エピローグ 以洋、映画をラストまで見る
その晩、五度目となったあのDVDの上映を、
しかし、予想に反して
「おっかしいなあ。こんなに面白い映画なのに、なんで僕、眠っちゃったりできたんだろ……」
台所に入り、ふと振り返った瞬間、勝手口のガラスに人影が見えた気がする。
見間違えだろうか?
僅かに呆然とした後、
そこにいたのはやっぱり
『俺は入れないからさ』
幾分気まずそうに
だが態度が殊勝になった以外、見た目が全体的に少し黒ずんでいるだけで、それ以外は何も変わらない。
「君さ……なんで輪廻の輪に戻ろうとしなかったの? 道がわからなかったんなら、僕、手伝えるよ?」
しょんぼりとそう言った
『生まれ変わりたくなかったんだよ。俺はあいつの傍にいる。あいつが死ぬまではずっとついて行くんだ』
「なんでわざわざ……」
『愛があればすなわちそこには憎しみもある』
まるで
『愛と憎しみ、どっちが理由でもいいさ。俺はとにかくあいつの傍を離れないよ』
「じゃ、あいつが死んだ後で決めるわけ? あいつから離れるかどうか」
『もしかしたらな。その時には俺だって諦めがつくかもしれないし。けど、その時には俺はたぶんどこにも行けなくなってるだろ』
そう言って
この先、
そうなればもう
「僕のせいだ……。全部、僕のせいだ……」
『お前は俺に何もしちゃいないよ。これは全部俺自身のせいさ』
穏やかにそう口にした
『ありがとな。うちの母さんのこと、慰めてくれて』
『お前ってほんと、俺がこれまでに見た中で一番泣き虫な男だよな……』
やれやれと言いたげな声を
『あいつっていい奴だよな。お前のことをかわいがってくれるし、大事にしてくれるよ。お前ならその幸せをしっかり手の中に留めておけるさ。だから今後はもう二度と、別な幽霊に言われたからってビルから飛び下りたりすんなよ』
大きく
「うん、わかってる……」
『じゃ、俺は行くけど、ありがとうな。本当にありがとう』
何度も感謝を告げた後、
「
そのまま歩き出そうとした
「もし、気が変わったら、いつでも僕のところに来て。僕なら君を輪廻の輪に送ることができるから」
その姿が地面に溶けて消えてしまった後も、
「なんでまた泣いてるの?」
「
そのまま声を上げて
苦笑しながら取りあえずは
さて、火を止めるのと、この子とでは、どちらを優先すべきだろう?
「君ね……告白するときに泣きながら言うのはやめてくれよ。まるで俺を好きになるのが、相当に悲惨なことみたいじゃないか」
どうにも可笑しくてたまらない気分になりながら、
ついさっきの
愛が重みを増せば増すほど、憎しみも深くなるのだろうか。
自分と
それでも、もしも将来、自分の愛が同じくらいに憎しみに変わったとしたら、自分も
「わかったから、もう泣くんじゃないって。君はこの数日間てもの、涙で服が洗えるくらい泣いているんだから」
僅かに身を屈めた
「それで夜食に何を作ってくれたの? この香りは」
笑いながらそう言われ、
テーブルに鍋を運び、蓋を取った。
今夜の夜食は
鍋の中身を知った
泣き過ぎた目元をまだひりひりさせたまま、
「
まだ一口も食べていないのに、もう酒粕で温まったかのような温もりを感じさせる笑みを見せている
「……さっき、
僅かな沈黙の後、そう告げる。
「そうなの?」
「生まれ変わりたくないんだって。
言いながら辛くなって
「全部、僕のせいなんだ。僕のやり方がまずかったせいで、
「それは君の過ちじゃない。それだって
「でも僕は、本当なら
どれだけ悔やんでも、もう間に合わない。もっといい解決方法を思いつくべきだったのに、
結局は
そうすれば少なくとも
こうなったのは、
「
「この先も君はまだ今回みたいな件に何度も出くわすと思う。今度の件の埋め合わせをする機会はあるんだ。今回限りじゃない。だから、悲しんだり後悔することを焦るな」
「うん……」
微笑みながらの
「わかってる。気をつけるよ。もう同じ間違いは犯さない」
真剣な顔でそう答えたあと、もう片方の手も伸ばして両手で
「さっき言ったこと、僕は本気だから。本当の本当に、僕はあなたのことがとても好きだよ」
「だから、僕のことが面倒でないなら、僕がいつも幽霊を連れてあちこち駆け回ってしょっちゅうあなたに心配を掛けていても、それが気にならないなら、どうか僕と一緒にいてください。一緒にいられる時間が短くてもいいから……」
言っているうちにまた涙が出てきてしまう。
「二人ともそうしたいと思ってるんなら、一緒にいられる時間がどのくらいでも別に問題ないさ。心配しなくていいよ。たとえいつか一緒にいられなくなっても、互いに憎みあうようなことにはならないから」
「本当に?」
「そりゃそうだよ」
「君は悪意ってものを全然持たない子だからね。だから君が誰かを恨んだりすることはありえないし、それに俺だって君に負けないくらい君のことが好きなんだから、君を嫌いになる可能性なんてないよ」
僕はほんとに運がよくて、そして幸せなんだ。
ぎゅっと
一生、この手は絶対に離さない。絶対に
誰も嫌いになったりしたくなかった。誰かを、家族を、友達を、恋人を、愛すべき全ての人を、
特に、今、
将来の自分達がどうなるのかはわからない。それでも今この時、誰かを愛すことができるこの感覚を、
まだ誰かを愛すことができる。そして誰かに愛されることもできる。
それだけで
第六巻本編完
七巻の連載開始時に、タイトルを変更して連載を続行するか、別タイトルで新規に連載開始するかをまだ決めておりません。このため、しばらく「完結済み」にはせずに置いておきます。
七巻開始時には、当作品をフォローしている方にも伝わる形でお知らせいたします。
なお、ただいま原作の蒔舞先生が、示見シリーズの新版を台湾で出版するため、旧原稿のブラッシュアップ中です。ですので日本語版も、七巻以降はブラッシュアップ後の状態に合わせた翻訳を行うため、現在できている旧版に即した翻訳は、一次翻訳として保留状態になります。原作のブラッシュアップ完了後に、七巻の翻訳にもブラッシュアップを反映させての連載開始となります。どうぞお楽しみに!
蒔舞作品 台湾発BLホラーファンタジー 示見の眼シリーズ 第六巻 新しい日々 黒木夏兒(くろきなつこ) @heier
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