召喚士、王命を受ける

 コロシアムのことは箝口令かんこうれいが敷かれた。

 そのため、ライトも重要人物として宿に軟禁されることになった。

 兵士たちを【絶対防御魔法:テツメタフ】で助けたこともあり、王室御用達の良い部屋を用意されているので居心地は悪くない。


「最高司祭様が俺を貶めた黒幕で、圧倒的な力を持つ黒い幻想英雄が出現して、ソフィが攫われて……これは何がどうなっているんだ……」


 様々なことが起きて混乱気味のライトに対して、一緒に軟禁されているリューナが声をかけてくる。


「プレイヤー、落ち着いてください。こんなときは焦ってもどうにもなりません」


「たしかに……そうだな……」


 ライトは大きなベッドに倒れ込んで、天井を見上げた。

 深呼吸して心を落ち着かせる。

 と、そのとき――


「それじゃあ、落ち着いたのならオレ様から重要な話がある!」


 ライトの顔面にクマのぬいぐるみ――レオーが乗ってきていた。

 普段ならはたき落としたいところだが、言葉の内容が気になってしまう。


「……レオー、重要な話って?」


「オレ様は、あの黒い幻想英雄を知っている」


「なんだって!?」


 ライトがガバッと起き上がることによって、結局レオーはポテッと落ちた。

 それでも気にせず話を続けてくる。


「オレ様が最初に言っていただろう? 目的をな」


「ああ、たしか――」


 ライトは、蠱毒の森でレオーと初めて会ったときのことを思いだしていた。

 そのときに『オレ様はある男を捜している!』と聞いた気がする。


「それが、あの黒い幻想英雄だったということか」


「そういうことだ。さぁ、大逆転のために赴くぞ! ライト姫!」


「ど、どこに?」


「まずは――この国の王のところだ」


 すべてオレ様に任せておけ、とでも言わんばかりのレオーであった。




 ***




 王室御用達の大きな宿の一室。

 ここは王侯貴族がリールの街に滞在するときに使用される場所である。

 豪勢な飾りや赤絨毯が敷かれ、まるで城にある王の間のようになっていた。

 そこにいるのはイズマイール王国の王や、それを補佐する大臣や宰相などの臣下たちだ。


「くっ、なんたる失態! 国の最高司祭が怪しげな召喚をして、第三王女ソフィ様を連れ去るとは……!」


「箝口令を敷いているが、人の口には戸を立てられぬモノ……すぐにでも広まって民の不安を煽ってしまうだろう……」


「それならすぐにでも騎士団などに招集を掛けて――」


「ならぬ! 最高司祭と国が争うことがあっては、さらに民の不安を煽ってしまうぞ! こうなれば、この街に滞在している冒険者――それも英雄の領域にいるランクの者に――」


「はっ、それくらい確認したわ! ギルド長からは『心当たりは二人だけいるが、今は連絡が付かない』と言われた!」


「じゃあ、どうすればいいのだ!? ソフィ様を見捨てるか!? それとも強引にでも――」


「……静かにしろ」


 臣下たちの騒々しさにうんざりしたような王が、一言そう告げた。


「し、失礼致しました……一番お辛いのは陛下だというのに……」


「どうにかして愛しい我が子を……ソフィを穏便に助ける手段はないのか……」


 王は椅子に深く座りながら、頭を抱えていた。

 顔は絶望が影を落としている。

 そのとき――部屋の扉が開かれた。


「失礼します」


「そ、そなたは!? 宮廷召喚士団長の息子――ライト!」


「はい、お久しぶりです」


 二人はすでに面識があったため、ライトは王に近付いて跪いた。

 王は複雑な表情をしてから、ライトにおもてを上げるように言った。


「ブルーノから事情は聞いておる。最高司祭の甘言にハマり、そなたを城から追放してしまった件は王として……いや、ソフィの親としても謝罪しよう。本当にすまなかった」


「お、王よ!?」


 王らしからぬ態度で深々と頭を下げたのを見て、臣下たちは慌てふためいた。

 しかし、これが人としてのけじめである。

 それを感じ取ったライトは、今までに見せたことのないような大人の表情で対応した。


「いえ、こちらも城の外で様々なことを見聞することができました。まだまだ未熟というのを思い知らされる日々です」


「そうか。そのことについては、また後日話したい。だがしかし、今は別件で手が離せず――」


「冒険者を探しているんですよね?」


「知っていたのか。ああ、それも普通の冒険者ではない。英雄の領域と言われる高ランクの――」


「王よ、このライト・ゲイルにお任せください」


「……もしや」


 全員の注目がライトに集まった。

 このタイミングで任せろと言うことは――


「冒険者ランク6の召喚士として、聖女姫殿下――いえ、大切な幼なじみであるソフィを救い出してご覧に入れましょう」


「なに!? ランク6だと!?」


「し、信じられるか!!」


 臣下たちは騒ぐが、ライトが冒険者許可証を見せると静まりかえった。

 その中で王だけは、最初からわかっていたかのように威厳を保ち続けていた。


「ふっ、ソフィと一緒によちよち歩きしていたそなたが……頼もしく成長してくれたな。……良かろう、ソフィ救出を命じる。これは王命とわきまえよ」


「はっ! ……それと頼みがあります」


「何なりと申せ」


「ブルーノを追放してください」


 その意外すぎる答えに、王ですらポカンとしてしまうのであった。

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