第六章(4)以洋、幽霊との約束を果たす
今夜は
とは言っても、そもそも
一緒に寝るんでいいよと、
しかし、せっかく寝床を融通してくれた
そもそもあまり想像もできないし……だいたい先輩達の方だって僕と
取りあえず笑顔で
カーテンを開け、更に掃き出し窓も開けて、
この家があるビルはそれほど高さがあるわけではないが、周りにも似たような高さの建物しかないので、視界を遮られることなく綺麗な夜景が楽しめる。ライトアップされた一○一が遠くに煌めいているのも見えた。
ベランダの柵はそこそこの高さがあったので、少し考えてから
ようやく柵の上に腰掛けてみると若干肌寒く、
もう一枚ジャケットを着てきた方がいいのかな? Tシャツにジーンズだけだとこの時間はちょっと寒いんだけど。
『早く飛べよ? なにぐずぐずしてんだ? やっぱ無理ですって言うんなら今だぞ? ごめんなさいって謝るんなら許してやらあ』
「なに焦ってんのさ? こんな綺麗な夜景も楽しまないなんて、人生ほんとに損したね」
一○一の明かりを指差し、
「僕も今年の年末は一○一の年越し花火が見える場所で新年を迎えるつもりなんだ。年越しイベントに行くのって初めてなんだけど、
『アホかお前は。お前のあの彼氏ってお巡りだろ? 年越しなんて一番忙しい時だろうが。花火見に行ってる時間なんかあってたまるかよ……』
「それもそうかも」
一瞬へこんだ
「君は行ったことあるの?」
「あったりまえだろ。俺が二十二、三歳になるまでは毎年見に行ってたさ……。ま、その後は
「あいつってほんっとにろくでもない男だったんだね」
しみじみとそうつぶやかずにいられない。
『……お前ずっとそればっか言ってないか? あんな野郎を選んじまったのは結局俺自身なんだぜ? お前が嘆く理由がどこにあんだよ』
「君は確かにあのろくでなしを選んじゃったし、人生の終わらせ方も最低のやり方を選んじゃったけど、それでも誰だってもう一度やり直す機会は持ってるはずだってのが僕の考えだからね」
真面目な口調で
『……いつまでもしゃべってんじゃねえよ。お前さ、結局飛ぶの? 飛ばねえの? 飛ばねえんだったらさっさとそこから下りて、ごめんなさいって俺に言いな。そしたら勘弁してやらあ』
思わず
「僕が飛んだら、もう後戻りはできないからね? 僕から離れるって、君は自分からそう言ったんだから。次の新しい人生に向かって歩き出さなきゃダメだよ?」
『……そこまで言った覚えはねえぞ? 俺が言ったのは単に、お前の身体からは離れてやるって、それだけだぜ?』
「君ってほんとに手間が掛かるね……」
『誰もお前に手間掛けてくれって頼んでねえよ! あれのこれも全部お前が自分で背負い込んでんだっつーの!』
「はいはいはい、全部僕のおせっかいですよ……」
口を尖らせて、やれやれと
『……んで? マジに飛ぶのかよ?』
「もちろん飛ぶよ。 飛べって言ったのは君じゃん?」
柵の上から外に向けて垂らした足をぶらぶらさせながら、どことなく愉快な気分でそう返す。
『……信じねえからな、俺は。お前が飛ぶなんて』
「信じなくってもどうせすぐに見ることになるって」
笑って
『ならなんか、遺言とか……、なんかまだやり残したこととか』
「んー……あ、……明日って冬至だ。結局また買い忘れちゃったよ……」
そう言いかけた時、後ろから震える声が掛けられる。
「
溜め息を吐き、申し訳ない気分で
「
「別に謝らなくていいけどさ」
この状況をまるきり無視するような明るい笑みを必死に浮かべようとしているのがまるわかりな顔で、
「寒冷前線が通過した影響で今日は気温が下がってるんだよ。そんなところに座ってないで、早く中に入りなって」
「先輩に見せるつもりはなかったんですが」
「なら早くそこから下りてくれって。吃驚させないでくれよ、
苦笑した
「僕なら大丈夫ですって、
なんとか
「あ~あ、DVDもまだ見終わってないや。それにやっぱりまた買い忘れちゃったし……」
「なんだって?」
がっかりした
「ほら、あれですよ」
つられたように
風が凄まじい勢いで
頼むよ、僕を守って……。
地面がどんどん迫ってくる。着地の前に
その寸前、
お前ってほんと……馬鹿な奴だよ……。
※夜景の中に聳えているビル「一〇一」について、近況ノートに豆知識を載せました。
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