第18話- 小さい頃にお会いしておりませんか! -

 人々は運命の出会いというものを信じるのだろうか。

 運命。その一言だけで物事の解釈を終わらせるのは緩慢ではないだろうか。

 しかし、仮に運命というものがあるとしよう。

 そしたら俺は運命の出会いを二回も起きてしまったということになる。

 この場合も運命で片付けられるのだろうか。

 否、出来るはずもない。 いや、出来るのか?


 二人分の足音が誰もいない学園の廊下に寂しげに響き渡る。

 学園長から支給されたのは純白の半袖ワイシャツに水色を基調とした制服。

 柔らかく弾力性に富む生地。胸囲、胴囲、腰囲、肩巾、袖丈ともに完全にフィットしていて着心地はとても良い。

 まるで、俺がこの世界に来るのを知ってた上で準備をしていたかのようだ。

 まあ、あの学園長のことだ。魔法を使って一瞬で精製したのだろう。

 しかし、この制服。一見普通の制服に見えるが、斬耐性、突耐性、打耐性、魔力耐性、全てに置いて優れている代物らしい。

やはり、この世界で戦闘が行われているのはこのような制服から理解できる。


 先の一件で学園長が『では一目惚れしたライトニングに校舎案内を任せるとしよう。二人で色々見回ってくれ。あとな、保健室は空室にしておいた。ゆっくりと休んでも良いのだぞ?』と意味深な発言の後、少女に学園の案内をしてもらうことになって今に至る。

 しかし、俺の隣に並んで歩いている少女は先ほどの発言が恥ずかしいと思っているのか、さっきからずっと真っ赤なままだ。

 今の時間帯は授業中で廊下に人の気配はない。

 本当に俺たちだけしかいない世界に感じてしまう。


「えっと。名前はライトニングさんでしたっけ?」


「きゃっ!」


 少女はその場で可愛い声を上げ、金魚のように軽く飛び跳ねた。


「び、びっくりしましたわ。そういえば、自己紹介をしてませんでしたわね。わたくしの名前はリープ、リープ・ライトニング。リープと及びになって」


「リープさんか宜しくな。俺は如月煌って名前で年齢は一五歳だ」


「『さん』は入りませんわ。如月煌さんはあきらさんって呼んでもよろしくて?」


「リープか、改めてよろしくな。もちろんいいけど、俺も『さん』はいらない。あきらって呼んでくれ」


「で、でも……恥ずかしいですわ」


 真っ赤な頬を臨界点まで染めて首をふるふると左右に振る。

 それよりも、あの告白の方が衝撃的で恥ずかしいのだが。


「分かった。慣れたらでいいよ」


 ふわふわと髪を左右に揺らしているリープの横姿を見つめる。

 こうしてみると、正面で見た場合と違った感じだ。

 真正面ではお人形さんみたいで可愛い印象だったが、横姿では長い髪がミルクのような白いうなじを強調させ妖艶な印象だ。

 か細くて折れてしまいそうな碗脚はとてもしなやか。しかし、訓練を行っているからなのかその見た目とは裏腹に少しだけ頼もしく見える。

 そして、凛々しい目つきはまるで別人のようだ。

 だけど、やっぱり水色の制服と組み合わせるとリープはお人形さんにしか見えない。

 可愛い。 人って見た角度からこんなにも印象が変わるのか。


「あの、あきらさん! わたくしたち、小さい頃にお会いしておりませんか!」


 なっ――。

 ナンパの常套句じゃないですか!

 なんで目の前の金髪系美少女にナンパされそうになっている。

 しかも、一目惚れって言ってるし。


「えっと、俺、実は少し記憶喪失なんだ。小さいころに精霊界ベルディに来たことあるかは分からないけれども、記憶がある時はここじゃない世界で生活していたかな」


「そ、そうでしたの。勘違いなのかしら……」


「うん?」


「いえ! 何でもありませんわ。あきらさんは本当に異世界の使者なのですの?」


 瞳の翠玉を輝かせ、しかし頬はりんごのように染めながらも俺を見つめてくる。


「多分そうだと思うけど、異世界の使者ってそんなに珍しいのか?」


 俺は当然のような疑問を投げかける。


「使者によって様々なお方がいらっしゃいますけど、基本的に幸運のように恵まれるのは本当のお話でしてよ。わたくしの先祖が異世界の使者さんによって幸運になったと言い伝えられてますわ」


「えっまじかよ!」


 身近に異世界の使者に関わっている直系がいるなんて。

 一体どのように幸運になったのだろうか。


「詳しくはお祖父様しかご存知でありませんけれども……。魔法陣を増幅させる武器を残してくださいましたの」


 そういってリープは立ち止まり、肩にかけてある可愛らしいピンク色の花模様が入ったトートバックから、ひょっと金色の何かを取り出した。


「これですわ」


 小さな両手のひらに重々しく置かれてあるのは金色の拳銃っぽい。

 ぱっと見た感じ銃弾を入れる場所はなさそうで、銃口は指三本入るくらい大きさ。


 ――魔力増幅器


 俺はその銃器を手に取り、様々な角度から眺めた。

 とはいえ、これはどうやってつかうのだろうか。弾は入れられないし。


「これはお祖父様から頂いた大切な宝物ですの。友人にも触らせたことはないですわ」


「ん? 俺何も考えずに触ったけど、大丈夫なのか」


「わたくし、あきらさんを信用するって決めておりますの。だから大丈夫ですわ」


 何でリープは今日会った人をここまで信用しているのだろう。


「信用してくれるのは素直に嬉しいけど、会ったばかりの人を簡単に信用しちゃだめだぞ。もしも、俺が家宝を引ったくる裏の大魔王だったらどうする。どのくらい異世界の使者が神視されているかわからないけど、これからは気をつけて」


「えっ……そんなこと、考えていませんわ」


 リープは少し動揺したのか、ちょっぴりだけ悲しそうな顔をした。

 だけど、俺は続ける。


「それに、お祖父様からの大切な宝物なんだから、もっと大切にしないと、な?」


 俺は両掌に置いて、銃器をリープに差し出す。


「はい。ありがとう。俺を信用してくれて」


「い、いえ。どういたしまして。わたくしこそ、注意して下さってありがとう」


「じゃ学園の案内頼むよリープ。まだまだ俺の知らない事だらけだ。午前中の授業は休講でいいからって学園長も言ってたし」


「そうですわね。授業をお休みするのは久しぶりですわ。不良少年と少女みたいですわね」


 ふふふっとリープは笑顔で楽しそうに笑う。


「そうだな」


 俺も多分笑顔だと思う。 なにせこんなにも楽しいのだから。


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