第2話 【憤怒】のサタンドラゴンは美女でした

 僕は俺様になる。俺様は僕になる、そして現在は俺様になる。


 今俺様が見ているのは、巨大な顎ではない、

 巨大な顎は確かに俺様を噛み千切ろうとしている。

 

 リュウケンはリュウケンという人間であり、僕は俺様であり俺様は僕なのだ。

 これは多重人格ではないという話だ。

 ただその時の気持ちが切り替わるだけ、

 そして記憶が切り替わるだけ、


 今俺様を支配しているのは前世の武芸の達人であった。

 巨大な顎はぶるぶると震えている。

 なぜなら俺様のいかした眼力によってびびっている。


 こちらはポケットから引っこ抜くものがる。

 それは爪楊枝だ。

 さきほどこの街を観光していた時に食べた甘味処で貰った爪楊枝であった。


 サタンドラゴンそれが奴の名前。

 爪楊枝を握りしめる訳ではなく、人差し指と親指で軽く握り、

 芸術の達人がごとく、

 一瞬でサタンドラゴンの大きな顎の真上をジャンプする。


 着地したまさにその時、走り出す。


 でこぼこの背中を走りながら、

 爪楊枝で翼のつなぎ目を串刺す。

 するとサタンドラゴンは悲鳴を上げる。


 宙返りしながら、地面に着地すると、

 サタンドラゴンはのたうつ、

 どうやら翼のつなぎ目が弱点のようで、

 ひたすら暴れ続けるそいつは、

 涙目でこう訴える。


「た、たすけてぇええええ」


「はい?」


 サタンドラゴンはどうやらメスであったようだ。

 爪楊枝でくし刺した場所がデリケートな場所だったらしい。

 これは失礼と言いつつ、爪楊枝を取るほど俺様はお人良しではないのだから、


 するするするとサタンドラゴンが小さくなっていく、

 それは驚愕と言っていいほどの小ささになると、

 サタンドラゴンではなく、1人の美女がいたのだ。


 まるで血のような真紅の髪の毛をしており、

 胸は貧乳でありながらも形が整っている。

 眉毛も赤くて濃い眉だった。

 赤いドレスを身に着けている。


「ひゃうううう、背中の爪楊枝をとってえええええ」


「どうしよっかな~」


「そそんあああああ」


「取って欲しいなら、何をしてくれるのかな?」


「仲間になる、というか仲間にさせてください、あなたが爪楊枝で戦う時点で面白かったのだから、ひゃううううう」


 俺様は赤い美女の言いなりになって、

 背中の爪楊枝を抜きとった。


 俺様の前世は武芸の達人とされていた。

 あらゆるもので戦う事が出来る、時にはスプーンで、時には箸で時には鉛筆で。


 それが最強お武芸だと、俺様は疑っていなかったのだ。


 そしてその時、ふんわりと俺様は僕になったのだ。


「あたたた、なんだか力が弱くなってきたような、そうだ。あなたの名前は? とても可愛いね」


「えええええ、ええええええええええええ」


「ええええという名前なんだね、すごい名前だね、ずっとゴミダンジョンにいたからじゃないかな?」


「ち、違います。サリィー・リリだぜ、憤怒のサリィーと呼ぶ事を許そう」

「ありがたく、憤怒のサリィーさん」


「ところで爪楊枝を取ってくれてありがとう、あそこの場所はドラゴン族にとって致命的な場所だから」


「そう言えば君を倒そうと思ったら、どんどんと攻撃的な自分になっていって」

「いやいいんだよ、気にすんなって、これから仲間になんだから」

「それはそれで嬉しいよ、そうだ。せっかくだから僕たちでこのダンジョンを攻略しようと思うんだ。それにこの階層のボスって君だろ?」

「そうだぜ」


「なんか僕はモンスターを仲間にしてしまったようだね」

「あたしは憤怒のサリィー、モンスターだが、レベルを超越したモンスターと思ってくれ、あたしの他にも傲慢、嫉妬、怠惰、強欲、暴食、色欲そしてあたしの憤怒がいるのよ、全員がレベルを超越したの、普通じゃあ、あたしをテイムする事なんて不可能なはずなんだけどね」


「まぁもしかしたら僕の隠された職業とスキルのせいかもしれない」


「そうかもね、今までここに来た冒険者たちはあたしが殺害してしまった人ばかりでね、誰もあんたのように興味を抱かなかったのよ」


「それは嬉しいんでいいのか悲しむべきなのか」


「それなら笑いなさい」


「あっはっは」


 僕はとりあえず笑う事にした。


 それからサリィーと一緒に冒険した。

 モンスターが群れてくると、サリィーが戦ってくれた。

 彼女は槍を使う事に長けている。


 いつまでもサリィー任せはいけないと思って。

 心に活を入れる。

 すると心が反応して、俺様モードに移行する。

 俺様になると自分自身が強くなった気がする。


 レベルはきっとまだ5なんだろうけど、

 ミノタウロスの斧の攻撃を避けたり、拳一発でノックダウンさせたりする。

 まるでミノタウロスの弱点を突いたかのようだった。


「ふ、やはり俺様は最強だぜ、ところでそこのサリィーお前の槍ってすごいな、その槍みたいな物ってどこかにねーのか?」

「えっと地下110階層に宝物庫があるから、行ってみる?」

「そうしようぜ、ここはまだ101階層だから、めんどい、強行突破だ。サリィー捕まれ」


「はいえええええええええええ」


 俺様はサリィーを背負うと、

 猛ダッシュで走り出した。

 ちなみにシャツ一枚、パンツ一枚の変態が走っているようにしか見えないだろう。

 驚異的なスピード、武芸に心得ている自分自身、

 僕である時の自分はすごく弱い、

 だけど俺様モードになると、自分はものすごく強くなる。


 本当に不思議な体験を今俺様はしているのだろう。


「ふう到着」

「ばかったれ、後ろから大群のモンスターが追いかけて来てるぞ」


「それでだ。俺様も馬鹿ではない、このまま宝物庫に入ってしまえばいいが出られなくなるだろう。という事でスキルって奴を見せてやるぜ」


 俺様は腰を低くした。

 サリィーは何かを始める気だと思ってくれたようで、少しだけ離れてくれる。


 そして俺様は前世で使ったスキルを見様見真似で使用する事に。


【乱舞無双】を使用した。

 

 拳を構える。拳に沢山の生命エネルギーが集まりだす。

 それはもはやマジックポイントなど関係がなかった。

 生命のエネルギーそのものを拳にまとわりつかせ、

 目の前に拳を解き放つ。

 レベル100越えのモンスター達30体が一瞬にしてチリと化す。

 

  

 無数の拳が無双のごとく乱舞する。

 拳の一発一発が非常に重たい拳であり、

 その飛竜のような攻撃に、

 次から次へとモンスターのチリが粉々に突き飛ばされる。


 そこには何も存在していなかった。

 沢山のモンスター達を拳そのもので破壊する。 

 そこにはステータスも何も関係なかったのだから。


 そうして俺様とサリィーは宝物庫の扉を開いた。

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