の役目でございますわね、御姉さま」


「その通りよ、よく勉強しているじゃない、殿方が浮気したら半殺しにしなさい」


「はいですわ」


 傲慢のルシュフが体を伸ばしながら呟き、

 傲慢のゴーナはにこにことほほ笑むのみ、


 いつ見てもゴーナの衣服は破廉恥すぎる。

 胸と下半身を隠すだけなのだから、

 それを意識しないようにしつつも、


「はわわ、王子様が1人の人間としてどんどんと成長していくです」


「人は成長するものだよレイディー」


 嫉妬のレイディーと怠惰のベリーが呟くと、


 最後にるんるんとスキップしている女性がいる。


「早く倒したいなぁーこのドラゴンはとっても倒しがいがあるんだなぁ」


 色欲のサキュラはいつも通りの可笑しくなっていたが、

 気にせず、仲間達一同を見渡し、

 僕は目の前の敵を見据える。


【破滅竜:レベル20000】


 僕はそれを鑑定眼鏡で見ていた。

 次の瞬間には絶句し、ステータスもほとんどが異常なものだった。

 仲間達にレベルの事を伝えると、

 彼らは1人また1人と立ち上がり、

 叫ぶのだ。


【ぶっ倒してやる】


 どうやら俺様の仲間は馬鹿ぞろいばかりなのだ。


 僕と俺様は2人だけじゃない、その他にも一杯仲間がいる事を、

 再認識させられた。それが仲間を失う事であったとしても、

 仲間を信じる事がとても大事なのだから。

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