第29話-学園上位階級第三位-

 俺は学園長が去ってからも数分、その場で尻もちついたまま思考を巡らせる。

 

 さっきの学園長は何だったんだ。

 雰囲気がいつもと違かった。しかも、魔術討撃を自由に使えるようにもしてくれた。自ら悪役を買って。

 俺の本来の力を出せるように、学園長は色々考えてくれているんだろうか。

 それにしても、精神干渉魔法……恐ろしすぎる。

 あそこまで精神が崩壊するとは思いもしかなった。

 そして――


――ただ、我は気づいて欲しかったのだ。貴君の想いは紛れも無く、全て本物だった、と――


 学園長のあの言葉。あれが真実なら、俺は――

 取り敢えず、魔法訓練室αに戻ることにしよう。


「それにしても、訓練室まで意外に長いな。結構走ったのか」


 無我夢中で訓練室から出てきて走っていたから、全然距離を気にしていなかったらしい。

 リープもフィーネも心配しているだろうな。

 いきなり顔真っ赤にしてどこかへ走っていったし。

 ちゃんと謝らないと。

 そうして、俺は魔法訓練室αの扉前まで辿り着いた。

 ガラガラガラッと扉を開く。


「グリュン・フランメ! 貴様もチームを組んでもらうぞ!」


「僕に指し図をしないでくれないか。フリード教官」


――ざわ、ざわ、ざわ――


 俺が始めて教室に入った時とは違うざわめきが訓練室に反芻していた。


「おい、フィーネ。何が起きいてるんだ」


 俺はフィーネとリープがいる場所に素足さと移動した。

 ひそひそとフィーネの耳元で囁いた。


「ひゃあっ!」


 可愛い悲鳴を上げるフィーネ。

 耳を真っ赤にしたと思ったら、頬まで真っ赤に染まった。


「あきら! いきなり何するのよっ! てか大丈夫だったの?」


 ぷんぷんと頬を膨らませるフィーネは水泡眼みたいだ。


「俺のほうは大丈夫だ。ちょっとイザコザが合ったけどな」


「クラスメイトの一人が帰ってきましたの」


 気付くとリープが俺の耳元で囁いていた。


「ほわっ!」


 耳たぶがもの凄くくすぐったかった。


「どうしましたの?」


 慌ててリープの方へ振り向く。

 彼女は小さい足でつま先をして、背伸びをして囁いたようだった。

 その仕草一つ一つが可愛く見える。

「なっなんでもないですわ!」


 学園長との殺り合いの後にあんな話されたら意識しちゃうだろう普通……。


「貴様。担任の教官の指示を無視する気か」


「何か問題でも?」


 あの『鬼の教官(デーモンティーチャー)』フリード先生に反抗しているのは、背丈は俺くらいある男性だった。 目立つのは襟首が立って燃えているかのような紅の袖付きマントを纏い、真夏なのに、ピンク色のマフラーを首に巻いて口元を隠している。血のように赤い短髪で鬼のように鋭い深紅の眼差し。 メルベイユ学園は水色の制服のはずなのに、ワイシャツを覗いて全身真っ赤。

 

「これからクラスΩはチームとして行動してもらう事にしたのだ。従ってもらうぞ」


男性はちっと舌打ちをした。


「僕がチームだと? 雑魚どものおむつ交換は勘弁してもらいたいものだな。足手纏にしかならん。邪魔だ」


 しかし、鬼の教官が漆黒のオーラを漂わせ始めた。


「おい。あいつは何なんだフィーネ」


「クラスΩの特殊な問題児の一人、グリュン・フランメよ」


「いくらメルベイユ学園上位階級第三位とはいえ、その発言は撤回してもらおう。ガキが、図に乗るな!」


 辺りは一気に静まり返った。

 教室で説教されていた時のような雰囲気だ。

 誰もが、鬼の教官に対して逆らう事ができなかったあの空間。

 あの赤尽くめの男は平然と立ち向かっている。


「ウザイんだよ。僕は忙しくてそれどころじゃないんだ。おままごとは僕抜きでやってもらえないか。フリード教官」


 ひそひそひそ(これ何かヤバくない?)


 ごにょごにょ(フランメ君、脅威な敵に対しても一歩も引かないわ! かっこいいわ)


 ぶつぶつぶつ(私、押し倒されたら、もうそのままながされちゃうそう!)


 きゃーっきゃっー。


 相変わらずの生徒の反応だ。

 俺は、同じ男性がこの学校にいる所に興味があるのだが。


「あきら」


「ん?」


「彼だけは、絶対に関わらないで。絶対よ? わかった? 絶対の絶対」


「えー。ちょっとお喋りしてみたいじゃん」


「ダメ! お喋りしたら絶交よ」


「おけおけ。最低限度の会話は許してくれよな」


 フィーネは軽く頷くと、フリード教官の方へ目線を移す。


「実践を想定したチーム訓練をおままごとだと? 貴様の脳みそは節穴か」


「ふっ。おままごとじゃないとすればなんだ? お医者さんごっこか? 笑わせる」


「グリュン・フランメ。この私を怒らせたいのか?」


 フリード教官の魔力が魔法訓練室に放出される。

 漆黒の風がヒューっと室内全域に流れた。

 そして、建物は軋む音がバリバリと悲鳴を上げ始めた。


「興が醒めた。帰らえてもらう」


 グリュン・フランメはそういって踵を返す。


「待て、グリュン・フランメ! 勝手な行動は許さんぞ」

「なぁ――」


 踵を返したグリュン・フランメはもう一度先生に振り向き、


「――いい加減にしてくれないか。僕は堪忍袋の緒が切れそうなんだ。この場にいる生徒全員を殺ってもいいんだぞ?」


 それは悪魔の微笑み、鬼の快楽、犯罪者の顔とでもいえるのだろうか。

 

 グリュン・フランメは殺人の脅しをフリード先生にしている。

 さすがに生徒全員を守りながら戦闘は不可能と判断したのか、フリード先生は沈黙した。

 なんて恐ろしいやつなんだ。あのフリード先生を黙らせてしまうなんて。

 グリュン・フランメは退出する瞬間、俺を睨みつけてきた。


「――今回で終わらせる」

 と捨て台詞を吐いて、その場から姿を消した。

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